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  • 特定課題 先端技術

2025年度 先端技術と共創する新たな人間社会 選後評

選考委員長 國吉 康夫
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授

特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」の選考について

特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」は、2018年の開始以来、AIをはじめとするデジタル技術と人間社会の「共創」をテーマに掲げ、多様なプロジェクトを支援してきました。
2020年には、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、オンラインを軸とするデジタル技術が私たちの生活の深部にまで浸透する契機となりました。最近では生成AIなどの革新的な技術が人間の知的活動に著しい変化をもたらしつつあり、社会の在り方を大きく揺るがしています。このような時代の転換点を捉えていくためにも、本プログラムでは2022年度に独創的かつ萌芽的な挑戦を後押しする「個人研究」枠を新設しました。そして、今年度は生成AIの活用の広がる現状を踏まえ応募要件を見直し、開発費の上限を撤廃しつつ、研究機関の間接経費を認めるなど、時代の要請に応じてプログラムを進化させてきました。 

今年度の応募状況をみると、生成AIへの関心の高さが鮮明に出たものとなりました。応募総数は、過去最多の93件(共同研究62件、個人研究31件)にも達し、前年度比で約2倍に増加しました。選考結果は、共同研究6件、個人研究3件となり、共同研究、個人研究ともに昨年と同じ採択件数です。 

応募数が倍増した一方で、研究チームの構成が大学や研究機関の同じ専門領域に偏る傾向が見られました。それらは生成AIを扱うものが多く、学術研究としては一定の評価ができるものの、独創性や特徴に物足りなさを感じる提案も散見されました。また、さらに重要なのは社会的課題に対する視点が限定的で、成果の社会的発信も十分に考慮されていない案件が見られたことです。本プログラムは、デジタル技術をめぐる諸課題に対応するため、「文理の融合」を訴えるとともに、学術研究の枠を超えた多様なアクターによる協働を推進してきました。しかし、こうした趣旨を十分に踏まえていない提案も少なくありませんでした。次年度はこれらの点が改善され、さまざまなステークホルダーの参画のもと、デジタル技術と人間社会との「共創」の在り方が議論され、独創的かつ野心的な挑戦が展開されることを期待します。

以下に、採択プロジェクトより、共同研究と個人研究を1件ずつ紹介します。

〈共同研究〉
D25-ST-0046 福山智子(立命館大学理工学部建築都市デザイン学科 教授)
「建設用3Dプリンタのブラックボックスを解く:内部可視化技術による『品質管理の共通言語』の確立と社会共創」
本プロジェクトは、建設用 3D プリンタの急速な導入に伴い生じている「成果物品質のブラックボックス化」という社会課題に対し、構造物の内部を可視化し、市民でも直感的に危険・安全がわかるインターフェースを構築します。さらに、市民・技術者・行政など多様なステークホルダーがそれを「共通言語」として活用し、市民参加型の合意形成を目指す点が、独創的かつ意欲的です。「見えない不安」を「見えるデータ」へと転換し、それを社会全体で共有する方策を打ち立てることで、技術が適切に社会実装される事例となることを期待しています。

〈個人研究〉
D25-ST-0090 五十嵐光(特定非営利活動法人ウィメンズアイ テクノロジーアドバイザー)
「Living Lab 気仙沼 『共に生きる未来をプロトタイプする』:地域の生活世界から探る新技術導入の可能性」
本プロジェクトは、地域社会における先端技術(生成AI、ブロックチェーン等)の導入において、外部主導での取り組みが地域の生活実態と乖離し、機能不全を招いている現状を鋭く捉えています。そのうえで、人と技術の「再接続」を実践の場を通じて検証する意義深い試みです。生活に根差した視点を重視し、先端技術の地域社会に受け入れられる条件や共創が生まれるメカニズムの解明を目指す意欲的なプロジェクトであり、地域の現場から具体的な知見や新しい視点が提供されることを期待します。

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