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  • 特定課題 外国人材

2025年度 外国人材の受け入れと日本社会 選後評

選考委員長 園田茂人

 また選後評を書く季節がやってきました。選考委員長として応募書類を読むのは、今回で5回目です。今年度は選考委員2名が入れ替わり、私が最年長となりました。過去の経緯をよく知るメンバーが私だけとなったため、選考に当たっては、今まで以上にいろいろな意見が出されることになりました。
 今年度も例年同様、以下の5つのテーマに関わる提案を募集しました。

(1)外国人材が能力を最大限発揮できる環境作り
(2)外国人材の情報へのアクセスにおける格差の是正
(3)ケア・サポート体制を担う人材と既存資源の見直し
(4)高度人材の流入促進
(5)日本企業の海外事業活動における知見・経験からの学びと教訓

●応募状況と申請内容の概観
 応募時間は2025年9月1日(月)から11月15日(土)まで。この間、9月17日と9月26日の2回、オンラインでの説明会が実施されました。同時に、10月29日(水)まで事前相談が行われ、応募予定者の疑問などに対応しました。
 こうした丁寧な対応が功を奏したのか、最終的な申請数は74件と、昨年の59件から15件増えています。
 74件の申請額の中央値が973万円(最小値100万円、最大値1,000万円)となっており、今まで以上に低い申請額の応募が目立ちました。
 代表者の属性で見ると、大学常勤研究者の19名、NPO/NGO職員の12名、会社員12名と、会社員からの応募が増えました。近年は大学常勤研究者から(4)の高度人材の流入促進に関わる提案を多く頂いていましたが、こうした傾向もひと段落したようです。
 昨年度も指摘しましたが、申請内容は多岐にわたり、(1)から(5)のいずれに当たるのか、一読しただけではわからないケースが増えています。またAIの利用が拡がっている世相を反映してのことでしょう、AIを利用した新しいタイプの申請も目につきました。

●選考プロセスと選考結果
 最初にプログラムオフィサー(PO)が申請書類を確認し、不備があるものや趣旨に合わないものを除きましたが、選考委員3名は、すべての申請書に目を通しました。また採択候補については選考委員から代表者に質問をし、その回答結果を加味して一件ずつ検討を加えるなど、慎重に選考を行いました。
 2026年2月10日に選考委員会が開かれ、最終的に以下の7つの案件が採択されることになりました。以下、採択案件の申請内容及び選考委員会でのコメントを、簡単に紹介します。

D25-MG-0016 近藤 敦(名城大学法学部 教授)
外国人材が能力を最大限発揮できる社会環境作りのための多様性憲章と社会統合講習


 (1)に関わる提案で、外国人材が能力を最大限発揮できる公正な社会環境実現のための「多様性憲章」の策定とともに、立法府や行政府に働きかける「社会統合講習案」の作成を目的としています。選考委員会では、時宜に適った提案として評価されましたが、講習案の作成プロセスや在留資格との結びつきをどう考えるかなど、実際の作業を進める際に注意すべき点も指摘されました。

D25-MG-0032 藤井 さやか(筑波大学システム情報系 教授)
外国人材との共生策と空間整備を組み合わせる都市計画手法の提言~少子高齢化・人口減少で生まれる空き空間の有効再活用~


 (1)に関わる提案で、海外の事例を参考にしながらも、日本の都市計画制度に外国人材と地域社会の共生を落とし込むことを目的としています。東京都板橋区や愛知県豊田市などで、行政担当者とともに、住民アンケートやワークショップを実施しつつ、具体的なまちづくり計画の作成を目指します。選考委員会では、今までにない新しい発想が評価される一方で、予算のより効果的な利用について意見が出されました。

D25-MG-0038 関 聡介(外国人法律相談 副代表)
摩擦を地域のつながりに変えるプロジェクト―うわさの背景に向き合う研修開発と全国ネットワーク形成―


 (1)に関わる提案で、海外で実践されてきた「反うわさ戦略」を参考にしつつ、日本国内で研修を通じて、これを実践する経験の共有を図ることを目的としています。すでに10都道府県で5年間、経験を積んできたことも、地味ながら時宜にあった提案として高く評価されるに至りました。プロジェクト参加者も多様で、しかも法律から教育、自治体行政まで、幅広い領域の専門家が参加している点も評価されました。

D25-MG-0058 申 明直(熊本学園大学 外国語学部 教授)
持続可能な多文化共生圏の構築を通じた農村における外国人材育成プロジェクト


 (1)に関わる提案で、農村地域で外国人材を育成するため、農家と大学教員とが協働して多文化共生プラットフォームを作り上げ、フェアトレードの認証システムの構築や、農家育成塾を開設することを目的としています。熊本を基盤にしたプロジェクトで、これがどれだけ他地域にも普及しうるか案じていた選考委員もいましたが、申請者の回答から、その具体的なアクションがイメージでき、採用に至りました。

D25-MG-0060 鈴木 真帆(認定特定非営利活動法人アイキャン 代表理事)
移民2世のキャリア選択肢の拡大と地域産業のデジタル業務外部化による地域活性化 ―小口業務を核とした実装モデル―


 (1)に関わる提案で、移民2世が非正規労働に固定してしまう現状を打破すべく、地域作業のデジタル分野で力を発揮できるための仕組み作りが目的となっています。岐阜県美濃加茂市と可児市を対象に、ロールモデルによる伴走のもと、地域産業の活性化にも繋がる「一石二鳥」の取組として評価されました。他方で、こうした取り組みを他地域にも広げていくための活動にも力を入れてほしいとの注文もついています。

D25-MG-0066 弓野 綾(横浜市寿町健康福祉交流センター診療所/東京大学大学院医学系研究科医学教育国際協力学部門 総合診療医/特任助教)
オンライン診療×多職種ネットワークによる外国人医療アクセス改革プロジェクト


 (1)に関わる提案で、多言語問診や医療通訳、診察、紹介状作成などを一体化したオンライン診療を、外国人を対象に拡げていくことを目的としています。選考委員会では、日本の医療機関にとって負担感が強い外国人診察を拡げていくための工夫がなされている点に、高い評価がなされました。他方で、最初は前金を払える外国人に限定せざるを得ないものの、間口を広げるよう努力を継続してほしいとの注文もついています。

D25-MG-0068 武田 裕子(順天堂大学大学院医学研究科医学教育学 教授)
外国人介護人材の支援体制構築に向けた動画教材および協働的コミュニケーション研修プログラム開発


 (1)と(3)に関わる提案で、2025年から可能になった外国人介護人材による在宅介護をスムーズに進めるための動画教材や、「やさしい日本語」を用いたコミュニケーション研修プログラムの開発など、外国人介護人材を支える体制づくりを目的としています。申請者は2019年に本申請の前身となるプロジェクトで本プログラムの助成を受けており、前回のプロジェクトの成果が上がっていることが今回の採択に繋がっています。

●おわりに

 昨年までは(4)や(5)に関わる提案で採択に至るものも見られましたが、今回の採択案件は(1)に集中しています。もっとも、細かく見ればその内容も千差万別ですから、(1)のカテゴリーは他に比べても包括的なことが原因なのかもしれません。
 前回の選後評でも指摘しましたが、採否の重要なポイントは、提案されているプロジェクトの重要性ばかりか、そのユニークさをアピールしつつも、これを特定の地域・対象に限定するのではなく、できるだけ広くモデルとしての普及性を意識した提案内容となっているかどうかです。確かに重要なプロジェクトではあるものの、特定の地域・対象に限定して、その制度的な展開を意識していない提案は、あまり高く評価されません。具体性を備えつつも、ビジョナリーな提案を書くことは決して簡単ではありません。申請をお考えになっている方々には、是非とも、以前の採択プロジェクトをご覧いただき、どのような点がアピールしたのかを推測しつつ、申請書を書いて頂きたいと思っています。

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