公益財団法人トヨタ財団

  • 国内助成プログラム

2025年度国内助成プ­ログラム ­選後評

選考委員長 牧野 篤
大正大学地域創生学部地域創生学科 教授

選考経過

トヨタ財団2025年度国内助成プログラムは、昨年度に引き続き「新常態における新たな着想に基づく自治型社会の推進」をテーマに、2つのカテゴリーにおいて公募を行った。そのカテゴリーとは、「1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成」(以下、「1)日本社会」と記す)と、「2)地域における自治を推進するための基盤づくり」(以下、「2)地域社会」と記す)である。

前者には35件、後者には154件、総数189件の応募があり、昨年度の応募数が前者は20件、後者は117件、総数137件であったのに対して、総数で52件、約4割の増加であった。本プログラムに対する社会的認知の拡がりを示していると考えでよいであろう。すべての応募案件については、事務局のプログラムオフィサーがその要件や書式不備などの確認を行った上で、当選考委員会における選考を実施した。

当選考委員会は委員長はじめ5名の専門家から構成され、大学で社会学・まちづくり・住民自治などにかんする教鞭を執りつつ、社会的な実践を行っている委員のほか、地域づくりにかかわる企業を主宰し、またそこに所属し、市民の社会実践への伴走支援に取り組んでいる委員など、自治型社会の形成に造詣の深い委員が参画した。選考は、次のように実施した。まず、企画書による事前審査においてそれぞれの委員が推薦案件を選び、それらを事務局が集計し、その後、集計結果をもとにして、「1)日本社会」は8件の対象案件によるプレゼンテーションを含めた選考を、「2)地域社会」は企画書の書面審査の結果をもとにした選考を、選考委員の合議のもとで行った。

その結果、「1)日本社会」は2件、「2)地域社会」は11件を採択し、総額9,016万円を助成することとした。

 

総評

分散し、多重レイヤー化する社会、つまり個別化し、多様化する一つひとつのコミュニティが、自治型社会として、自らを立てようとする、多重なレイヤーによって構成される「場」の出現。

このような「場」である社会がすでに到来しようとしている。このことを、今年度の国内助成プログラムの応募企画書の内容から読み取ることができ、かつ、それぞれの提案のこの新たな社会への対応のあり方によって、企画書への評価が選考委員会内で議論となり、採択される案件が左右されることとなった。どの応募案件も、この新たな社会の到来を感受し、また真正面からとらえ、この社会のありようを「新常態」として意味づけようとしつつも、それをどのように企画書の内容へと組み入れ、企画をまとめ上げ、新たな自治型社会の構想と実現・推進に向けた提案へと練り上げるのか、という点で、かなりの困難を抱え込んでいた、つまり「新たな着想」を得ることができないままになっていたということであり、それはとくに「1)日本社会」で顕著に見られた傾向であった。それが、「1)日本社会」の採択件数2件、「2)地域社会」の採択件数11件という数字に表れている。

分散し、多重レイヤー化する社会を新常態としてとらえ、それを新たな着想へと練り上げるためには、この新常態の社会を構成している人間観や社会観、そしてそれらを形成し、またそれらによって枠づけられている、人々の日常生活のありようの原理をとらえることが必要となる。それはたとえば、次のようなことである。

従来の近代資本制社会、つまり市場社会においては、「標準形」が一つのモデルとなっていた。それを個人にあてはめてみれば、いわゆる個体主義的な人間観であり、社会にあてはめてみれば、その個人によって構成される集団としての社会観が導かれることとなる。この個体は、いわゆる標準形の個人モデルであり、いわば普遍的な個人のモデルである。それはたとえば、マズローの欲求5段階説のように、基本的にはどの個人にも当てはまる個体のあり方のモデルであり、その個体をとらえておけば、社会のほとんどの人々はその中に含まれるとされるような個人観であり社会観である。

これはいわば、標準形の個人モデルを措き、人々を集団(マス)として扱うことで、社会を考察しようとする心理学化された社会モデルであるといえる。それは、国民を人口として扱い、生殖や労働力の生産と再生産などの管理を通して人々の日常生活を統制しようとする、フーコーのいわゆる「生政治」の社会モデルでもある。それはまた、工業生産を基本とする規模の経済の社会、いわゆる近代産業社会のモデルであり、その社会の労働力と購買力を育成する社会システムである学校において採用されてきた一斉教育と評価・選抜のモデルでもある。日本社会におけるその典型的な事例が、学歴と偏差値への信仰とでも呼ぶべき依存状況である。そして、それを家庭が取り込むことで、家庭が学校化され、人々の意識は、自他を標準モデルの個人と措くことで、相互に比較し、優劣を競うことへと囲い込まれ、極めて均質で画一的な競争社会をつくりだすこととなった。その成果が、急激な経済発展と物質的に豊かな社会の形成であった。これを個体主義的な人間観・社会観という。この個体主義モデルに伴走していたのが規模を拡大する経済発展であり、その背景にあったのが、増え続ける人口という人口ボーナスであった。

しかし、私たちの生きるこの社会は、すでに人口ボーナスの時代を終え、少子高齢化・人口減少へと急速に足を踏み入れている。それはまた、規模を拡大し、物質的な豊かさをもたらすこれまでの経済が導いた帰結でもあった。しかも、本国内助成プログラムのテーマが「新常態」と「自治型社会」と措かれたことの直接的な契機が、新型コロナウイルス感染症のパンデミックとそれがもたらした社会の動揺であったように、そしてさらに気候変動がもたらす激甚災害など、私たちはいまや、人間の社会活動が引き起こす経済恐慌や格差の拡大そして戦争などの内在的危機に加えて、社会の外側からやってくる外在的危機を、日常生活において引きうけなければならない事態に直面しているように、根源的危機と呼ばれる新たな時代を生きることを余儀なくされている。

言い換えれば、私たちは生成と変化の時代、流動化し、砂粒化する社会に生きているのであり、これまでのような標準形の個体主義モデルで、一般的かつ普遍的な人間や社会のあり方をとらえることができない社会に足を踏み入れているのである。

既述の分散し、多重レイヤー化する社会とは、従来の標準形の人間観・社会観ではとらえられなくなった社会を組み換えようとする、人々の日常生活におけるある種の運動であり、その一つひとつのレイヤーを自治型コミュニティとしてとらえ、人々が当事者性を持って形成し、担い、かつ変革し続ける社会のありようである。その社会はまた、標準形の個体主義モデルが持つ単一の価値や目標という方向性を持つ社会ではなく、むしろ多様で多元的な価値が生成・変化し続け、持続し続ける、ある種の代謝運動のような社会である。

このような社会と人間のあり方を、関係論的モデルと呼びたいと思う。いわばジグソーパズルのように、それぞれの個性や価値をもった個人が他者とのかかわりの中に適所を得ることで、その能力を他者とのかかわりにおいて引き出され、自分でも思いもよらない力を発揮して、次の新たなかかわりを創り出し、その関係を組み換え続けていくのであり、それはその都度、生み出されては、変化し続ける、代謝のような運動を本質とする社会のありようでもある。この社会では、人々は他者との関係におかれることで、他者とのかかわりを自らの本質とする個人へと組み換えられ、新たな社会を構成し続けることとなる。この意味では、この新たな社会は、従来の男性原理の英雄譚であるような「出立・苦難・克服・達成・帰還」というリニアな人生モデルによって構成されるものではなく、いわばブラウン運動をする個人が多様に代謝運動を繰り広げることで、常に新たな社会へと組み換えられ続け、その中で個人そのものも常に新たな自己へと生成し変化し続ける、持続することだけを目的とするかのような社会でもある。

それゆえに、このような社会においては、人々の生活や人生も、目標達成を目指すような、いわばPDCAサイクルによって構成される拡大再生産モデルではなく、むしろOECDがLearning Compass 2030で提唱したAAR循環を新たに組み換えて用いられるAAR代謝型モデルとしてとらえられることとなる。AARとは、楽しいことやよいことが起こりそうだとわくわくする気持ちを基本とする予期(Anticipation)から始まって、行動(Action)を起こし、すぐさま振り返って(Reflection)、うまく動いていれば、次の楽しいことの予期(Anticipation)を起こして悪ノリ気味に活動し、うまく行っていなければ、深刻な評価よりは軽く振り返って(Reflection)、次の新たな構想(Anticipation)から行動(Action)へと向かうという、いわば開放型の試行錯誤の巻き込み型の様相を呈する連鎖運動である。

そして、このような社会では、一人ひとりの価値や意味はそれぞれ異なりつつも、それがかかわりのあり方、つまり関係論的な構成を取ることで、それぞれの存在の深いところで「あり方」つまり存在の様態としての共通項が存在し、それが人々を結びつけつつ、新たな存在へと生成し、変化させていくこととなる。

いまや私たちは、このような、ジグソーパズル型AAR巻き込み連鎖運動の社会へと足を踏み入れているのではないだろうか。それが、「新常態における新たな着想に基づく自治型社会」の基盤を形成しているようにみえる。

既述のように、今年度の国内助成プログラムの応募案件が、この新たな社会の到来をとらえつつも、それを企画書へと組み入れ、提案として練り上げることに困難を覚えているという点は、とくに「1)日本社会」において顕著であった。つまり、それぞれの提案がこの関係論的な社会の到来を感受しつつも、それを日本社会というより大きな社会の自治型社会の形成と推進へと展開しようとするときに、いまだに個体主義的なモデルによって一般化・普遍化を図ろうとする志向性を強く持ってしまっており、その結果、論理の筋道がとらえにくかったり、また従来型の社会開発の手法へと議論が向かってしまったりしていて、新たな自治型社会の形成と推進が見通せなくなっているように受け止められるのである。

また、「2)地域社会」では、それぞれの提案において、分散し、多重レイヤーへと分かれていく地域コミュニティをとらえつつ、それを新たな自治型社会へと組み上げようとするときに、そこでもある種の個体主義的な人間観や社会観が作用して、そのコミュニティがより小さな内部のコミュニティ自治へと収斂するような閉じられた構成を取る傾向がうかがえた。いわば、分散し、多重レイヤー化する地域コミュニティが閉塞とでもいうべき事態へと閉じられていくように見えるのである。それでも、多くの提案を得ることで、地域コミュニティを自治型社会へと組み換えようとする魅力的な企画を選定することができた。

これが、既述のように「1)日本社会」の採用2件、「2)地域社会」の採用11件という数字に表れることとなった。

今後、このような分散し、多重レイヤー化する社会をどうとらえ、それをどのように社会実装することを可能にするのか、その手法や評価のあり方の検討や開発を含めて、トヨタ財団自体にも重い宿題が課せられることとなったと受け止めている。

 

個別の企画提案への若干のコメント

以下、採択された企画提案に対して、審査意見を含めた若干のコメントを加えておきたい。

 
1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成

*プロジェクトチーム名:地域エンゲージメントラボ
*企画題目:まちと自分をつなぎなおす~参加からはじまる自治のしくみづくり~

   地域の未来や課題解決について、市民一人ひとりが感心や思いを共有し、行動することによって当事者性を高め、自治的に行動できる社会を目指そうとする提案である。とくに、参加を支援する側から市民をとらえ、市民参加を促す仕組みをつくるのではなく、参加する側の市民の感情や思いをとらえ、それをどのようにして行動へと結びつけるのかという観点からの提案であり、より多くの市民に寄り添う形での自治型社会のあり方を構想しようとする点で、意味のある提案であるといえる。とくにサイレントマジョリティと呼ばれる市民は、日常生活においてさまざまな課題や問題を感じつつも、それをどう受け止めて、解決へと動けばよいのかわからない状態でもあり、それが孤立を深めることにもつながっている。参加する側の当事者性の根源となるものをとらえつつ、その行動変容を促そうとする本提案の試みは、新たな自治型社会をつくる上でも重要だといえる。
    さらに、本提案においては、働きかけをする側の主体が基本となった論述を市民の側の変容に重きを置くような視点へと位置づけ直すことで、提示されている事例それぞれの通奏低音を構成している本質をとらえ、議論を社会的な展開へとつなげることができるのではないかと思われる。

 
*プロジェクトチーム名:自走型自治モデルによる新しいコモンズ実行委員会
*企画題目:地域資産を「新しいコモンズ」に変える―公益信託を活用した自治型社会モデルの構築―

住民による自走型自治を実現するためのコミュニティの自立根拠となる財源を確保するために、地域資源を基盤とする公益信託を形成し、新しいコモンズとして位置づけた上で、住民の自立的な自治を実現するモデル形成の提案である。日本社会の基盤を民間資産の信託という形で支えようとするものであり、魅力的なものであるといえる。
日本の寄付市場が脆弱であることの要因に、公益信託制度の弱さがあるとされ、しかも既存の様々な寄付制度・ファンドレンジングの取組は、中央・大都市中心で、過疎高齢化などに悩む地方コミュニティの衰退に対して有効に活用し得るものではなかった。またとくに、公益信託は、既に公益財団法人などが担っているが、法人登記や運営その他の負担が大きく、社会的な認知を含めて広がっているとはいえない状況にある。
本提案においては、トヨタ財団の助成を受けた具体的な住民の自走型自治の試みをベースにして、そのステージである団地(ニュータウン)を基盤とした公益信託のコモンズ化が目指されており、従来の中間支援団体のネットワーク化による公益信託とファンドレイジングの議論に新たなアクターを加えることとなっているように見える。また、本提案における公益信託にもとづくコモンズは、コミュニティ経済の枠組みづくりへと展開しており、これまでの取り組みの成果と課題を分析しつつ、論理を構築しようとしていて、着実に進められるものと考えられる。
すでに動いている実践をベースに、その分析と評価を通して論理を組み上げ、それを次の公益信託のコモンズ化へと展開して、住民による新たな自走型自治社会の構想を提示しようとするものであり、そこに新たなコミュニティ経済のあり方がとらえられることで、より実効性の高いものとなることが期待される。

 

2)地域における自治を推進するための基盤づくり

*プロジェクトチーム名:とかちつながるらぼ
*企画題目:ピアサポートでつながる自治共創:十勝発・地域から始まる新しい医療社会モデル

難病や障害を持って生きる当事者と市民などが連携して「病と生きることを地域で支え合う自治型社会」を構築する提案である。当事者学が障害学とともに提起され、障害者が援助される側ではなく、むしろ当事者として健常者とともにコミュニティを形成することが重視されている。
難病や障害を基盤とする新たな自治的なコミュニティ形成は、今後の社会づくりにとっても重要であり、時宜を得た提案だといえる。
とくに本提案では、「語り」と「学び」をベースにした相互理解とそれにもとづくプラットフォームの形成が志向され、その上でさらにさまざまな「学び」の活動を通した当事者性の形成と自治主体のアクター形成が目指されており、人材育成を基盤として、多様な交流・啓発イベントが企画されることで、一つの地域的な人材育成と当事者性形成の循環を生み出すこととなっており、実現可能性は高いといえる。さらにそれらが医療社会モデルの形成につなげられることで、障害や難病を持つ人々と健常者とのかかわりの在り方を、障害や難病の当事者の側から組み換えることにもつながるように思われる。
十勝地方はコミュニティナースの取り組みがひろがっており、また更別村など地域福祉を一つの自治体システムとして構築しているところもあり、本提案が今後さらにこれらの先行事例ともネットワークを拡げることで、それぞれの取り組みを住民主導型の自治の仕組みへと展開することも見通されるのではないかと思われる。

 
*プロジェクトチーム名:武蔵野市発・雨水からはじまる地域の自治プロジェクトチーム
*企画題目:武蔵野市発・雨水からはじまる地域の自治プロジェクト

雨水を基盤として、水の循環を促すのみならず、それを通して人々のつながりやかかわりをつくり=雨水文化、さらにそれを地域経済へと結びつけて、市民セクターを基本とする自律的な地域社会を形成しようとする提案である。また、流域自治の議論をさらに住宅地につなげてちいさなコミュニティのドットを増やすことにもつながり、それぞれの住宅地やコミュニティの特性に応じて、雨水文化を育みつつ、新たな参加型の自治を生み出す汎用性もある。
雨水の楽しさ・創造性が自治基盤となるとのことであり、それは既存の枠組みに収まらない新たな自治スタイルでもあるが、雨水を取り上げたものは他にないにしても、楽しさベースのつながりをつくることで自治の土壌を耕すことは、昨今のさまざまな社会実践においても強調されていることであり、それらの実践とのつながりを意識することで、今後さらに拡がることが期待される。

 
*プロジェクトチーム名:CoWeave Ishikawa
*企画題目:地域共生社会を実現する 地域主体の社会的処方のモデルづくり

被災地を中心として、社会的弱者を取り残さない社会的な網の目の構築を、社会的処方の考え方を援用して行おうという取り組みの提案である。そこでは、『笑語ひろば』という被災者のつながりをつくる場所の設置とリンクワーカーと呼ばれる人々をつなげ、さまざまな救済事業へと結びつける担い手の育成と活動の展開が基本的な手法として設定される。その運用を社会的処方の考え方にもとづいて行うことで、誰ひとり取り残さない社会の実現を目指すとしている。社会的処方は、医療の領域で近年注目を浴びている手法であり、とくに人々の人間関係を整えることで精神的な疾患などさまざまな疾病の治療に活かそうとする取り組みである。とくに人の死亡リスクは人間関係の良し悪し(主観的な幸福感など)が独立の変数として作用していることがわかっており、重要な取り組みであるといえる。
提案書中には、これらの取り組みを通して、住民自治を拡げるという文言はあるが、基本的に社会的処方が医療モデルであるように、処方する側-される側という関係性が無意識のうちに導き入れられ、その中での社会的弱者を取り残さないという観点からの提案となってはいないか、新常態における住民自治とはどういう自治なのかなどについて、常にとらえ返し、自己検証を心がけることで、医療モデルの持つ問題点を克服することもできるように思われる。


*プロジェクトチーム名:笠居郷神産学連携まちづくりチーム
*企画題目:笠居郷神産学連携まちづくり

宇佐八幡宮の氏子圏を圏域とする神産学連携のまちおこしの提案である。少子高齢人口減少や自然災害などによって急速に疲弊する地域社会、とくにその商工業の衰退と少子化の進展に対して、氏子圏を圏域とした区画を設定し、氏子を中心としたさまざまなステイクホルダー団体を組織して、相互に連携しつつ、関係人口を増やし、地域の活性化につなげようとする提案であり、各地のまちおこしに対しても示唆を与えるものだといえる。また、氏子区がかかわっているという点において、ユニークなものだと考えられる。
本提案では、この神産学連携という場合に、神がどのようなつなぎ役をするのか、つまり、神に代わる役割を担う者がほかにあるのかどうかなどについての検討をさらに続けることで、それがどのように人々の間をつなげ、自治へと展開していくのかの筋道がより一層明確に描かれることになるように思われる。

 
*プロジェクトチーム名:くらしのデザインラボ
*企画題目:ものづくりを原点とし暮らしを創り学び合う共創型自治モデルの構築

「ものづくり」を通して、人々が暮らしをともにつくり、学びあうことで自治型社会を構想しようとする実践提案である。そこでは、先ずやってみることが重視され、創造の基盤づくりが行われ、その後、共用の道具・身体的移動・偶然の出会いを融合するような創造活動と市民が共に展示と空間を構成する博物館の創造とが組みあわされる実践が展開される。「ものづくり」という創作活動を起点として、人々を巻き込む議論は興味深い。
まちなかにベンチを置き、人々が共用することで、新たなかかわりを生み出そうとする試みは、ほかにも類似の事例があって、社会にひろがっており、それらの取り組みとのかかわりのなかで本提案の実践を検討することで、住民の中にどのような変容が生まれ、それがどのように新たな自治へと結びついて行くのかがより一層明示的にとらえられることとなるように思われる。それはまた、本提案でいうものづくりがどのようにして内発性を開発し、且つ持続させることになるのか、ものづくりがどのような人々のかかわりを新たに可能とするのかなどの議論を深めることにもつながるように思われる。

 
*プロジェクトチーム名:まちあそび研究会
*企画題目:ちょこっと参画まちあそびプロジェクト

都市型の地域とくに個人が自律的に生活することで、旧来の地域コミュニティが解体し、人々の結びつきが希薄化している地域において、何かの約束や目的を措いて人々が結びつき、自治的に地域コミュニティを経営するのではなくて、一人ひとり気が向いたときに「ちょこっと」かかわることで、新たな人々の関係性が生まれ、それが次の活動やかかわりづくりへと展開することで、都市型地域の人的基盤である人々のかかわりやつながりをつくりだそうとする試みと、そのための「道具」の開発提案であり、都市における人々のつながり創出の興味深い提案である。
40年前のトヨタ財団の助成によってつくられた「三世代遊び場マップ」をさらに「五世代遊び場マップ」へと深化させ、人々が「だれとでも、いつでも、少し何かできる」という余白性と偶然性に満たされたかかわりあい創出を促す仕掛けを作ることで、自立的な個人で構成される都市型の地域社会が、少し何かしたいという意志と善意を相互に結びつける、ゆるやかなかかわり自治の基盤を持つことになる。いわば、人々のかかわりが固定化するのではなく、流動的に離合集散を続けることでこそ、人々が偶然結びつき、それを楽しみつつ、次のかかわりへと展開していくような、変化し続ける自治的コミュニティの姿が構想されているといえる。

 
*プロジェクトチーム名:新たな地域運営推進PJチーム
*企画題目:公営住宅からはじめる新たな地域運営〜集会所を活用した居場所づくり等〜

災害公営住宅を舞台とした孤立を防止し、人々のかかわりあいを創り出す自治型社会構築の提案である。とくに、旧来型の地縁組織である町内会その他網羅組織が疲弊の度を深める中、本提案は、それらをスリム化した基盤の上に(地縁層)、サークルやさまざまな関心を基本としたグループ形成とのそのネットワーク(選択縁層)、この二層のつながりの中から、住民自身が能動的に他者に関わり、相互扶助関係をつくりだし、孤立予防から住民による地域自治への展開を見据えようとするものである。
昨今のように高齢社会における旧ニュータウンのあり方が問われる中、喫緊の社会課題に応えるものであるといえる。実施体制と手順も確立されており、住民全体を巻き込む全世帯参加型ガバナンス、集会所利用の孤立防止、そして新たな地域運営を担う協議会(地域連携協議会)の設置へと進む中で、住民が自らの生活を維持しつつ、地域社会で活躍する実態がつくられていくことが予定されている。このためにコーディネータが配置されるが、このコーディネータそのものが、上記二層の間を行き来する常駐者であることが予定されており、いわば平場でかかわりをつくりつつ、新たな自治を紡ごうとするものであるといえる。

 
*プロジェクトチーム名:チーム次世代
*企画題目:tate.baseを拠点とした共創型地域エコシステムの構築

高校生の探究活動と地域課題解決を接続する「地域共生型エコシステム」構築の実践提案である。この提案では、高校生たちが空き家を活用することで設置した「tate.base」と呼ばれる地域活動拠点を核として、行政や地域住民のみならず、さまざまな企業や関係団体がかかわりつつ、それぞれのアクターが事業を構想し、展開することで生まれる、事業展開型の自治型社会の構築が目指される。
近年、新しい学習指導要領に示された探究の時間の拡がりとコミュニティスクールの形成の進展によって、とくに高校生が地域課題に着目して、新たな地域づくりに関心やかかわりを持ち始めており、時宜を得た提案だといえる。高校生という次の世代を地域社会で育てることにもつながり、地域の持続可能性を高めることとも深くかかわっている。
このようなとりくみはまた、たとえば隠岐島前高校の高校魅力化・海士町の地域魅力化の事業展開や長野県飯田市のOIDE長姫高校の「地域人教育」、その派生形の白馬高校の「地域人教育」、さらに文科省の事業である高校普通科改革における各地の「地域系」学科の新設などにおいても志向されているものと重なっており、それら先行事例を検討するとともに、それらとのかかわりなどをつくることで、本提案の独創性がさらに磨かれることになるように思われる。

 
*プロジェクトチーム名:生きる根っこを育てようチーム
*企画題目:大地を歩む小さな足がみらいを耕す~保育と農で築く共助の地域づくり~

廃校跡地を利用した保育園の開設と、子どもたちの育ちを中心とした農的なかかわりを構築して、パーマカルチャーを実現し、持続可能な自治モデルを形成しようとする提案である。農業だけでなく、子どもの保育を真ん中に措いて、ステイクホルダーがそれぞれの資源や機能を持ち寄り、農を基本とした生態系の回復をも見据えて、防災と深く切り結んだ新たなコミュニティを形成しようとする事業であり、興味深いものだといえる。
さらに、子どもの育ちをどのようにとらえるのか、この点を、子どもを育てることにおける遊びや学びの実践とのかかわりで議論することで、従来の取り組みを乗り越えるものとなり、それが自然農法の新たな村の実践と結びつくことで、子どもを育てることの新たな意味や価値を生み出すことにつながるように思われる。

 
*プロジェクトチーム名:SAGYAラボ
*企画題目:みんなが安心して共に過ごせる佐賀発インクルーシブモデルの構築

病気や障害のある子どもたちとその家族(当事者と当事者家族)が文化・スポーツ・旅行などの体験機会にアクセスしづらく、地域社会からも取り残されがちであることをとらえて、佐賀県の事例を基礎に、当事者・当事者家族が上記のような体験機会を得るイベントを基盤として、ステイクホルダーの主体性を導こうとする実践提案である。病気や障害のある子どもとその家族の社会参加を切り口として、当事者性に満ちた地域社会をつくろうとする視点は、重要であり、意味のあることだといえる。
本事業の展開過程で、当事者・当事者家族と呼ばれる人々が、どのように地域コミュニティにかかわることで、新たな自治型社会が構築されることになるのかについて、さらに議論を深めて欲しい。その議論において、本提案にいう当事者や当事者家族とはどのような存在なのか、そしてその存在からこの社会をとらえたときに、それはどのようなものとして特徴づけられるのかなどを検討することで、実践を通して実現される自治型社会の姿がより一層明確になるように思われる。

 
*プロジェクトチーム名:Local Coop大和高原プロジェクトチーム
*企画題目:一人ひとりが担い手となった熟議と意思決定を通じた住民自治のモデルづくり

高齢化と人口減少によって担い手が不足する地域において、住民共助と住民自治とを組みあわせた意志決定と実践の仕組みづくりを通して、新たな自治型社会を構築する提案である。そこではとくに「地域ダッシュボード」の構築による情報の共有とデジタルツールを活用した住民の意志決定への参加、さらにそれを通した「拠点の魅力向上と住民ワークショップ」の実施が基本的な取り組みとなる。これらの取り組みを通して、地域の住民が誰でも地域運営に参加し、自らが実践にかかわることで、地域社会を自治的に運営することのできる仕組みづくりが目指されている。日本全国の多くの地域が同様の悩みを抱えており、ある種の汎用性のある取り組み提案だといえる。
さらに、デジタルツールを活用した「地域ダッシュボード」とその運用による地域の意志決定への参加にかかわって、とくに高齢住民がどのようにしてそれらを活用できるようになるのかを議論することで、デジタル社会と自治コミュニティが融合した新たな自治型社会の姿の一つが見えてくるように思われる。

応募件数 助成件数 採択率
1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成 35 2 5.7%
2)地域における自治を推進するための基盤づくり 154 11 7.4%
合計 189 13 6.9%
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