選考委員長　城山 英明
東京大学大学院法学政治学研究科 教授

研究助成プログラムは 「社会の新たな価値の創出をめざして」というテーマを掲げ、日本および世界において、これからの社会が対応を迫られる困難な課題に私たちはどのよう向き合えばいか、その基本的な考え方や方法論を原理的に探究し、社会の新たな価値創出をめざす意欲的な研究者を応援することを目的としてきました。

現代社会には、高齢化やグローバル化等に伴う様々な短期的課題、顕在化した課題がありますが、まだよく見えない潜在的課題を発掘し、それらを克服していくための新たな社会的価値を彫琢していくことも重要です。潜在的課題を発掘するためには、様々な現場のアクターと連携することが契機となります。また、国際比較といった形で、様々な現場が国際的連携して課題に取り組むというのも、重要な手法となりえます。

昨年度の募集より、助成開始時の代表者の年齢に関して、45歳以下という条件を付けさせていただいています。これは、多様な年齢層の研究参加を排除するものではありませんが、今後の社会における潜在的課題を発掘し、新たな社会的価値の方向性を明らかにしていくためには、若手研究者の問題意識を深化させるとともに、研究マネジメント能力を高めていくことは必須なことであるという問題意識に基づく対応です。今回、選考されたプロジェクトの代表者の平均年齢は39歳となっています。また、今年度からは、研究代表者は日本に拠点を置く研究者にお願いするという方針も試みています。このような方針は制約条件にもなりえますが、同時に、研究代表者と財団のコミュニケーションを密にし、さらに、研究プロジェクト間のコミュニケーション、連携を促すことに資するのではないかと期待しています。

本年度においては、最終的に、応募総数件の152中から計12件のプロジェクトが採択されました。以下では、いくつかの興味深いプロジェクトの例を紹介します。今後はさらに、より骨太で野心的なテーマ設定のプロジェクトも期待したいと思います。

D19-R-0007　久保　倫子（筑波大学生命環境系　助教）
「国際共同研究による持続可能な都市発展モデルの構築　―都市発展と 縮退受容を両立する都市像の実現を目指して」

21世紀型都市のあり方という課題設定の下に、シカゴ、トロント、東京等を比較する国際共同研究を組織し、21世紀型都市における縮退受容、社会的公正、aging in place、認知文化資本主義の役割といった基本的課題について、深堀りしていこうとする研究であるといえます。



D19-R-0050　山口　一岩（香川大学農学部　准教授）
「きれいな海から豊かな海への実現戦略　―瀬戸内海の環境と資源のマネジメント」

栄養塩濃度変動メカニズムの理解という科学的研究をベースとして、環境や観光といった幅広い視点を踏まえた環境資源管理のあり方を、「きれいな海」から「豊かな海」という戦略の転換として提案しようという試みです。科学的研究と社会戦略構想の連携の具体的試みの例として興味深い事例となることを期待します。



D19-R-0087　石原　広恵（東京大学大学院農学生命科学研究科　助教）
「住民の視点から生物多様性保全を目指す　―人と自然が共同で生み出す 「関係性価値」の日米比較研究」

日米で連携して、人間と自然の「関係性価値」という新しい価値について、理論的実証的に明らかにしようとする研究です。人間と自然・環境との関係の将来のあり方というのは、トヨタ財団プログラムにおいて継続的に取り上げられてきたテーマです。そのような基本的課題に対する新たな視角・素材を提供することが期待されます。



D19-R-0126　諏訪　竜一（琉球大学農学部亜熱帯農林環境科学科　准教授）
「蚊媒介性感染症対策における伝統知と科学知の融合　―おばあの知恵が高める災害後のレジリエンス」

沖縄における「おばあの知恵」という伝統知のあり方とその可能性を実証的に明らかにすることを通して、伝統知の社会的、制度的な位置づけや、国際的戦略の可能性についても考える契機を提供するプロジェクトとして期待されます。



D19-R-0153　家子　直幸（三菱UFJリサーチ&コンサルティングエビデンスに基づく政策形成推進室　主任研究員）
「児童福祉領域における知識仲介の研究　ー機能のモデル化と試行的実装」

シンクタンクという政策実務における具体的経験を通した問題意識を基礎に、児童福祉等の対人社会サービスにおけるエビデンスの収集・利用のシステムを構築しようという、現場ベースのユニークなタイプのプロジェクトであるといえます。

(括弧内は昨年度の数字)