村山 斉 × 髙野孝子 × 羽田 正
◉ 村山 斉(むらやま・ひとし)理論物理学者/カリフォルニア大学バークレー校 教授
◉ 髙野孝子(たかの・たかこ)冒険家/早稲田大学文学学術院 教授
◉ 羽田 正(はねだ・まさし)歴史学者/東京大学名誉教授/トヨタ財団 理事長
トヨタ財団は「つながりを考える」というテーマで、2026年7月から新しい動画シリーズを製作し公開を始めた。ここでは、動画では公開できなかった未収録部分を掲載することで、つながりついてより理解しようとするものだ。
後編のテーマは「AIの時代に、人とつながる」で、歴史学者でトヨタ財団理事長を務める東京大学の羽田正名誉教授が、冒険家で早稲田大学文学学術院の髙野孝子教授と物理学者でカリフォルニア大学バークレー校の村山斉教授を迎えて鼎談を行ったが、後編の未収録の部分では一体何が語られたのか?
執筆 ◉ 武田信晃(フリーライター)
写真 ◉ 馬場亮太( カメラマン )
つながりには想像力が大事
前編では、人間は星のかけらからできている一方で、現在は多様性にあふれているということを話した。髙野教授が、研究としてこだわっているのは、人が生きていくための1番大事な社会だと語る「地域」とのつながりだ。地域とは「命など暮らしに直結するという範囲」のことを指す。
そして、今の地域は、本当に多様性にあふれている。村山教授は「この多様性は偶然だと考えます。おかれていた環境に適用するために変わっていった面があるが、文化が発達し、それぞれの言語が生まれ、それぞれの文化もまた発達していく中で多様性が生まれたわけなので、歴史的偶然だと思う」という見解を示した。
地域という意味では、国レベルで考えることも可能だが、髙野教授は「自分たちが生き、生活をしていく1番基本的な単位としての地域と捉えると、そこでの営み、伝統の継承、そこでの関係性などが土地とのつながりなので、国という考えはあまり研究において存在しないです」
髙野教授が1分30秒ごろに話しているように人は1人では生きていけない。そもそも、父と母がいなければ自分は生まれてこず、育ててくれなければ死んでしまう存在だ。電気、水道などのライフラインも誰かが働いているからこそ供給を受けられる。その上で、髙野教授は、自然とつながり、そこから人とつながり、それがあつまって地域になるので、「それを実感するのが大事」で、実感すると「人になれる」と語った。
では、地域がどう発展していくのか? 髙野教授は、自身が在住している南魚沼市の事例をあげた。同市は、農村部と街の部分があり、街のところは、どちらかというと事務的な形で物事がすすむエリアになっている。「それでもつながりはあって、みんなで話し合い、助け合うこともあります。人との関係性が増えていくと、それが生活の基盤にもなり、喜びにもなり、困った時には助けてもらえます」どんな人間でも1人では生きていけないというつながりの重要性は理解しているが、実際につながるのは簡単そうで簡単ではない。だからこそAI(人工知能)と話をするほうが楽だという人もいる。髙野教授はその辺りについて「理想的には、生の人間と関係性を結べた方がいい」と話す。
17分ごろになると、羽田理事長がAIや機械が浸透してくる社会の中でどうつながるのかを考えないといけないと話した。村山教授は「人間は社会的動物で、ご飯はどこかから調達してこなきゃいけないし、電気も社会インフラも必要という世の中で生きている。その中で、いろんなことが変わってきて……技術も発達し、人間はある意味でそれに支配される部分もあったりする状況で、人間たちが集まった集団である地域や国の在り方はどういうものでなければいけないのかということを自分自身も、モデルも変えていかなきゃいけないというのは全くその通りだと思います。それをどうやって作っていくのかはすごい難しく、試行錯誤というやり方では非常にダメージを受ける人がたくさん出るわけですから、簡単に実験できることではないです。その時にどうやって道を見いだすのかというのはすごい難しい問題だなと感じました」と人間という生身の存在であるゆえに、理想のつながりを見つけるまでのやり方すら簡単ではない。
それを受けて髙野教授は「人間には想像力が必要」だと話す。「目に見えない、今、目の前にいない人を想像する力や、例えば、灼熱の暑さ、凍傷になるような状況などを想像できる力がないと、世界はもっとバラバラになっちゃうんじゃないかなっていう風に思っています。ですので、最初の方で村山さんが言われた、人間は宇宙とつながってるというような話から想像力をもっと膨らませていくことができるんじゃないかなというヒントをもらった気がします」と相手のことを考えたり、想像できたりする力があれば、つながり方を見いだせるのではないかと期待をこめて語った。
村山教授も想像力が大事ということに同意する。「互いにつながっているために必要な想像力は、基本的に思いやりだと思います。自分はこう考えてから行動しますが、ほかの人の行動は、ある程度のレベルでは、あの人は実はこう考えて、これをやりたいんじゃないかというのは想像できる。思いやりがあるからこそ想像できて、それで一緒にやってく方向を見出していくっていう風に思っているので、本当にそうだと思いました」。そう、思いやりも想像力なしにはすることはできないのだ。
日本語としての「人間」は深い意味を持つ
もう1つ、面白かったのが日本語においての「人間」という言葉そのものだ。髙野教授は2分25秒ごろに「漢字で人間は『人の間』と書きます。つまり、人と人の間にいる存在だから」と話した。これまで書いてきたように、人は1人では生きて行けず、人と人の間でつながり、助け合いながら生きていく存在であることを漢字が表しているといえる。
それを受けて羽田理事長は、日本語においての人間という言葉が独自の言葉で面白いと話す。例えば、生物学的に人間の意味のニュアンスを強めると「人類」という言葉を使い、「ヒト」と表記すれば生物学的になる。ちなみに英語で人間は「Human Being」と書くが、村山教授曰く「そこに関わりという意味は含まれてない」という。中国語で人間は世間を意味するが、表意文字である漢字を駆使する日本語において人間という言葉は、いろいろな使い方があり、奥深い意味を持っているということになる。今回の鼎談を振り返ると、私たちは、地球に生きている以上、地球とのつながりや人間とのつながりについて、好きであろうが嫌いであろうが、それから逃れられない宿命にあるといっていい。それに加え、日本語での人間という意味を考えると、それまでつながりということに関心なく生きていたかもしれないが、つながりを意識して生きたほうが「人になれる」のだ。それは、世界が抱える多くの問題を解決することにもつながりそうだ。


















