公益財団法人トヨタ財団

助成対象成果物へのレビュー

『地域新電力─脱炭素で稼ぐまちをつくる方法』書評

2018年度研究助成プログラムの成果物として発行された書籍について、石原慶一氏(2021年度国際助成プログラム)に書評をいただきました。


『地域新電力─脱炭素で稼ぐまちをつくる方法』

〈書籍情報〉

書名
地域新電力─脱炭素で稼ぐまちをつくる方法
著者
稲垣憲治
出版社
学芸出版社
定価
2200円+税

〈助成対象者情報〉

[助成プログラム]
2018年度 研究助成プログラム
[助成題目]
地域活性化事業の地域内経済循環評価手法の確立と評価ツールの開発 ~自治体の新たな文化を創造する~ このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
稲垣憲治

【書評】地域新電力開発の課題解決

執筆者 ◉ 石原慶一(京都大学大学院エネルギー科学研究科)

[助成プログラム]
2021年度 国際助成プログラム
[助成題目]
持続可能な循環型地域経済のための財政支援プログラムの構築 このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
石原慶一(京都大学大学院エネルギー科学研究科)

第二次世界大戦以前は水力発電所を中心として多くの電力会社(1937年時点で731事業者)が存在していたが、戦時中の配電統制令で電力会社の統廃合がなされ、9電力会社でほぼ全国をカバーするようになった。そのおかげで、大規模電源開発が容易に行えるようになり、また全国津々浦々まで電力供給が可能となり、高度経済成長の一役を担った。規模の経済を考えると、至極当然のことである。ところが太陽光発電など再生可能エネルギーはエネルギー密度が小さく、規模の経済が成立せず、さらには市場開放の波を受け、電力小売の完全自由化が2016年に行われた。さらに2020年には送配電部門の独立が行われ、平等に送配電ネットワークの利用が可能になるなどの一連の電力改革が行われた。

東日本大震災とそれに伴う福島原子力発電所事故を契機に再生可能エネルギーが注目され、特に太陽光発電を中心として日本中の至る所で再生可能エネルギー開発がなされている。この勢いはカーボンニュートラル宣言もあり今後も継続することが予想される。地域で作った電力は周辺地域に供給する方が、電力網に売電するよりも経済的ではないかと誰しもが思う。また、これと並行して電力自由化が進められ、電力の一般小売業も認められるようになった。小売電気事業者は本書によれば2021年12月現在721事業者が登録されており、シェアは20%を超えている。その多くは他業種からの参入であるが、地域新電力と呼ばれる業者も少なからずある。再生可能エネルギー開発が早く進んだドイツでは自治体がエネルギー供給を担うようになっている。日本でも多くの自治体が水道事業を手がけており、顧客情報や料金収集システムを既に有しているので、その延長として電力事業を捉えることも可能と思われる。

しかし、地域新電力の現実は甘くない。多くの地域新エネルギー開発は大手企業によりなされ、その電力は都会へ搬送され、利益も地域外にもたらされ、地域への貢献は固定資産税が自治体に支払われる程度である。地域新電力は、経営基盤が軟弱な上に、再生可能エネルギーは安定しておらず、不足する際には高額な電力市場から調達しなければならないこともある。電力事業だけでは大手電力に太刀打ちできない。そこで、老人見守りサービスなど、自治体ならではのサービスを合わせて提供することにより顧客満足度を得て、地域の雇用創出、地域経済への還元など地域に貢献する、地域に密着した電力事業を営むところが出てきている。

本書は、74の地域新電力を徹底的に分析し、成功要因にとどまらず、地域新電力特有のリスクについてその克服方法を考察し、地域電力特有の課題解決に重要な指針を示している。著者は東京都職員として再生可能エネルギー普及を担当した経験を活かし、単なる学術的な分析に留まらず、行政の立場からの実効性のある視座は他に類を見ない。地域新電力の関係者やこれから地域新電力をと志す人たちには必見の書である。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.42掲載
発行日:2023年4月17日

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