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WEB特別版

JOINT29号 インタビュー3「都市内農園を多様な人々が気楽に付き合える空間にしたい」

JOINT29号 インタビュー WEB特別版3新保奈穂美

聞き手:新出洋子(トヨタ財団広報)

[助成対象者]
新保奈穂美
[プロフィール]
東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻博士課程修了後、筑波大学生命環境系助教
[助成題目]
多文化共生型コミュニティガーデンの社会実装に向けた実証研究

※本ページの内容は広報誌『JOINT』に載せきれなかった情報を追加した拡大版です。

 
市内農園を多様な人々が気楽に付き合える空間にしたい

新保奈穂美(右)と新出洋子(トヨタ財団広報) 新保奈穂美さん(右)と新出洋子(聞き手・トヨタ財団広報)

──幼少時代から研究者としての現在までの経緯を教えてください。
子どものころは何でも好きにやらせてもらいました。ゲームや漫画が好きでしたし、兄や近所の男の子たちとバスケットボールもよくしていました。あとは地元が浦和なのでサッカーを見に行ったり。兄がやっていた進研ゼミを私もやりたいと言ったりもして、勉強は楽しんでいたように思います。地元の公立中学に行き、県立高校に行くつもりだったのですが、学校紹介の本で見て憧れていた筑波大附属高校もいいなと思って受験したら合格してしまったので、入学しました。

高校には頭のいい人が沢山いて挫折を味わいつつも、予備校でいけるのではといわれたこともあり東大を受験したところ理科二類に入ることができました。理科二類を選んだのは物理が苦手で生物が何となく好きだったので、それなら理科二類かな、と思ったという程度でした。三年生に上がるときに農学部かな、その中でもどの学科にしようかという時に、人数が少なくてレア感がある緑地生物学専修を見つけ、しかも緑のことをやるというのが楽しそうに思えて、進学先に選びました。とはいえ、あの時どうしてそれを選んだのか今となってはあいまいなのですが(笑)。

授業では横張真先生による緑地計画学の授業がとても面白く内容に惹かれて、ここが大きな転機となりました。ヨーロッパの緑地の歴史の紹介がされて、最終的に今日本でどうなっているかというような内容だったのですが、毎回先生に質問をしに行き、他のどの授業より真面目に受けていました。オーケストラをやっていることからヨーロッパに憧れがあったこともあり、半分興味本位・半分本気で先生にヨーロッパに行きたいと言い続けたところ、大学4年生の時にデンマークのコペンハーゲン大学で先生が講師として関わられるサマースクールがあるから来ないかとお誘いいただいて、世界中の大学から学生さんが集まるサマースクールに参加しました。そのついでにウィーンを見せていただきました。ウィーンにある都市内農園、クラインガルテンというのですが、その研究をしてはと先生に言っていただいていたので、実際に現地を見て、そこからいろいろ始まった感じです。上半身裸のおじさんが本を読んでいたり、お花に水をあげていたりするのを見て、しかもそんな素敵なお庭が市中心部から地下鉄やトラムで10分くらいで行けるところにあるので、こんな生き方があるんだなとカルチャーショックを受けました。研究者になることを選んだのは、横張先生との出会いが大きかったと思います。もちろん研究室は先生のところを選びました。

ウィーンで受けたショック以降、「農」を通じて「よい生き方」を考えたいと思い、このクラインガルテンについて研究したいと強く思うようになりました。しかし修士になったときにウィーンで研究を続けるにしても、頻繁に行くことはできないですし、行ったとしても研究のイロハもわかっていなかったので、うまくいかなくなりました。その時に先生にまずは研究の基礎を学ぶために研究対象を日本の事例に変えることを提案されました。でも海外でやりたい気持ちが強くて最初は納得できず、悔しい想いをしながらも日本の事例を見て回っているときに日野市にある地域住民の方が運営しているコミュニティガーデンにたどり着きました。そこのメンバーの方と一緒に雑草取りをしていたら、当時かなり落ち込んでいた気分が明るくなりました。

研究者らしくない発言ですが、理屈ではない何かが農作業にはあるかなと。誰でもできるけれどもやった後には効果が出る、植物は応えてくれる。今の世の中はすべてが高度化していて自分のやったことが何かになるという感触を得るのが難しいと思うのですが、植物は少し手をかければそれに応じて実らせたり枯れたりします。この、自分がしたことに対して素直に反応がみられることに勇気づけられました。さらに日野の皆さんは私の素性をご存じなくても全く分け隔てなく接してくださって、すぐに受け入れてもらえたというのも印象的でした。この時から真剣にコミュニティガーデンのような空間が社会においてどのように役立つか調べようと思いました。なお、一度あきらめたウィーン研究は、博士課程1年次にウィーン工科大学へ留学したときに実現しました。

プロジェクト協力者の先生方や生徒とのピクニック プロジェクト協力者の先生方や生徒とのピクニック

──プロジェクトの協力者は?
現場の方や大学の先生方、その他国内外問わず沢山の方にいつも支えられていますが、助成プロジェクトに関しては同じ大学の雨宮護先生がとても大きな役割を果たしてくださっています。約1500平米あるこの場所(ミューズガーデン)を前任の先生から借りて多文化共生ガーデンの実験をできるよう調整もしてくださいましたし、共同研究者にもなってくださっています。もちろん、実働部隊として学生さんにも大変助けられています。さらに最近ではヤギを貸してくださる近所の農家さんや茨城大学の安江健先生にもご協力いただいています。

都市の農のなかでも現在コミュニティガーデンに着目している理由としては、コミュニティガーデンが近年なぜ世界で同時多発的に増えてきているのかという疑問があります。社会的な流れであるんだろうと思いますが、それを解き明かしたいと思っていました。資源循環や震災復興に対する役割などを調べていましたが、そうするうちにたまたまオーストリアのグラーツという街で見つけた多文化共生型のコミュニティガーデンに出会い、移民や難民の方と既存住民が理解しあえる場所になるんだなと可能性を感じたので、それを日本でもやってみようとプロポーザルに書き、トヨタ財団の助成をいただきました。日本も急速に外国人の方が増えていますからね。

はじめはこの多文化共生ガーデンはそこまで深刻に社会に必要とされるほどにはならないかなと正直思っていたのですが、現実が思いのほか早く近づいてきている感じがしています。よくある、団地でのゴミ出し問題とか、パーティーの音がうるさいとか、スパイスの匂いがきついみたいなことも、互いを知り合えればある程度解決できると思っていて、そのきっかけとしてガーデンはよいのではと思っています。大学の中にまず作ったのですが、大学は普段から留学生と日本の学生は近しく接しているため、比較的日常交流にも抵抗がない特殊な場所です。今はさらにハードルの高いと思われる、外国人が多く住んでいる一般の団地でガーデンを作ろうという話が進行しているところです。

──特に苦労したところなどは?
現在取り組んでいる多文化共生ガーデンの実験はアクションリサーチ的に取り組んでいるので、どういう風に進めるかをあらかじめ決めづらいところがあります。どうしたら多様な人が来るのか、というのがひとつ実験で解き明かすポイントなのですが、意外と人が集まらないというのが一番苦しかったです。コアのメンバーの学生さんは授業として取り組んでいるのでよく来てくれるのですが、それ以外の学内の方や地域の方を巻き込むのが難しいです。いま来ているヤギは沢山の人をガーデンに呼び寄せるための一つの策で、当初の予定にはありませんでしたが、ご縁あって実現することになりました。

このようにやりながら状況に合わせて柔軟に研究計画を変えているので、きちんとしたデータのもとに研究論文としてまとめられるかという不安はあります。出来上がっている事例を調べるのは調査や評価の方法を事前に十分検討できるのですが、今回は調査内容の設計が難しく、実験結果をどのようなデータで表すか、どのように評価するかというセオリーが定まっていません。新たな人を巻き込んでいくうちに誰に対してどのような調査をするのか、その方法もどんどん変わってきてしまいます。ヤギ招聘などはまさにやりながら思いついたことで、確かに多くの人がきたのですが、さあそれをどういうデータで表していこうか、前の状況とどう比較すればよいかなど……とはいえ、楽しいです。

JOINT29号 インタビュー WEB特別版3新保奈穂美

──モチベーションになっていること、研究する上で心掛けていることは?
研究のおかげでいろいろな国に行っていろいろな人の生き方を見ることができています。違う文化があっても最終的にはみんな同じようにガーデニングをしているのを見て、人間みんな一緒なのかもしれないな、とか。農的な活動と根本的な生き方のつながりを世界中で見ていくのが楽しいです。

心掛けているのは他の人があまりやらないようなことをやりたいということでしょうか。 ドイツ語を習得してドイツ語圏を調査することにこだわっているのもその理由です。あとは素直に楽しいと思える生き方が提案できるような研究をしたいです。

──今後どのような社会になっていくことを期待していますか、そのなかでご自身はどんな役割を果たしていきたいですか。
多様化している社会でいろんな人が共存共生していくことが大事という風潮になってきていますが、みんな同じ人間なんだなという風に思えて、気楽に付き合っていけるような社会になっていけばいいなと考えています。

日常のなかで知り合うきっかけがあれば多少の文化の違いは乗り越えられる気がします。これに向けて私ができることはコミュニティガーデンのような空間をつくっていくことかな、と。ガーデンがすべてではないですが、きっかけになる場所をセッティングできる方法やノウハウを、研究を通じて提供できればいいなと思っています。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.29掲載(加筆web版)
発行日:2019年1月25日

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