公益財団法人トヨタ財団

  • 国内助成
  • 寄稿

地域の未活用資産である軒先フルーツを活用した、新しい「自治の姿」を創る

kokunai
国内助成
contribution
寄稿

著者 ◉ 齋藤佳太郎(湘南のきさきフルーツプロジェクト プロジェクトリーダー)

[プログラム]
2023年度 国内助成プログラム
[助成題目]
湘南のきさきフルーツプロジェクト ―お庭の未活用果樹を使った地域の新しいつながり創出
[代表者]
齋藤佳太郎(湘南のきさきフルーツプロジェクト プロジェクトリーダー)

地域の未活用資産である軒先フルーツを活用した、新しい「自治の姿」を創る

プロジェクトのきっかけと湘南というエリア

私たちが活動する神奈川県茅ヶ崎市・藤沢市を中心とした湘南エリアは、海や山など自然が多く住みやすい環境でありながら、都内へのアクセスもよい地域です。そのため、移住者も多く人口増加傾向にありますが、実は他の地域と同じように、
・ご近所付き合い
・世代間のつながり
・移住者と地元在住者のつながり
・移住者とお店や自治会との関係
・移住者と行政のつながり
といった「地域のつながりの希薄化」が徐々に進み、地域にさまざまな影響を与えていると感じています。

このプロジェクトのきっかけは、湘南への移住者でもある私が、ご近所のお庭になっている果樹を見て「あれ、食べたいな」と思ったのと同時に、食べられずに落ちて腐ってしまっていることが多い現状をみて「もったいない」と感じたことです。

湘南エリアには、昔から庭先に果樹を植えている個人宅が多いという特徴があるのですが、その果実(のきさきフルーツ)が収穫できずに「放置されている」状態を地域のつながりの希薄化が目に見えるかたちになったものと考えました。

湘南のきさきフルーツプロジェクト

この活動は、単に未活用のフルーツを循環させるだけではありません。

「おいしい、楽しい」から気軽に参加でき無理なく続けられる、新しい自治の姿を作っていくことを目指しています。お互いに顔の見える関係性を築くことで、自治会などの既存コミュニティへの入り口ともなり、結果として多様な地域課題の解決の糸口になると考えています。

具体的には、お庭に果樹がある果樹オーナーさんに収穫の機会をいただいたら、「収穫」チームが現地に伺い収穫、分けていただいたフルーツを活用して「キッチン」チームがさまざまな料理を作ったりワークショップを開催したり、「ブランド」チームと新商品を発案したりしています。

また、地域で暮らす人がこの活動を通してまちのことを深く知ることで、それぞれの興味関心・問題意識から「新しいプロジェクト」が生まれる協力体制も作っています。

プロジェクトのイベント時に行った交流会
プロジェクトのイベント時に行った交流会 

個人の想いと物語から生まれるものを育てる

活動は、地域で暮らす多くの人が参加しやすいよう、誰にとっても欠かせない「食」という入り口に「楽しそう・おいしそう」というシンプルな参加動機と、それぞれの頻度や距離感でかかわれる敷居の低さ、また、さまざまな世代や趣味嗜好が多様化している現代の人々であっても、幅広いかかわりしろの中から参加動機を見出すことができるように設計しています。

そして、その中で自然に生まれてきた、一人ひとりの想いと物語を大切にして進めています。

一例として、あるプロジェクトメンバーは、亡くなったおばあちゃんの家になっている、はっさく・ゆず・みかんを腐らせたくないとの想いで以前から商品化を考えていたそうですが、自分だけでやるのは難しいと感じていたタイミングで一年前に当活動に参加してくれました。そこから一緒に1年かけてクラフトシロップ「喜代のはっさくシロップ」(プロジェクトメンバーのおばあちゃんの名前から命名)という初の独自商品を完成させました。おばあちゃんへの想いを具現化した商品となりました。

また、教育機関との取り組みも広がってきました。小学校では先生と生徒たちのアイデアから発展し、通学路の果樹のあるお宅に伺って自分たちでフルーツをもらう交渉をし、いただいたフルーツで作ったジャムを商店街で地域住民に食べてもらい、商店街を盛り上げる活動となりました。

他にも、プロジェクトメンバーそれぞれの活動(お店・スペース・事業)とのコラボや協力関係、それぞれの興味関心ごとから生まれるフルーツの有効活用が実現しており、ホスピスでの蒸留会や、フードパントリー・フリースクール・こども食堂への提供など人とのつながりを通した新しい展開も増え始めています。

これからも社会から求められることや効率のような「外側」から考えるのではなく、やりたいことや興味関心・大切にしたいことという、自分たちの「内側」から生まれたものを丁寧に育てていきたいと思っています。

商品化を提案した二人(右)と、完成した「喜代のはっさくシロップ」
商品化を提案した二人(右)と、完成した「喜代のはっさくシロップ」

プロジェクトの考える新しい自治の姿

収穫した果樹を活用したワークショップ
収穫した果樹を活用したワークショップ

フルーツをきっかけに地域の人々が集い、おいしく楽しい体験を共有し、その中で自然と人となりを知り合い、一度きりではなくまた出会える─。

そんな機会を季節の果物を通して作り続けることで、参加者各々が日々を暮らす地域の中で「顔の見える特定多数」という関係性・安心感を育て、広げていくことができる。

私たちは、その広がりと重なりこそが、まちとひとに関心を寄せ、他者との協力や助け合いを成り立たせる要因であると考えています。そんな自然でまるくてやわらかい「新しい自治」をこれからも広げていきたいと思います。

そして、近年のマンションの増加や庭付き戸建ての減少に伴い、徐々に減少傾向にある湘南らしい果樹のある姿も、未活用フルーツの活用をする姿を見せることで、「湘南らしいまちの風景」として残していきたいと思っています。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No. 49掲載
発行日:2025年10月21日

ページトップへ