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情報掲載日:2026年10月16日
DAY2
ものかたり

五城目に美術館はありませんが、ちゃんと美術を鑑賞できる機能を町に提供してくれていると高橋さんが紹介する「ものかたり
」へお邪魔しました。
ここを2016年に立ち上げて以来、運営を担っているのは元五城目町地域おこし協力隊の小熊隆博さんです。小熊さんは築100年を超す空き家を改修して「ものかたり」を作り、作品の展示や販売、ワークショップ、講演などを行う場を提供しています。
今でこそ多くの人が訪れる場所になりましたが、五城目町の人にとって、ギャラリーは当初見慣れないものだったといいます。しかし、県外から訪れる美術関係者や美大の学生が増えたことで、地域の人びとも次第に生活のなかに「ものかたり」から発信される文化を楽しむようになりました。
2024年には、町のあちこちを回遊しながらアーティストの永沢碧衣さんの作品を鑑賞できる企画展を行うなど、町全体を美術館になぞらえる試みも行っています。
市とコージ

ものかたりから歩いて1分程度の場所にある、2024年6月にオープンした1日2組限定の宿「市とコージ
」を外から見学させてもらいました。
周辺には宿泊施設が極めて少ないことから、小熊さんが地域の企業と協力し、空き家の改修を行って作った宿泊施設です。ここには旅行や視察で五城目の町を訪れる人たちや、五城目の学校へ教育留学で滞在している家族が暮らすように泊まる施設として利用されているそうです。
私たちがうかがった日も、海外から学生一行が来て宿泊していると聞きました。
貸し棚おうみや

「市とコージ」を後にし、歩いて2分程度の場所に位置する「貸し棚おうみや
」に移動しました。元は自転車屋だった築80年の建物を改修したとあって、土間というにはとても贅沢な広さのスペースがあります。「町の人たちが気軽に集まれるリビングを作りたい」という思いから、運営する八嶋美恵子さんはテーブルと椅子を置き、いつでも誰でも立ち寄れる場を作っています。
八嶋さんは、のちに夫となる医師の漆畑さんとともに学生時代から秋田に通い、地域の人たちとの関係をつくってきましたが、結婚を機に2021年から五城目に移住しました。翌年からは五城目町の集落支援員に就任し、その後「おうみや」も始めました。
一見したところ、集落支援員と「おうみや」の運営は二足の草鞋に見えますが、根はつながっているといえそうです。住民が元気に暮らすためには、対話の生まれるコミュニティづくりが欠かせません。そこで、「おうみや」のように地元の人々が集い、交流し、何気なく人とつながる場所が必要になります。建物のオーナーには、「最後まで建物の責任を取ります」と固く約束をし、2年かけて納得してもらったうえでオープンに至ったそうです。
「おうみや」は朝市通りに面した絶好の立地にあり、食事の持ち込みをOKにして、自由に寄れることを謳っています。とはいっても、単に開いているだけでは人は入って来ません。そこで、お裁縫教室やイラスト教室、ウクレレ教室などを行い、あえて目的を作ってメリハリをつけています。
また、貸し棚も「おうみや」では重要な役割を担っています。ここは単なる展示スペースではなく、町内外の人がつながることができます。「趣味の棚」は1000円/月で借りることができ、自分のおすすめアイテムや本を展示したり、貸し出ししたりすることができます。「ショップ棚」は2000円/月で借りられ、店舗を持つのが難しい場合にも、気軽に商品販売ができるスペースです。遠方の出展者が朝市の時にここを訪れ、お客さんになった人と顔を合わせて交流を行うという事例も生まれているそうです。
五城目小学校

高橋さんが五城目に移住したきっけかけは、お子さんの教育留学にありました。そのことを知った参加者から希望が上がり、急遽視察先に組み込んだのが「五城目町立五城目小学校
」です。この日はあいにく学校の中に入ることができなかったため、向かいの小山に上り、全景を見渡すことにしました。説明をしてくださったのは、五城目で地域活動をする丑田俊輔さん(シェアビレッジ株式会社
代表取締役)です。
同小学校は建て替えが決まってから3年の時間をかけ、関係者や住民を交えてのワークショップを繰り返したそうです。そこでは、どのような学校にしたいかが話し合われ、みなで合意形成を取りながら一歩ずつ物事を決めていきました。
そんな五城目小学校の特徴の一つは、学校を子どもたちの学びに閉じなかったことです。町全体の社会教育の場として、自然と学校に人が集まるつくりと機能を持たせました。たとえば、町の図書館を学校内に併設したこと、大人も通える「五城目みんなの学校
」を設け、全講座無料でさまざまな社会教育を行っていること、そもそも学校に塀がないことなどです。
もう一つには、「あるものを使う」という方針です。プールや校庭、駐車場は隣接する施設をそのまま利用し、新たに作らないことでコンパクトな学校にしました。将来の人口の推移を見据えて、使い続けられる規模にしたことにより、建設費も通常の学校でかかる半分以下に抑えることができました。
他にも印象的だったのは、窓を南向きではなく、あえて北向きに設計したことです。それを提案したのは、地元出身の若手建築士だそうです。五城目町のシンボルとして親しまれる森山を校舎の窓から毎日見て育っていけるように、という思いからです。
行政や事業者主導では経済合理性が優先されがちですが、将来も長く使い続ける場にしていくために、住民同士で時間をかけて作られた学校であることが分かりました。
シェアビレッジ町村

明治期に建てられた築140年を超える茅葺き古民家を活用した、共創型コミュニティ兼宿泊交流施設の「シェアビレッジ町村
」を訪れました。
町村地域は、町村の「町」が市場の「市」を意味するように、五城目の朝市発祥の地という由緒ある地域です。学校の先生をしていたオーナーがこの古民家を地域の子どもたちのために残してきましたが、いよいよ解体されるという直前に、丑田俊輔さんたちが運営メンバーを組んでシェアビレッジとして再生させました。萱の葺き替えは一人の職人さんに入ってもらいつつ、住民や関係人口の人たちの手で行っています。
ここで見つかった古い地図を見ると、五城目が馬場目川の流域に位置し、人や物資が集まる集落と交易の中心地であったことが分かります。都心から離れた五城目が移住者や関係人口に開かれている根底には、かつてより外部の人との交流が行われていた町の風土があるのではないかと思われました。
森山ビレッジ

全部で5棟からなる「森山ビレッジ
」は、木材の3Dプリンターともいわれるデジタル化工機「ShopBot」で作った住居です。半径30キロ圏内から切り出した木材を使い、丑田さんたちが組み立てて造りました。5つの棟はそれぞれ1軒ずつ独立しているものの、屋根で一つにつながっているところが構造上の特徴の一つです。
仕組みにおける特徴は、分譲せず、組合による協同所有にしている点です。日本では上物はすぐに価値を失うことに加えて、全国の別荘地が示すように、地方では建物の所有が次世代への重荷になることが懸念されます。そこで丑田さんたちは協同組合を作って資金を出し合い、足りない分は地銀から借りて建て、管理も組合で行っています。シェアビレッジ町村が古い茅葺き屋根であるとすれば、森山ビレッジはいわば、「新しい茅葺き屋根(シェア)」です。
さらに、土地はたくさんあるものの、可能な限り敷地面積を抑えたコンパクトな作りにした点も特徴として挙げられます。「小さくして町に出る」を掲げ、足りないものは町の中で代替しようという考えです。たとえば、本を読んだり仕事をしたりしたいならば、町の図書館やシェアオフィスに行く、というように。こうして自然に町に出て人と交わる設計がなされています。
ちよだ五城目交流館

旅の最後は町の中心部に戻り、「ちよだ五城目交流館
」にて昼食を取りながら2日間の振り返り行いました。大正元年に建てられたこの建物は、オーナーさんから借り受けて民間交流施設として利用しています。
代表理事の齋藤一弘さんと、同会館でテナントとして「秋田五城目 五目餃子しろや
」を営む小玉明美さんにお越しいただき、会館やお店の運営をどのように工夫して続けているかについて、高橋さんとともにクロストークにてお話していただきました。
この時に自然と思いだされたのは、前日に聞いた「あること(to be)」です。小玉さんはご自身のお店がいかに利益を生むかではなく、何事も地域全体の暮らしのあり方から発想し、実践していらっしゃることがうかがえました。
小玉さんが提供してくださった昼のお弁当のお米は、五城目の富津内で採れたあきたこまちで、山菜も知り合いの方から購入したものです。お漬物は、500年続く五城目の朝市が続いてくことを考え、朝市で販売する本間ミネ子さんから購入したものということでした。顔とお名前の分かる方から購入して、生態系を含めた関係を大切にいただくという営みが行われていました。
今回の企画の背景と、ウェルビーイングの概念整理については、高橋さんのnoteをご参照ください。
ウェルビーイングの分からなさ|改めて「ウェルビーイングとは何か?」
おわりに

最後に小グループに分かれて2日間の所感を述べあったところ、五城目の風土から生まれる営みに感動したこと、住民の五城目への愛を感じたこと、あるものを使い、モノを所有ではなく共有すること、長い時間をかけて話し合って決めるプロセスがとられていること…などが共通して参加者の心に強く残ったようでした。これらは生態的処方、郷土愛、ポスト資本主義、ダイヤローグといった、さまざまなキーワードと結びつけて考えられ、一つ一つの感想が大きなテーマに発展しうるものでした。
ウェルビーイングとは何かについては、一つの答えに収斂するものではなく、多様な視点の往復の中でこそ、次の問いが見えてくることを確認しました。
今後もトヨタ財団は、対話と学びの機会を通じて、よりよい社会のあり方を考える取り組みを続けていきます。
事前準備や現地案内で裏方に徹してくださった、松下政経塾インターン46期生の石藏武士さん、JICA海外協力隊グローカル実習生の大西拓也さん、橋本珠和さん、太田周作さん、五城目集落支援員の竹内大知さんにも、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。
参加者の一人、いたやゆかりさんのnote記事もぜひ併せてご覧ください。
秋田・五城目で考えた「ウェルビーイングな地域デザイン」—油を売る暮らし、生態系のような町















