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実習生がつなげる地域と人の輪

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寄稿
気仙沼で色を塗られ描き足された布絵
インドネシアのポノロゴで制作された布絵は、気仙沼で色を塗られ描き足された

著者◉ 中川真規子 (特定非営利活動法人地球対話ラボ)

[助成プログラム]
2020年度 国際助成プログラム
[助成題目]
地方在住インドネシア人と地域の人々が協働してつくりだす「外国人材でつながる」文化 このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
渡辺裕一(特定非営利活動法人地球対話ラボ )

実習生がつなげる地域と人の輪

「外国人材」でつながる気仙沼プロジェクト

アジアカフェの様子
アジアカフェの様子

宮城県気仙沼市では市内の在住外国人の約3分の1をインドネシアから来た技能実習生が占めています(2022年9月)。特定非営利活動法人地球対話ラボが進めるこのプロジェクトは、「外国人材」によって生まれたつながりを、コミュニティアートを専門とするアーティスト、技能実習生、子ども、若者、企業、行政、「よそ者」も含めた多様な人々が関わり合う中で、そのつながりの体感や可視化を積み重ねていく、草の根で共生社会を模索していく活動です。

活動は大きく3つあります。技能実習生と市民の交流の場「つながるアジアカフェ」、テレビ電話で交流をする「気仙沼とインドネシアの子どもたちによる地球対話」、子どもたちが自由にアート活動を行える居場所を学校内に出現させる「気仙沼アート小」です。詳細はホームページ このリンクは別ウィンドウで開きます 等を見ていただくことにして、ここでは私が居合わせた中で印象に残っている3つのエピソードを紹介したいと思います。

未来を見たようなひと時

息子の日本での様子を見つめるお母さん
息子の日本での様子を見つめるお母さん

2022年7月、気仙沼で働くディマスさんの実家を訪ねました。「息子は元気でやっていますか?」と心配そうに聞いてきたディマスさんのお母さん。現代アーティストの門脇さんがアジアカフェで仲間と過ごすディマスさんの様子や、ディマスさんと一緒に曲を作っていることなどをスマホで写真や映像を見せながら伝えると、本当に愛おしそうに見つめていました。

技能実習生として働きに行くと基本的に3年間、国へ戻ることはできません。ディマスさんの意思を応援したい、そう思っても離れた地で暮らす息子への心配はつきない……お母さんの想いに胸を打たれました。

そんな実習生たちが気軽に来られる場所、さまざまな人たちとの交流が生まれる場所になるよう始めた「つながるアジアカフェ」。実習生や地元の方だけでなく、県外からも興味関心がある人がやってくる「とびら」のような場所になりつつあります。

2023年3月、アジアカフェに、地球対話や気仙沼アート小で一緒に活動をした子どもたちがやって来ました。子どもたちはインドネシアの料理を食べてみたり、カフェにやってきた実習生から注文をとって料理を運んだりして、気がつけば同じテーブルに座り楽しそうにおしゃべりを始めました。

子どもたちも海外からやってきた技能実習生も、共に、地域の未来を担っていく存在です。その両者が出会い、うれしそうに過ごす姿に未来を感じました。こうした景色が、日本のあちこちで見られるようになるといいと思っています。

ポノロゴと気仙沼をつないだ大きな布絵

インドネシアのポノロゴで制作された布絵
インドネシアのポノロゴで制作された布絵

2023年8月に開催された気仙沼みなとまつり&気仙沼YEGインドネシアフェスティバルでは、ワークショップ「ポノロゴの人たちが気仙沼のことを想像しながら描いた絵に、気仙沼で色を塗る」を実施しました。このWSの布絵は7月にポノロゴで開催した「ポノロゴ・アート・プロジェクト」で制作された作品です。当初は、完成した布絵を半分に切り、気仙沼とポノロゴの双方で展示をする予定でした。

ポノロゴで白黒の布絵が完成し、切断セレモニーをやろう! としていたまさにその時、門脇さんが「半分ずつ展示してもおもしろくないのでは」と言い出したのです。突然の提案にプロジェクトリーダーのククさんも戸惑った様子でした。

「素晴らしい絵だからこそ、半分に切るのではなく気仙沼の人たちが色を塗り書き足していって、この絵が旅をしてポノロゴに帰ってくるのはどうか」。続く門脇さんの発言を聞いたメンバーは「やりましょう!」と表情を変えました。

こうして気仙沼へとやって来た布絵は、お祭り当日来場者らによって色付けられ描き足されていきました。ワークショップの際中、布絵が気になるククさんやポノロゴのメンバーからの電話やメッセージは鳴りやみませんでした。

実は、ポノロゴのアーティストにとってもポノロゴ出身の技能実習生は「知ってるけどつながりのない人」でしたが、こうしてアーティスト自身もアートを通して実習生と、気仙沼とつながってしまったのです。この布絵やこれまでの取り組みで撮影された写真などは、2023年10月15日から約1か月間、気仙沼図書館で展示をする予定です。

他者と対話をし続ける

私たちと技能実習生の出会いはインドネシア・アチェでした。その後、気仙沼で暮らす実習生に出会い、ポノロゴにたどり着きました。実習生自身は、自分たちをきっかけにこうしたプロジェクトが動いていると知らない人の方が多いかもしれません。でもまちがいなく、実習生が気仙沼とインドネシア、ポノロゴと私たちを結びつけたのです。さまざまなものを引き受けて知らない場所へと向かっていく実習生という存在が、新たなつながり、文化を生み出す原動力となっているのです。

アジアカフェの運営には地元の若者が加わってくれました。この場が誰かと誰か/どこかとどこかをつなぐ場所として続いていくよう活動していきたいと思います。その先に、何が生まれていくのかはまだわかりません。ただ、こうして可視化されたつながりから対話を積み重ね続けることで、「外国『人材』」と呼ばなくなる日、他者と尊重し合って生きていける社会を目指して歩いていきたいと思います。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.43掲載
発行日:2023年10月19日

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