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JOINT39号 WEB特別版「立場とセクターを超えた活動─佐渡島森里海探究プラットフォーム企画チーム」

JOINT No.39 WEB特別版

立場とセクターを超えた活動
 ─佐渡島森里海探究プラットフォーム企画チーム

JOINT39号の特集座談会では2021年度国内助成プログラム「自然共生の価値創造に取り組む共創プラットフォームの構築」(佐渡島森里海探究プラットフォーム企画チーム)の一人として、豊田光世さんにご参加いただきました。今回お仕事の都合上タイミングが合わず、残念ながらご参加いただけなかった同チームの共同代表である長島崇史さん(プロジェクト代表者)と、斎藤紗織さんのお二人に、活動に込める強い思いをおうかがいしました。

※本ページの内容は広報誌『JOINT』に載せきれなかった情報を追加した拡大版です。


長島崇史(ながしま・たかし)
◉長島崇史(ながしま・たかし)
探究する地方公務員。新潟大学在学中に佐渡でスギの研究をする。最近は「学び」に関心がある。お米が美味しくて佐渡に移住した。
2021年度国内助成プログラム「自然共生の価値創造に取り組む共創プラットフォームの構築」プロジェクト代表者。

─プロジェクト運営で意識していることは?
一度は自然界から姿を消したトキの野生復帰を目指して、佐渡での放鳥を開始してから10年以上が経ちました。しかし、トキの野生復帰や環境共生の分野で活動をはじめる若者があまり見えてきません。今の学習は、子どもの学びにはなっていますが、実践者である「アクター」の育成にはつながっていないのだという気がしています。

本プロジェクトでは、今ある課題に対してクリエイティブな対策を生みだしていく「探究」マインドあふれる社会の実現を目指しているのですが、そこで掲げる「探究」は、アクターを養成する際のひとつの鍵になるのではないかと考えています。自分の内発的な動機で調べ、深める探究学習は、知識だけで終わらない行動のモチベーションとなり、次世代のアクター誕生へと繋がっていくと思います。

─今後やってみたいことはありますか?
そもそも佐渡島内でどういう人が何をしているのか、アクターの全容を把握できていないという状況があるので、まずはその現状を調べ上げることが必要です。個人がなんとなく知っている「暗黙知」をデータベース化していきたいです。また、それとは別に有機的に人が繋がるような場の重要性も感じています。人と人が出会い、話していくうちに新しいものが生まれる場。そういう化学反応が起きる楽しい場をつくれたらいいなと思います。

─活動のきっかけとなったものはありますか?
佐渡の生物多様性はすごいと思います。たとえば田んぼの畔に足を踏み入れるとたくさんのバッタがものすごい勢いでピョンピョンと飛んで逃げていく。自分の出身地では経験したことがなかったので、大変驚きました。

その背景には、農家さんが草刈りが大変だといいながらも畦に除草剤を撒かずに農業をする、プライドのようなものが見えてきました。そのように頑張る人たちを見ていると、環境のことを考える大切さに改めて気づかされます。やはり、環境のいいところで作った米は美味しいですよね。環境は私たちの生活に直接関係するのだということを実感して、活動をはじめました。

─今後の活動についてひとことお願いします
私もなにか地域に貢献したいという思いがあり、佐渡に移住しましたが、本業だけではできないことも多くありました。しかし、今回のプロジェクトのような取り組みは、思いのある人たち同士で集まり、モチベーションが原動力になって進んでいくので、スピード感もあって想いを実現できる。このことが私の中でのモチベーションになっていますし、このような形で社会に貢献できることがあると気がつきました。

地域が元気であるためには誰かが頑張る必要があると思っています。口だけではなく、行動に移す必要があると思いますし、自分もそのような人になりたいと思っています。私自身は今、行動するために足を踏み出したという状況です。そういう意味で、このプロジェクトは私の「探究」でもあります。一緒に新たな一歩を踏み出す人を増やしていきたいです。


斎藤紗織(さいとう・さおり)
◉斎藤紗織(さいとう・さおり)
佐渡市公立小学校教諭(理科教育学)。中学校時代に佐渡に移住した際、佐渡に惚れ込み、「一生ここに住む!」と決意。現在、自身が代表を務める「佐渡科研究会」で「佐渡島だからできる学び」を探究中。

─前回のプロジェクト活動で感じたことは?
私は、2020年度国内助成(しらべる助成)の「みんなでつくる探究型地域学 ―多様な世代がつながる学びの場づくりをめざして」というプロジェクトの代表を務めていました。その取り組みを通して、佐渡ではさまざまな自然共生の取り組みがされているにも関わらず、各団体が繋がっておらず、情報共有も十分にはできていないという現状が分かりました。

情報があれば、もっと子どもたちの教育にもいかすことができます。佐渡にある自然を知ることは、佐渡の子どもたちが世界で通用する人物になる鍵だと感じています。子どもたちのためにも、繋がりながら情報発信をしていくことで、取り組みが見えやすくなるといいなと思っています。

─地域や活動を持続可能にするために心がけていることは?
地域をサステナブルにしていくためには、やはり人材育成が必要だと考えます。私の住む集落には、若者がやりたいことを地域の人にプレゼンする面白い文化があるのですが、そこでいい提案があると、集落の人が取り組みを支援してくれます。次世代にチャンスを与え、それで失敗しても絶対にけなさない。

それから、集落の人は前向きに行動する人が多いです。若者はその姿を見て吸収し、自分もできるようになる。このように育った若者は、上の世代がいなくなったときに、不安だけどやってみよう! となりますよね。こういう循環が環境分野でも起これば、人が育ち、持続可能な活動になっていくのではないかと思います。

─活動のきっかけとなったものはありますか?
小中学生時代は大阪の中心部で過ごしました。いろいろあってすごく辛い時期だったのですが、佐渡に転校してきて、海を眺めていた時に「あれが水平線か!」と、本で読んでいた知識と現実が繋がりました。雷に打たれたような衝撃で、「生きるのっておもしろいかも!」と思うことができました。自然に助けられた経験をしているので、この場所や自然を守りたいし、恩返しがしたい。これが自分のモチベーションの原点だと思います。

教員という仕事を選んだのも、美しい自然を守ったり、居心地のいい地域を作りたいという思いからです。公教育の教員は、次の日本をつくっていくことが大きな仕事だと考えています。

とはいえ、学校教育に収まらないけれどやりたいこともあり、それは学校の外で実践しようと思っていますので、どちらもやりたいことをやっているという私のスタンスは変わりません。

─実践と研究の連携の意義をどのように考えていますか?
公教育の場にいるというのが、私の価値の一つだと思っています。教員であることで、実践してみて、それがうまくいったかどうかフィードバックもできるのが強みです。

でも、たとえばいくつもの事例をメタ分析的に並べてみるというようなことは私たちにはできません。そのような点で研究者は必要だと思っています。取り組みをブラッシュアップしていくには、片方だけでは難しいと思います。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.39掲載(加筆web版)
発行日:2022年4月20日

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