公益財団法人トヨタ財団

助成対象者からの寄稿

助成期間の成果と気づき、そして農福連携を越えた根本的課題解決へ

都城三股農福連携協議会の活動として行った小麦の収穫
都城三股農福連携協議会の活動として行った小麦の収穫

著者◉ 岡元一徳(都城三股農福連携協議会代表理事)

[助成プログラム]
2019年度 国内助成プログラム[そだてる助成]
[助成題目]
認知症改善プログラム「農福リハビリ」の確立と新たな農福連携事業モデルの創造 このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
岡元一徳(都城三股農福連携協議会代表理事)

助成期間の成果と気づき、そして農福連携を越えた根本的課題解決へ

私たちが目指す独自の農福連携について

「農福連携」とは、障がい者の働く場所を創出するため農業分野での活躍を支援すること。

私たち都城三股農福連携協議会は、政策の定義である[ 農業担い手不足 × 障がい者雇用 ]という狭義な解釈を越えて、農の効果を活用した福祉課題解決を目指す[ 農の医療的、福祉的活用 ]という、独自の農福連携を創造してきました。

それは、作業能力や経済効果を目的にするのではなく、当事者との家族の課題解決に焦点を当て、共生社会の実現に向けて活動を行っています。

母の認知症介護から始まった新たな農福連携の試み

岡元いくさん
岡元いくさん

活動のきっかけは、私自身の境遇によるものでした。専業農家だった父が心臓疾患で急逝し、母のアルツハイマー型認知症が急速に進行、実家の農業経営が急速に悪化してゆきました。私は、母の介護、家業の支援のため介護離職し、郷里に24年ぶりのUターン移住を余儀なくされました。

「畑しごとがしたい」という母の想いを叶えるため、入居する介護施設に小さな菜園を設けたのが、活動の始まりです。菜園には、施設利用者に限らず近隣の高齢者も集い、笑顔と笑い声が絶えない空間となりました。 母は精神の安定を取り戻し、また車椅子の利用者が、除草作業による屈伸運動の効果により、自足歩行が可能になるほど回復するなど、複数の利用者に心身共に大きな変化が現れたのです。

閉塞感の漂う介護施設は、「農作業が出来るように」と願った母の一言から、賑やかなリハビリ空間に変化しました。それは、認知症の母親が、最後に私に与えてくれた活動のための小さなヒントになりました。

地域ニーズと現状のリサーチ、そして協議会設立へ

農作業の効果を上手く活用できれば、「認知症でも住み慣れた場所で、心穏やかに過ごしてゆけるのではないか」。母の介護の傍ら、自らオレンジカフェを主催し独自に調査を始めました。当事者のニーズや家族へのヒアリングでデータを収集し、約2年間必死に駆け回る日々が続きました。

これらの課題解決には、専門的且つ、業種を横断した連携が必要と考え、認知症疾患医療センターと介護事業所の賛同を得て、都城三股農福連携協議会を設立しました。

農作業による認知機能改善プログラムの開発と臨床での試験運用

介護事業所での成果を再現するため、軽度の農作業によるリハビリ・プログラム『農福リハビリ』を自ら開発。臨床・研究経験50年以上のキャリアをもつ認知症専門の精神科医監修の下、3期に渡り試験運用を実施。

国内でも、はじめて農作業による認知機能低下抑制のエビデンス採取に成功しました。

さらに副次的生産物として農福連携商品の開発と販売、啓蒙イベント、農福連携をコンセプトとした青果店の運営など、新たな農福連携の要素となる事業をひとつひとつ構築してゆきました。

農福リハビリ活動の様子
農福リハビリ活動の様子

農福リハビリのための「日本版ケア・ファーム」を目指して

そして、医療機関、介護事業所に次ぐ、第三の農園「日本版ケア・ファーム」の構築に着手。ケア・ファームとは、福祉先進国オランダで展開される認知症や精神疾患を抱える人、発達障がいのある子どもたちなどにデイサービスを提供する農園のことです。

フレイル世代は、単身者や高齢夫婦が多く、認知症の発見・初期対応が遅れがちです。初動の遅れは、急速な進行、体力の衰退、体調の著しい低下など、瞬く間に重度化へと進行して行きます。

こうした初期対応が可能な場所として、そして地域のサードプレイスとして、協議会によるコミュニティ空間が必要と考えたのです。

コロナ禍における事業推進と成果について

板橋区で行った自然薯栽培と、収穫後にハッピーロード大山商店街で行った販売会の様子
板橋区で行った自然薯栽培と、収穫後にハッピーロード大山商店街で行った販売会の様子

しかし、2020年春からのコロナ禍により、医療機関との接触は困難となり、認知症高齢者との『農福リハビリ』活動は、やむなく停止。また、市民参加型として計画した、みんなで作る「日本版ケア・ファーム」も、接触回避のため、外部参加を得ての実施には至りませんでした。

逆境の時こそ発想の転換は必要! と切り替え、“出来ることに全力を尽くす”を指針とし、以下をコロナ禍における目標としました。リソースを集中することで、コロナ禍でも想定を越える成果を得ることが出来ました。

これまでの研究成果を発信し、農福連携の汎用性を広げること
農福連携を所管する農林水産省 農福連携推進室と1年間の意見交換を行い、現行の農福連携政策に「農の医療的・福祉的活用」の要素が取り入れられました。『社会参加を促す効果』として反映され、申請要件の緩和と支援制度の活用範囲が拡張されました。

認知機能改善プログラムの更新と精神的変化の定量的・定性的評価軸をつくること
国内の研究機関に積極的にコンタクトを行った。識者によるプログラムの検証と、詳細な認知科学や心理技術を学び更新を完了しました。また、高齢者だけではなく、発達障がいの子どもたちを対象に臨床での運用実施。定性・定量的な評価を採取し2023年秋、学会にて発表予定です。

農福連携事業者ネットワーク基盤を形成し、活発な情報共有を行うこと
農福連携推進のためのノウハウやナリッジが不足していると判断し、Facebookにてグループ「農福連携ネットワーク このリンクは別ウィンドウで開きます 」を開設。現在、国内最大の農福連携SNSグループに成長し、全国約8,000名の参加者が実践のための情報共有や交流を行っています。

自然薯栽培時の記念撮影
自然薯を収穫した際の記念撮影

さらには、東京都健康長寿医療センター研究所ともに、板橋区社会福祉協議会と連携、いたばし総合ボランティアセンターにて都内初の自然薯栽培とそれを活用したプログラム運用を実施。そして、収穫物はハッピーロード大山商店街(板橋区)にて「いたばし農福連携キッチン このリンクは別ウィンドウで開きます 」を開催し、販売会を実施。800名を超える来場者を集め、都市と地域を結ぶ農福[越境]連携という新たな試みを生み出しました。

農福連携を越えて〜本質的な課題解決のために〜

コロナ禍による制限は、結果として私の想像力を刺激し、アイディアと推進するエネルギーを与えてくれました。そして、見えてきた本質的な課題解決のために農福連携を越えた事業に昇華することが必要であると教えてくれました。思考のレイヤーを上げて、「包摂的な社会のために何を行うべきなのか」を再考するタイミングであることを学びました。

顕在化するさまざまな当事者の課題と支援者のジレンマ

農福リハビリ「わらじをつくろう!」ワークショップ
農福リハビリ「わらじをつくろう!」ワークショップ

コロナ感染症急増の頃、当協議会に密着したドキュメンタリー番組 このリンクは別ウィンドウで開きます が、全国で放送され『農福リハビリ』についての取材が急増しました。また、全国のNPO法人や医療・福祉関連機関からの問い合わせも増加しました。

その関心の多くは、『農福リハビリ』が認知症高齢者以外にも効果があるのか? という点に集中し、これは、各支援団体が直面している深刻な状況と緊急の課題に起因していました。

子どもシェルターを運用する弁護士会より
保護されている子どもたちが、室内に閉じこもり接触できる人も居ないため精神的に不安定になっている。安全な環境と『農福リハビリ』プログラムで、心身のリフレッシュをさせたい、受け入れは可能か?

社会福祉協議会、地域包括支援センターの職員より
高齢夫婦が、20年以上ひきこもっている息子との生活に限界を感じている。コロナ禍で身動きが取れず、息苦しい毎日が続いている。農園の共同作業で気分転換し、作物を育てることで、心に癒やしを与えたい。『農福リハビリ』は、具体的にどのように運営すればよいか?

触法者を支援するお寺の住職より
受刑者が出所後の就職が出来ない。社会の対応と自分の人生にあきらめを感じている。寺の境内に農園を作り、集団生活と農業による経済的自立を支援しているが、逃げるように居なくなってしまう。『農福リハビリ』が、脳の萎縮した認知症高齢者にも効果があるのなら、若い触法者たちにも効果があるのではないか。是非、やり方を学びたい。


これらの事例は、多くの問い合わせから浮かび上がったものです。コロナ禍における接触制約が、さまざまな背景を持つ当事者、その家族、そして支援者によって課題を顕在化させました。これらの福祉課題は以前から存在していましたが、コロナ禍によりさらに深刻化し、解決策が必要とされています。全国には、さまざまな背景を持つ当事者とその家族、そして苦悩する支援者がこんなにも多く存在することを初めて知る機会となりました。

コロナによる接触回避は、人々のつながりを奪い、経済的な困難や孤独感から生じる思考の"歪み"がネガティブな方向に向かいます。その思考は、弱者から更なる弱者へと広がり苦痛と苦悩を抱える人を増やします。課題を抱える当事者は、社会的に弱い立場にある人々や生活困難者が多く、そのネガティブな思考が、子どもへの虐待やネグレクトなどに発展し、負の連鎖を生む。シングルマザーやひきこもりなどは、これまでの課題がより深刻化し、社会的孤立、差別、そして排除へとつながってゆきます。

私が、コロナ禍で直面したのは、苦痛と苦悩を抱え、解決策が見いだせない人々でした。そして、解決策を持たずに苦しむ支援者たちの存在もありました。

彼女は、「何」によって高校進学をあきらめたのか

同じ頃、貧困世帯の子どもを支援するNPO法人とのミーティングで知ったエピソードが、私のこれからの活動に大きな影響を与えることになりました。

訪れた相談者は、母親と中学三年生の女の子。ふたりは、高校進学についての悩みを抱えて団体を訪れました。初めは、経済的理由や学力の問題が関係しているのかと思いましたが、話を進めるうちにそうではないことがわかりました。別室で理事長が対応すると、母親は恥ずかしそうに話し始めました。「高校に通う方法が分からないんです」。母親も、その両親も、そして別居している夫も、高校に進学した経験がない。彼女たちにとって高校進学は未知の領域、どう対応するのか分からなかったのです。

団体では高校進学のサポートを約束しましたが、その後、連絡が途絶え、結局4月が訪れてしまいました。現在、その子は高校進学を諦め、スーパーでアルバイトをしていると聞かされました。母親は「高校は無理だ」と言い続け、彼女は進学への意志を失ってしまいました。娘を応援するどころか、彼女の夢を打ち砕いてしまったのです。彼女は、母親に求めるものを拒絶され、意見を受け入れてしまうしかなかったのです。

この話を聞いた瞬間、私は胸が詰まりました。女の子の気持ちを考えると、選択の余地のない決断に対して、無力感を感じました。そして、このような不運な輪廻を断ち切り、みんなが思いを遂げられるように、そして誰かの未来を制限しないために、私は何が出来るのか、ということを考えるようになりました。

当事者と自己肯定感、自分の幸福を創造するチカラ

しかし、この女の子の事例は、決して特別なことではないのです。認知症当事者も同様に、病気と隔離された空間を仕方なく受け入れ、自発的な行動を抑制され自尊心や自己受容感、自己肯定感がとても低い状態にあります。

つまり、多くの当事者は、自分の欲求や意志を拒絶され、また周囲の決めつけや一般的な概念の押しつけを受け入れて、本心から望むことを諦めるしかない状況にあります。そして、このような思考は、生活の中で無意識に繰り返され、自己評価を下げ、自分の人生に価値を見出すことができなくなってしまいます。積極的かつ能動的な行動が難しくなり、自分を限られた世界に制約し、未来に制限をかけてしまう。

人生の本質は、自分の目的や幸福を自ら定義し、それに向かって創造してゆくことではないでしょうか。失敗を憂いるのではなく、他者との比較に執着することでもない。自分の心の声に基づいて選択し行動する時にこそ、自己肯定感が高まってゆくのです。

農福連携と共生社会のために目指すべきところ

農林水産政策研究室にて三股農福連携協議会のスタッフと
農林水産政策研究室にて東京都健康長寿医療センターの医師たちと

現在の農福連携では、当事者の価値が平均賃金との比較や作業量によって評価される側面があります。対価や効率化を評価基準としてしまうと、農家の労働力として仕事を得ることが、その人の成功や幸福の上限となってしまいます。したがって、それを家族や周囲は強制すべきではありません。

作業効率や賃金の向上は大切ですが、当事者の幸福と直接的な関係はありません。賃金(お金)は幸福を形成するためのツールである一方で、経済効果ばかりが優先されると、解決のための本質を見誤ることになってしまいます。重視するべきは、農福連携によって、当事者とその家族の本質的な課題がどれだけ解決されたのか、ということなのです。

共生社会を目指す政策は、抽象度の高い理念に基づくべきだと考えます。健常者と同様の作業、同様の賃金が稼げることを目的とするのであれば、それは健常者側が規定する社会構造への一方的な同化に過ぎない。また、排除しないという理念が強制力となり、当事者を健常者と同じように統合しようとする動きにつながってしまう。それは、多様性を尊重した共生社会の実現から遠ざかるものです。

本来、政策の焦点は社会的課題の根本的な解決に置かれるべきです。講演やセミナーでは、社会構造は変わりませんし、マルシェで福祉制度は変わりません。“目的のための理念”、その“実現に向けた試み”、そして“当事者と支援者の行動”がなければ、世界は変わらない。新たな取り組みは、政策や既存の事業を参考にして構築するのでは無く、目の前に居る当事者の課題に焦点を当てて、その解決のために構築することがもっとも肝要です。

そのために、目的と理念を誤らずに掲げたい。それぞれの命に向き合った政策として、ひとりひとりが自分の人生を生きて、幸福のために進むべき方向を指し示して欲しいと願います。

自分の人生を生ききるために必要なこと

そして、私たちは、自分の人生をどのように生きるのかを決めることが重要です。政策や制度は、人生の指針ではなく、セーフティネットやサポートとして機能するものです。現在の状況がアンフェアな境遇・環境であっても、社会の圧力に負けず、他者と比較して落ち込むのではなく、自分の価値観を理解し、自身の幸福を把握し、それに向かって進む姿勢が大切です。

認知症の母は、介護施設での生活を受け入れられず「脳が壊れたから、私は馬鹿だから…」と言っては、自分を貶め、思いどおりに行かない人生の最期に苛立ちを感じていました。しかし、母は自分の幸福を知っていました。そして、それを懸命にリクエストしました。自分は農業を愛し、それに勤しむことが、最高の幸福だということを精一杯求めました。小さな菜園でも、農作業を始めると土を触ることに涙し、全身で喜びを表現しました。入院していても亡くなる直前まで畑に出て、幸福を感じることが出来た母は幸せだったと思います。

人は加齢や疾患、障害などによって、意図せず心身的な制約に直面することがあります。その時、大切なのは、失った機能や出来ない事に焦点を当てて、他者や社会概念と比較し、自分のことを惨めに貶めるのではなく、自己の価値観を理解し、自身の幸福を把握し、それに向かって進むことです。そして周囲はそれを全力で応援することです。

そのような、みんなが自分の人生を自分らしく、充実して生きることができる共生世界の実現に向けて、私たちは進みたいと思うのです。

私たちの目指す農福連携を再定義する

認知症介護勉強会
認知症介護勉強会

『ひとりひとりが自分らしく生きて行ける地域と環境づくり』
上記の活動理念のもとに、協議会では活動を行っています。

その中心となるソリューションとして、農作業による認知機能改善プログラム『農福リハビリ』を開発しました。このプログラムは、農作業と心理技術を融合させたもので、当事者の自己評価と自己肯定感を向上させ、認知機能の改善により「当事者とその家族の苦悩と苦痛を緩和する」ことを目的としています。

当プログラムは、安全で開放的な農園環境で行われ、農作業にシームレスに組み込まれた機能訓練プログラムとして、多様な背景の当事者に効果のある汎用性の高いプログラムです。臨床研究を通じて得られた成果をもとに、認知科学に基づいて分析し、その結果をもとに3年の期間をかけて更新しました。プログラムでは、当事者の否定的な思い込みや自己評価を下げる要因となる思考のクセ、そして脳機能のメカニズムを学び、その当事者の「信念」がどのように形成されたのかを理解します。そして、無意識となってしまったネガティブな考えに対処するため、農作業を通じてアプローチすることで、心的抵抗も少なく心身の変化を促します。

現行の農福連携政策と異なるのは、作業効率や賃金などの評価を優先するのではなく、当事者の課題解決を重視しています。なぜなら、当事者の心の変化や意識が改善されない限り、作業効率や賃金に焦点を当てても、当事者の根本的な問題は解決していないからです。私たちのプログラムが目指すのは、障害や疾患にかかわらず自己の存在と能力を肯定する経験を得て、自己肯定感を高め、当事者自身が納得し、生きがいを感じられる人生を生きるための契機となる体験です。

それは、当事者の思考の変化が、当事者自身の人生を変化させるための第一歩だと、私たちは考えているからです。このようなプログラムだからこそ、農福連携の枠組みにとどまらず、より多くの当事者へ届けるために新たなアプローチを始めました。

農福連携を越えた新たな取り組みへ

農福リハビリ研修会
農福リハビリ研修会

コロナ禍を経験し、私たちは農福連携の新たな可能性を見出しました。目的を再構築し、そのための機能と役割を再定義することにたどり着きました。 当初は、当事者の課題解決を主な目的としていましたが、コロナ禍によって、介護者や支援者の課題も浮き彫りになりました。そこで、私たちは、農福連携を越えて、共生社会の実現を目指す新たな取り組みを開始しています。

その取り組みの一つが、介護者支援のためのプログラムの提供です。『農福リハビリ』の更新で得た認知科学の理論を応用し、介護者および家族向けに開発された認知科学に基づく思考のメカニズムを通じて、当事者とのコミュニケーションや向き合い方を学び、介護者と家族が抱える心理的負担を軽減し、介護に関わる人々をサポートすることを目的としています。このプログラムは、既に定期的な勉強会を通じて、地域の介護者や家族に提供をはじめ毎回、多くの受講者にご参加いただいています。

また、支援者が直面する課題解決手法も開発を進めています。この手法は、認知科学の視点から、支援者が抱える課題に対処するための方法論を構築したものです。具体的には、活動するNPO法人やボランティア団体を対象に、当事者支援に必要な要素を明らかにするためのヒアリングを行い、そのための手法をプログラム化しました。

組織全体が理念を共有し、協力してミッションを達成してゆく方法や、人材を育成し、次世代のリーダーを育てる方法など、多くの支援者が抱える課題に対処するための方法論を構築したものです。これらの取り組みは、すでに多くの人々から共感と期待が寄せられています。今後も、より多くの人々に届けられるよう、積極的に展開していきます。

ひとりひとりの思いが遂げられる共生社会へ

私たちは、これまでの活動を通して、多くの当事者が、自分自身の価値や幸福を大切にせずに、目的を曖昧に生きていることに気づきました。自分の目的や幸福が漠然としていると、自分らしくない人生、または望まない人生を生きてゆくことになります。

当事者は、本意では無い周囲や社会が定めた価値観や枠組みに染まり、他人の期待や評価に合わせて生きてしまうこと。そして、無意識のうちに他人にもその価値観を押し付けてしまうことも少なくありません。農福連携においても、当事者を健常者都合の制度や仕組みを当てはめることがしばしば見受けられます。善意の行動であっても、相手の意向を無視した一方的な包摂は、当事者のオプションやチャレンジの機会を奪うことになりかねない。政策や制度を盾に、相手の背景や意向を無視し、排除していることと同義となってしまいます。

2022年2月に勃発した戦争は、正義の名の下に他国を侵略し、支配しようとする行為です。この行為は、各国の利害に基づいて正当性を主張し、相手を傷つけ、命を奪うものです。自国の利益や正義のために、他人を殺し、相手国の死と悲しみの上に建てられる国益や幸福に、意味はあるのでしょうか。

私たちは、支援する立場として、戦争と同じような構造にならないように留意する必要があります。自身の主張を確立するために他人を傷つけ、一方的な支配になってしまう可能性があることを理解して、支援のための行動を心がけるべきなのです。社会の規則を遵守しながらも、個々の夢や志を追求し実現する余地は必ずあるはずです。私は支援者として、ひとりひとりの独自の意志を尊重し、その実現に向けて支援を行うことを心に留めて活動して行きたいと思います。

私たちは、『ひとりひとりが自分らしく生きて行ける地域と環境づくり』のために、「ひとりひとりの尊厳が守られ、自分の人生を生ききるための支援を行うこと」を目指して前進します。

都城三股農福連携協議会の活動として行った小麦の収穫

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.43掲載(加筆web版)
発行日:2023年10月19日

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