選考委員長 鈴木真里
(特活)アジア・コミュニティ・センター21 副代表理事・事務局長
2026年度「アジアの共通課題と相互交流ー学びあいから共感へー」選後評
国際助成プログラムは、昨年度に引き続き、2026年度は「アジアの共通課題と相互交流-学びあいから共感へ-」をテーマとした。
本プログラムは、日本を含む東アジア、東南アジア、南アジア(2022年度から対象)の国や地域のうち2つ以上の国や地域が抱える共通課題に対し、あらゆる領域のプロジェクトを助成するものである。
「国際性」(複数国からなるメンバーの対等な参画)、「越境性」(異なるセクターを巻き込んだチーム作りと協働)、「双方向性」(直接交流を通した学びあいと経験の共有)、「先見性」(将来の発展につながる新しい視座の獲得)を満たしながら、同じ課題に取り組む仲間としてプロジェクト・チームが「共に考え、行動し、創りあげる」こと、さらに、双方向の学びのプロセスのなかで、社会変革につながるパートナーシップに発展することが期待されている。
プロジェクト活動を通じて期待される成果は、1) 課題の設定とそれに対する現状のレビュー、2) 課題解決につながる諸活動、3) 成果物(Tangible Output)としての提言・作品等の作成・発信である。
2026年度助成の公募は、2026年4月1日から5月31日までの2ヶ月間行われた。
「対象国」は前年度に引き続き、日本を含む東アジア・東南アジア・南アジア(2022年度以降対象)、「助成額」については、1年間は上限500万円/件、2年間は上限1,000万円/件、予定総額を8,000万円とした。
なお、2025年度助成から、プロジェクト予算総額の10%を超えない範囲の管理費の申請も認めている。
2026年度の公募と事前登録・応募件数
- 2026年4月に2回説明会を開催し(オンライン)、計約210名(前年度比40名増)が参加した。このほか、メーリングリストへの配信やSNSなどを通じ、本プログラムの周知を図った。
- 公募期間中、申請検討者が作成したコンセプトノート(企画概要)をもとに、事務局が131件(前年度比約3割増)の事前相談メール、オンライン、対面)に応じた。
- 「事前登録」は、2025年度比約500件増の1,100件以上となり、南アジア地域(2022年度以降対象)からのアクセスが増えた2024年度の1,053件を上回った。
- 「応募件数」は前年度比208件増(約86%増)の446件(事前登録件数の約40%相当)となった。2018年度(242件)の約46%増となり、コロナ前の件数を大幅に上回った。
| 2024年度 | 2025年度 | 2026年度 | |
| 事前登録数 | 1,053件 | 599件 | 1,100件以上 |
| 応募数 | 189件(同17%) | 238件(同40%) | 446件(事前登録数の40%) |
応募案件の概観(全446件)
- 過去に財団から助成を受けたことのない方々(※)からの応募は、本年度の応募件数の90%にあたる402件となった。昨年度(88%、209件)に引き続き、本プログラムが広く周知されたことがうかがえる。
- ふたつのプロジェクト助成期間(1年間、2年間)のうち、1年助成として申請したプロジェクトは73件(16%)、2年助成は373件(84%)であった。
- 「対象領域」は応募者が企画書に自由に記載するもので、カテゴリーを選択する書式ではないため明確に分類することが難しいが、主に次のように分類できる:
1. 環境、気候変動、循環型社会、エネルギー
2. 教育、人材育成、AI学習
3. 医療、公衆衛生、ヘルスケア、メンタルヘルス
4. 防災、減災、災害レジリエンス
5. 人権、ジェンダー、多様性、社会包摂、福祉
6. 地域創生、コミュニティ開発、都市計画、ツーリズム
7. 文化、芸術、多文化共生、国際交流
8. 国際協力
9. 高齢者福祉・介護、超高齢社会
10. 農業、食料安全保障、アグリフード
11. AI、先端技術、デジタルガバナンス
12. 平和構築、平和教育
13. 労働
14. ガバナンス
- 代表者の国籍:本プログラムでは、応募主体の代表者の「主たる居住地」が日本であることを要件のひとつとしている。申請代表者の国籍の上位は、日本250件(応募件数の56%)、インドネシア88件(同19.7%)の2ヶ国で全体の約76%を占めた。次いでマレーシアおよびインド各11件、韓国、モンゴル、米国各8件、中国、フィリピン、ベトナム各6件等であった。地域別では東アジア275件(62%)、東南アジア121件(27%)、南アジア24件(5%)、その他26件(6%)となり、前年度に比較し東南アジア(前年度は21%)の割合が増えた。
- 対象国は、日本を含む東アジア・東南アジア・南アジアの国と地域を少なくとも2つ以上含めるという要件を満たした上で、参照先としてそのほかの地域の国も含めることができる。2026年度の全446件の申請プロジェクトの対象国は30ヶ国以上にのぼり、2または3ヶ国でのプロジェクトが多くを占めた。対象国は日本が最多(338件)、次いでインドネシア(241件)、マレーシア(106件)、タイ(74件)、フィリピン(62件)、ベトナム(50件)、インド(47件)、韓国(43件)、台湾(38件)、バングラデシュ(32件)、ネパール(32件)、カンボジア(26件)、中国(25件)、シンガポール(24件)、モンゴル(19件)、スリランカ(15件)、パキスタン(11件)など。
対象地域別では、東南アジアが最多で49%、次いで東アジア39%、南アジア11%、その他の地域1%となった。
※トヨタ財団の過去の全プログラムの助成プロジェクトの代表者・中心的なメンバーを含む。
選考プロセスと選考結果
以上、本年度に応募された446件について、事務局のプログラムオフィサーが、全案件の提出書類を確認し、書類の不備の有無を含め、応募要件を満たしているか等を確認して整理し、選考委員会に審査を依頼した。
本プログラムの選考委員会は4名で構成されており、うち1名は新任である。まず各委員が申請書を査読し、推薦する案件を選び、企画書を読んだ所感、申請者への質問、評価などのコメント要旨を加え、事務局が推薦案件を集計した。各委員は、後日得られた申請者からの回答を読み込んだうえで、推薦しなかった案件の評価理由を含め、それぞれの案件の評価理由を述べた。
本年度は近年で最高水準の申請件数であっため、狭き門となった。さらなる気候変動の深刻化と大規模災害の頻発、急速なAIの拡大など、グローバルイシューを含めたさまざまな問題に直面するなかで、学び合い、交流を深め、互いの違いを認め、そして尊重し合いながら、よりよい未来を創りたいという企画者・グループの気持ちがそれぞれの申請書に込められていた。国が異なるメンバーと時間をかけて準備し、申請書を提出された皆様に敬意を表したい。
採択プロジェクトの概観(9件)
以上の選考を経て、2026年度は9件(助成金額合計8,000万円)が採択された。
- プロジェクト件数と期間:全9件、2年間(全件)
- 対象国(2か国以上/件):日本(4件)、韓国(3件)、インドネシア(3件)、フィリピン(3件)、台湾(2件)、タイ(2件)、ベトナム(2件)、バングラデシュ(2件)、東ティモール、スリランカ(各1件)
- 主な対象領域:環境、気候変動、教育、メンタルヘルス、高齢者福祉、防災・減災、平和構築
- 取り組む問題・課題:気候変動へのリスク・災害対応、子ども・若者の自殺、子どもの権利や多様性の推進、認知症、AI教育
参考として、本年度の選考対象案件や本助成プログラムについて、選考委員からは、次のような感想、コメントがあった。
・課題がしっかりと設定された案件は多い一方で、単に知恵を交換するだけでなく、質の高い学び合いにするためには、大きく座組を変えずとも、必要な関係者を適切に巻き込む、大切にすることは何かといった点を意識することにより、質や成果が大きく変わる余地がある。
・助成期間中に行われる取り組みだけで成果を出すことは難しいかもしれないが、本助成プログラムを通じ、どのようなきっかけを生み出し、その後の交流や発展につながっているのかについて整理して考える必要がある。
・直接的な被害を受けている人、最も困難な状況に置かれている人だけでなく、課題に寄り添い、支援を行っている人々も「当事者」として捉えることができる。大きな問題を解決していくためには、誰に働きかけてどのような変化を生み出したいのか、どこを動かすことで全体が変わるのかという設計が重要である。全体の構造の中でどの要素が大きな影響力を持っているかを見極める視点を取り入れてほしい。
・異なる国同士の学び合いは本助成プログラムの大きな特徴のひとつであり、同時に高いハードルでもある。国を超えた学びあいの意義は大きいが、一方で形式的な条件に引っ張られ、数合わせのように国を追加しているように見える取組もある。なぜ学び合う必要があるのか、どのような価値が生まれるのかを考えて設計していただきたい。
・必ずしもすべての取組が成功する必要はないと考える。うまくいかなかった場合、なぜうまくいかなかったのかを丁寧に振り返り、議論し、その過程や結果を記録していただくことにより、個々のプロジェクトの成果だけでなく、事業全体としての価値も高まると考える。
・社会課題の解決を重視するのであれば必然的に専門性の高いグループが中心となるが、専門性が高い分野では既存の知見や活動の延長線上で議論が進む傾向にあるため、新たな学び合いの可能性がどこにあるのかを明確にすることが重要であると考えた。一方で、中間支援組織や仲介者が関わり、参加者の理解や問題意識の醸成を促すようなプロジェクトにおいては、直接的な課題解決が主目的ではなく、学び合いや交流することそのものの価値を重視する傾向にある。このように、選考対象案件の企画者、参加者のバックグラウンドによって、何を重視して選考するかという軸を一貫させることの難しさを感じた。
採択案件の紹介
最後に、今年度の採択案件9件のうち、2つのプロジェクトを紹介する。
| [代表者]廣田智也 |
| [題目]こども・若者のウェルビーイングを目指す日韓協働プロジェクト:若者文化の視点を取り入れた自殺予防と実践指針の共創 |
| [対象国]日本、韓国 |
| [期間]2年間 |
| [助成金額]950万円 |
[プロジェクト概要]
本プロジェクトは、日韓共通の深刻な社会課題であるこども・若者の自殺問題に対し、
医療、教育、行政、民間支援、文化的実践、当事者活動の専門家が協働し、若者のウェルビーイングを目指す。高度デジタル化社会において、SNS等でのリスク行動の広がりや、ブラックボックス化する若者文化など、従来型の枠組みでは対応困難な先行的課題に焦点を当てる。
日本側は韓国から、学校での予防教育や文化芸術を媒介とした若者ケア、メンタルヘルス研究を学ぶ。韓国側は日本から、検索連動型のデジタルアウトリーチや市販薬オーバードーズへの当事者ピアサポートの実践知を学ぶ。
定期的なオンライン会議と現地への相互訪問を通じ、双方の先進的実践を往還的に検討。デジタル環境に対応した「若者文化の視点を取り入れた自殺予防の実践指針」と共同提言書を共創・発信し、将来的に他のアジア諸国でも参照可能な国際協働モデルの基盤を築く。
選考委員会では、若者自身の参加が見えづらいというコメントがあったが、医療や教育だけでなく制度や文化、デジタル空間、当事者経験などを含めた複合的な課題として自殺の問題をとらえていること、既存のネットワークを活かしながら新たなメンバーを加えた体制で取り組むことが評価され、採択された。
| [代表者]利根川裕太 |
| [題目]Project AILIC:相互視察と対話による実践的AIリテラシー教育モデルの国際共同開発 |
| [対象国]タイ、インドネシア、バングラデシュ |
| [期間]2年間 |
| [助成金額]950万円 |
[プロジェクト概要]
生成AIは新たな学習機会をもたらす一方、活用格差、誤情報の氾濫やサイバーリスク等の課題も生んでいます。本事業「Project AILIC」では、タイ、インドネシア、バングラデシュの教育関係者が参画し、リソースの限られた中等教育学校向けの実践的なAIリテラシー教育モデルを共同開発します。オンラインでの相互学習や、それぞれの国を実際に訪問する現地視察、協働的な振り返りを通じ、効果的な指導法や現場の課題、地域に応じた解決策を検証します。期間中に3カ国で300名以上の生徒と30名以上の教員を巻き込み、開発した教育モデルや知見を報告書、学術論文、ドキュメンタリー映像としてまとめます。これらの成果をAPCSE Conference(アジア太平洋地域の情報教育の国際会議)等のICSECの各種コミュニティ活動を通じて広く発信し、アジアにおける教育実践や政策対話、地域間連携の発展に寄与することを目指します。
選考委員会では、参加各国にネットワークがあり、対象学校が特定されており、具体的な成果を期待できること、専門的なメンバーがそろっており広く参照されうる指針づくりが期待される点が評価され、採択された。その一方、状況の異なる国を比較することになるため、文化社会的な要素、社会階層による影響に十分に留意した上で取り組みや評価を行い、丁寧に記録に残すことを意識していただきたいという要望も寄せられた。
