トヨタ財団広報誌JOINT49号の特集では助成対象者による鼎談を、
参加者のひとり鈴木 瞳氏の活動地である愛知県の東栄町にて開催しました。
当日はトヨタ財団のスタッフと助成対象者のお三方の他に、
東栄町観光まちづくり協会の方々にもご参加いただき、
自転車を利用したガイドを通して東栄町の魅力を素肌で感じ取ることができました。
ここでは、参加していただいた助成対象者である楠瀬慶太氏に東栄町での二日間を振り返っていただき、
当日スタッフが撮影した写真とともに東栄町をご紹介したいと思います。
※JOINT49号掲載の助成対象鼎談「育てる、つなぐ、続けるが『まもる』こと」はこちらからご覧いただけます。
日常と非日常-花祭を核とした観光まちづくりに学ぶ―
◉ 楠瀬慶太(高知工業高等専門学校ソーシャルデザイン工学科/高知工科大学地域連携機構 )
地域祭礼は住民の非日常の楽しみであり、誇りであるともに、住民や出身者のつながりを確認する集落結合の場でもあります。2025年夏、トヨタ財団の鼎談企画「地域をまもる〜持続可能な社会を次代につなぐ」で愛知県東栄町を訪れた2日間、集落を回り、話を聞く中で地域祭礼の意義を再認識しました。
東栄町など奥三河には、鎌倉時代から続くと伝わる「花祭」(国指定無形民俗文化財)が各集落で今も行われています。花祭の現場を見学したわけではないですが、住民の方の話や展示施設での解説を聞くと、花祭に登場する「鬼」たちは地域の子供たちにとってスターであり、各集落で異なる「鬼」を見分けることができるとのこと。また、大人たちも集落の花祭に誇りを持ち、1年に1度の祭礼を心待ちにしているそうです。各集落で特徴を異にする花祭の祭礼は、日常の中にも常に存在し、前近代から続く「ムラ」の個性を象徴するものとして今も色濃く地域の核を成していると感じました。
私の生まれた高知県香美市には、「いざなぎ流」(国指定無形民俗文化財)と呼ばれる民間信仰があります。2017年には、名古屋大学でシンポジウム「花祭✕いざなぎ流 ―神楽のなかの祭儀・呪術・神話―」が開かれるなど、両者の神楽の共通性や中世神道との関係性が比較されてきました。香美市でも町部で育った私は、大学院生時代に村落調査を通して、「ムラ」の暮らしの実態を始めて知りました。住民同士の顔と顔が見える関係性や、集落ごとに信仰する氏神(神社)があり、集う場としての祭礼があることに憧れを抱いた記憶があります。一方で、過疎高齢化によって長く伝えてきた文化が消失の危機にあることも実感し、その後新聞記者として地域の実情を伝える仕事をするきっかけにもなりました。
東栄町では、観光まちづくり協会が中心となり、地域資源を活かした「観光まちづくり」に取り組まれ、集落ごとの地域資源を見つけていく集落地図づくりも始まろうとしています。地域を見つめ直すことで、新たなものを創造していこうという若い方々の想いには感銘を受けました。非日常の花祭は地域資源の核ですが、それ以外の日常の中にもたくさんのムラの個性を象徴する人やモノ、場所、歴史などが存在しているはずです。「観光」と「まちづくり」という、一見相反するような事象が組み合わさることで、地域を再発見して発信していく取り組みがさらに進んでいくことに期待します。















