公益財団法人トヨタ財団

特集記事WEB拡大版

JOINT35号 WEB特別版「国内助成プログラム オンラインでのスキルアップや深化をめざす」

JOINT35号「国内助成プログラム オンラインでのスキルアップや深化をめざす」

オンラインでのスキルアップや深化をめざす

国内助成プログラムでは、助成対象となるプロジェクトのフィールドを、暮らしや仕事などの身近な環境である「地域社会」にフォーカスしていることを踏まえ、選考や助成対象者のフォローアップに関する取り組みは、一堂に会しての開催や現地への訪問など対面でのコミュニケーションを重視してきました。また、トヨタ自動車株式会社の協力を得て2016年度から実施している「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」についても、講師と参加者が複数のグループに分かれて直接ディスカッションする形式を初年度から踏襲し、成果発表会までの連続講座として開催してきました。

今年度は、新型コロナウイルスの影響を踏まえ、いずれもオンラインに切り替えて実施していますが、対面で実施していた時の良さを損なわずに、オンラインによる新たなメリットなどをどのように加えていけるかは今なお模索を続けている最中です。今回は、その一端をごく簡単ではありますがご紹介させていただきます。

トヨタNPOカレッジ「カイケツ」
本講座は、「代表者に仕事が集中する」「業務効率を改善したい」「業務品質のばらつきをなくしたい」といった、事業を進めていく上で発生する問題を解決していく力を身に付け、NPO等が社会課題を解決する担い手としてより大きな成果を達成できることをめざし、トヨタ自動車株式会社で実践されてきた「問題解決」のマネジメント手法を段階的に学んでいくプログラムとなっています。

今年度も第1回講座はどうにか対面式で開催ができましたが、マスクの着用、消毒や換気の徹底などのため、講師や参加者にも負担やストレスが掛かっていたと思います。
2020年度も第1回講座はどうにか対面式で開催ができましたが、マスクの着用、消毒や換気の徹底などのため、講師や参加者にも負担やストレスが掛かっていたと思います。

講座の構成は、「問題解決」手法の全体像を理解する講義を皮切りに、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」など8つのステップについて、講師から出される課題を基に参加者が取り組みを進め、各回の講座では取り組んだ結果を持ち寄って、講師だけでなく他の参加者を含めたグループ内でのディスカッションを通じて学びを深めていくステップとしています。

2020年度の開催にあたっては、例年どおり5月開講として参加者の募集などの準備を進めていましたが、4月の緊急事態宣言も踏まえ、開講を1か月後ろ倒して6月に、成果発表会は年末年始を挟む日程のため1月末に開催するスケジュールに変更しました。また、第1回講座はどうにか対面での開催が適いましたが、第2回以降の講座はオンライン(Zoom)開催に移行し、予定どおり年内に第5回講座まで進みました。

オンライン開催への移行にあたり、特に悩ましかったのは、やはり対面式で感じることができる「臨場感」の部分でした。本講座では、基本的に各回の講座内でのインプットや学びが深まるよう、講師や他の参加者と活発なディスカッションを行い、事後の個別質問などは極力控えてもらうよう促してきました。これまでであれば、同じ空間に集うことで講師と参加者全員が同じ温度感や一体感を持って進めることができていた側面も多分にあり、オンライン講座ではその点で常に不安が伴いました。また、講座自体は複数のグループに分かれて進行するため、他のグループの参加者とは取り組み内容を逐次共有することなどは難しかったものの、講座の休憩時間や終了後の時間を活用して交流を図る姿も見られていました。

第5回講座までの状況を振り返ると、「臨場感」という点では必ずしも同じようにはなっていませんが、一方でオンライン開催による新たな良さや気づきなども出て来ています。例えば、ある講師は、従来は講座の中でホワイトボードを活用して参加者へのフィードバックやヒントを出していましたが、それに代わるものとして、参加者から事前提出された課題への資料を踏まえて、フィードバックやヒントにつながる参考資料などを作成されていました。内容や位置付け自体は同じですが、講座後に資料のデータ自体を共有いただくことで、情報の精度(うろ覚えでなかったり、後から見返したりできる)という点では上回っているものと思います。また、あるグループでは、講座外での情報交換や交流が図れるよう「Slack」の活用が参加者から提案され、他のグループの参加者も含めて利用されています。事務局の視点からは、各回の講座終了後に記入してもらっていた「振り返りシート」や、各参加者から提出される課題資料をデータで取りまとめできることで、例えば受領漏れや配布(印刷)面での不備などがなくなり、よりスムーズな運営につながっていると感じています。

まだ1月末に開催する成果発表会という今年度の締め括りの舞台が残っていますが、初めてオンライン開催となったことで得られたものが既にたくさん出てきていますので、次年度以降も良いものは積極的に取り入れていきたいと考えています。


助成対象者「キックオフ」/「中間」研修
助成対象者のフォローアップの一環として、助成対象者同士の交流、学び合いやプロジェクトのブラッシュアップなどを目的に、助成開始段階および中間段階に研修を実施しています。助成開始段階の研修は、キックオフの位置付けとして、事務局による助成ガイダンスを始め、各プロジェクトの紹介や情報交換等を行っています。中間段階の研修では、助成期間前半(1年助成の「しらべる助成」は開始から半年間、2年助成の「そだてる助成」は1年目)の進捗状況の報告と、今後に向けた課題や現在抱えている悩みなどを共有し合う、一種の「ピアコンサルテーション」的な場づくりを意識して実施しています。また、研修を助成金贈呈式の当日やその前後の日程に設定することで、横のつながりづくり(同一年度の助成対象者同士)と共に、縦のつながりづくり(年度を超えた助成対象者同士)も創出できるよう取り組んできました。

2020年度は、助成金贈呈式が中止となり、一堂に会しての研修も感染拡大防止の観点から見送ることとし、年度ごとにオンライン(Zoom)で実施しました。企画が固まるまで時間を要したこともあり、年度ごとに実施時期にばらつきが生じてしまい、最終的には以下の日程での実施となりました。

●2019年度「そだてる助成」キックオフ研修:7月末
●2018年度「そだてる助成」中間研修:9月上旬
●2020年度「しらべる助成」「そだてる助成」キックオフ研修:11月上旬(※2020年度助成から助成開始時期が4月→10月に変更)

いずれの研修も「交流」や「学び合い」を重視してきたため、オンラインでの実施に向けて最も苦心したのは、1団体(チーム)から複数名での参加を前提とした場合に、オンライン上での交流や学び合いを行うには人数が多くなってしまい、どの程度の満足度を得らえるかという点でした。また、話す時間よりも聴く時間がどうしても長くなるため、集中力の維持や疲労感の蓄積といった点から実施時間を対面に比べて短く設定する必要があり、限られた時間の中で要点を絞って情報を発信や共有してもらうための事前準備などにも配慮を要しました。

実施にあたっては、助成対象者が研修に何を期待しているかの把握が重要と考え、年度ごとに事前アンケートを行い、企画を詰めていきました。

2019年度「そだてる助成」キックオフ研修
助成開始当初から新型コロナの影響を受けていたため、「コロナ禍における取り組みの進め方」に関する悩みが多く寄せられました。そこで、研修ではプロジェクト実施に関して、(1)新型コロナウイルス関連、(2)フリーテーマ、の2点について問題意識をキーワードや短文で表してもらったスライドを作成いただき、2グループに分かれて意見交換や情報共有を行いました。

2020年度「しらべる助成」、「そだてる助成」キックオフ研修の様子
2020年度「しらべる助成」、「そだてる助成」キックオフ研修の様子

2020年度「しらべる助成」、「そだてる助成」キックオフ研修
助成開始から間もない時期ということもあり、特に助成期間中のプロジェクトの進捗管理や報告関連(書類の提出や会計の登録など)について多くの質問や関心が寄せられ、助成ガイダンスではその部分をメインにアナウンスや質疑を行いました。

また、トヨタ財団で使用している「助成対象者システム」において、例年散見される使用方法の混乱や不備などを踏まえ、事務局によるデモンストレーションを通じて具体的な使用方法を確認することとしました。研修の後半では、「しらべる助成」「そだてる助成」ごとに分かれて、簡単なプロジェクト紹介を行った上で交流を図りました。

2018年度「そだてる助成」中間研修
コロナ禍における活動の困難さに関する相談も挙がりましたが、助成期間2年目の実施状況を踏まえて、「事業の持続性(プロジェクトマネジメント、ファンドレイズ、市民参加の仕組みづくりなど)」や「今後の展開の在り方」などに関する悩みが多く寄せられました。

事務局としても助成期間の3/4程度が経過している時期での研修となることを踏まえ、今後の事業展開を見据えた研修の機会として位置付けることが有効であると考え、「研修当日の交流や学び合い」と「事後フォロー」をセットにした企画としました。


各研修を振り返って
2019、2020年度の両キックオフ研修では、従来通り情報交換や交流を主眼に置きつつも、参加者数や実施時間といった条件なども勘案した結果、「研修」という点では次年度以降に向けた課題も残りました。一方で、2018年度の中間研修においては、助成対象者から寄せられた期待に応える観点から、専門性を有した外部有識者にアドバイザー役を依頼し、議論したいテーマ別に7グループに分かれる組み立てとし、一定の手応えも得られました。アドバイザーを交えてのオンライン研修は初めての試みであったため、「研修当日の交流や学び合い」と「事後フォロー」に加え、各助成対象者から提出いただいた事前課題を基にした打ち合せなどの「事前準備」の部分も丁寧に進めた結果だと捉えています。

なお、各研修の実施後に行ったアンケートからは、2018、2019年度共に、想定していた以上の高い満足度が参加者から得られ、「達成目標と前提条件の再設定を落ち着いて考えることができた」「プレゼンする機会と他団体との意見交換が、取り組んでいるプロジェクト全体の状況や進捗を見直すきっかけとなった」「一緒にプロジェクトを進めていく仲間がいることの安心感を得られ、刺激も受けた」といった感想が寄せられました。一方で、「Zoomの使用方法が不慣れで思うように参加できなかった」「もっとアクティブな議論がしたかった」「もっと多くの団体と交流や意見交換がしたかった」との意見も多数寄せられ、オンライン研修の企画や進行面についての課題も多く残る結果となりました。

本稿の執筆時点では2020年度助成のアンケート結果の取りまとめは完了していませんが、恐らく共通する意見が複数挙がっていることが想定されますので、今後の研修に活かしながら、オンライン研修のスキルアップや深化をめざしていきたいと思います。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.35掲載
発行日:2021年1月22日

ページトップへ