トヨタ財団が助成活動をするうえで意識していることの一つに、助成を受けた人同士がつながるようなきっかけや場を提供することがあります。助成を受けているプロジェクトに関することだけではなく、その後にも広がっていくようなつながりが生まれることを期待して、意識的に報告会や交流会などの場を設けています。
今回お三方にお声がけしたのは、先日、たまたま西山さんと佐藤さんとお話する機会があったときに、そういう私たちの意図を超えた自主的なつながりから新しい展開が生まれているという話をお聞きしたからです。
本号の特集は「人がつながる」。そして今年度の通年テーマは、本誌タイトルとも重なる「JOINT:つなぐ/つながる」です。プログラムの枠組みや年度の垣根を超えて共鳴しあうお三方に、そのつながりの実情と可能性をうかがいました。
出会いが紡ぐ新たな未来
三人の関係性と活動状況
加賀 お三方にご自身の活動内容をご紹介していただきたいと思いますが、まず、なぜ今日私のカフェカガモクでやっているかを説明しますね。2021年12月、当時西山さんが助成を受けて『公民館のしあさって』という本を出版されたのですが、その本についての全国キャラバンのキックオフをここで開催したんです。月に一回、いろんな人とカレーを食べながら地域のことなどを語る場をこのカフェで開いていたので、その企画の一つとして、本のお話や公民館のお話をしていただきました。
財団のスタッフも参加することになっていたのですが、せっかくの東北出張なので、東北大学の佐藤さんにもお話をうかがうべく仙台でお会いして、今日これから鳴子でイベントがあってそれに行くんですよと話したところ、佐藤さんが、そんな面白い会があるんですか? 行きます! って飛び入り参加してくださったんです。なので、カガモクが佐藤さんと西山さんの出会いの場となりました。
佐藤 そうですね。 もともと保健師という仕事をしていたので健診などで公民館に出入りする機会が多くて公民館が身近だったこともありましたし、コミュニティを考えた時に、日本においては公民館って欠かせなかったはずだぞ、これは行った方がいいかもしれない!!と直感で思いました。泊まる用意なんてしていなかったので、仙台駅で財団のスタッフの方と衣料品を買いまわったり、加賀さんに宿を取っていただいたりして、急遽ここに来ました。
加賀 私としては、この本の出版キャラバンで会ってつながりは終わりだと思っていたんですけど、 なんとその後、お二人はさらに展開していったわけですね。
佐藤 私たちがもう一度つながり直したのは、2022年10月でした。私が当時所属していた東北大学の公衆衛生看護学分野というところでは年に4回研究会をやっていました。専門はもちろん看護学なのですが、看護じゃない分野の方からお話をいただく機会を年に3回設けていて、2022年はその研究会の係がたまたま私だったんです。それで看護の話に近いような、でも他分野の人をリストアップして、学部生はじめ院生などにも、お話を聞いてみたい方についてアンケートを取りました。1番希望者が多かった方に連絡したら日程が合わないということだったので、2番目に希望が多かった西山さんにぜひにと話をさせていただいたんです。 実はその1番目の方っていうのは、(渡辺)知花先生だったんです。
渡辺 え!? 私? 2022年ですか? 覚えてない!
佐藤 全然いいんです(笑)。でも断っていただいたおかげでと言っていいのか、西山さんと再びつながることができました。コロナが流行っていた時期で集まるのもなかなか大変だったんですけれど、わざわざいらしてくださって、ナイチンゲールについて社会教育の視点からお話ししていただきました。
そういえば知花先生、私、博士論文を間もなく提出できそうで、PhDキャンディデイトになりました!
渡辺 おめでとうございます!
佐藤 ありがとうございます。2021年末にここに来た時はまだ修士課程だったんです。研究っていうものがよくわからなくて、いろいろとドロドロしたものを抱えながら模索していた時期だったので、川渡に行くということや、キャラバンで公民館のお話を聞くのもなにか研究の突破口やヒントがあるかもしれないと思って、半ばわらをもつかむ気持ちで来ていました。
活動状況としては、当時はシングルマザーのオンラインでのピアグループを研究していて、なぜ対面ではなくオンラインの場に集まるのかという問いを発展させてきました。語りづらさを抱えた人にとって対面でのコミュニケーションは、ときに予期しない方向に進んでしまったりと何かとやりづらい。それゆえ、オンラインという司会や時間、ミーティング次第といったある程度構造化できる場ということが、彼女たちの安心につながっていることがわかってきました。博士課程に進学して、よりその課題を磨いていく中で、一つそれまで見逃していたことがあって、それはその活動の中で行われていた、自己の経験を「書く」ということ。そして、それを仲間と読み合うということについて今は深めています。当事者たちが書くっていう文化的な作業とそれを発信することが、わたしたちの世界の知の構造や風景をどういうふうに変えていくのかな、みたいなところに興味をもって取り組んでいます。
もう一つ、看護の分野にいたということもあって、もうオタク、趣味的な感じでナイチンゲールという人が気になっています。昔からそんなに大好きっていうわけじゃないんだけど放っておけない人みたいな感じがあったんですよ。それで大学院でプラグマティズムの考え方に出会ってから、なんとなく気になるあの人─ナイチンゲールっていう人─をプラグマティズム的に読むことができないだろうかっていうことを思っていたら、西山さんからある日突然連絡がきて、西山さんともその部分で再びつながり始めているといった現状です。今日はよろしくお願いします。
西山 よろしくお願いいたします。さっき加賀さんにご紹介いただいた『公民館のしあさって』という書籍は、トヨタ財団の非公募の助成事業で展開させていただいたプロジェクトです。経緯としては、ちょうど10年前に鹿児島の別のプロジェクトで最初に国内助成で採択いただいたのをきっかけに、そこで同じ年度に助成を受けていた助成先の一人とつながって「公民館のしあさって」というプロジェクトができました。
この書籍の出版に深く関わったんですけれど、私は社会教育とか公民館に造詣が深いわけではありません。外野に生息している人間が、エジプト・アラブ共和国で公民館を作らせていただくという、ちょっとぶっ飛んだ話でした。エジプトに公民館を作りに行ったのをきっかけに日本の公民館について知れば知るほど、私には日本における社会教育がいまいち盛り上がっているように見えなかったので、じゃあそれを盛り上げていこうということで、何人かのメンバーと一緒にプロジェクトをやっています。
最後に余談ですが、今日の鼎談について加賀さんから最初にメッセージをもらった際、私はちょうどロンドンに着いた数時間後だったんですよ。そのメッセージにはマンチェスター在住の渡辺さんも含めた鼎談をいかがですか? って書いてあって。メッセージを受け取ったときはロンドンにいたのですが、その前にマンチェスターに行っていたのでこれも少なからぬつながりかなと思っています。
渡辺 偶然のつながりで面白いですね。改めましてマンチェスター大学で文化人類学をやっている渡辺です。私は2019年度、日本とチリの防災と遊びを使ったつながりに興味を持って応募したプロジェクトに助成をいただきました。最初は、日本とチリの防災に関する国際協力だけのテーマで始めたんですけれど、その中でプラス・アーツの永田さんに出会って、すごく面白いと思ったので、防災と遊びってどうやってつながっているのかを見てみようと思って始めました。
2016年にJICAの防災関係の研修に行った時に、チリのタルカワノ市からボリスさんという方がいらしていました。タルカワノは2010年の地震津波で甚大な被害を受けたところで、1960年にも大きな地震があった場所です。チリに初めてできた防災課というデパートメントでチーフをやっている方で、たまたま日本とチリの研究を始めたいと思っていたので、なかば強引にランチの時に一緒に座って、遊びに行ってもいいですか? って聞いたらいいですよって言ってくれたので、2017年に初めてタルカワノに行きました。ボリスもJICAの研修を通して永田さんの研修を経験されて、カエルキャラバンにすごく衝撃を受けてタルカワノでもボリス流のカエルキャラバン的なことをやってきました。防災と遊びっていうつながりはチリでも起こっているというのを見たので、日本とチリの比較というよりは、日本の防災と遊びを使った手法はどうやってチリで実施されているのかに興味を持ちました。
しかし、コロナ禍で2020年、21年とチリに行けず、代わりにボリスと、トヨタ財団のプロジェクトで共同研究者になっていたコンセプション大学のジェニーさんに、私が予定していた活動をやってくれないかと頼みました。
タルカワノでのカエルキャラバンでゲームは作ろうと思っていたんですけど、最終的には小学校で教えるカリキュラムも作ろうという話になって、ドキュメンタリーを作って、コミックを作って、インタビューした方々の話をイラストにした本を作りました。予定より長引いてしまって終わったのが2023年でしたので、トヨタ財団さんには本当にお世話になりました。
人と人のつながりを担う場所
渡辺 佐藤さんが講義の依頼ではなくイギリス留学の件でご連絡をくださったのは2023年でしたか?
佐藤 夏頃ですかね。
渡辺 私は前の研究が国際協力支援で、人を助けるテーマにはすごく興味持っていたので、いいですよと返事をして。それで翌年マンチェスターにきてくださったんですよね。
佐藤 2022年に看護の研究会の依頼をさせていただくときに、知花先生がこのような研究をされているというのは存じていて、その後一方的に片思いをしておりました。同じ研究室の岡田彩先生(2018年度研究助成 代表者)が知花先生と同じ年にトヨタ財団の研究助成を受けていらしたので、中間報告会などで他にこんな研究をされている方がいらしたよ、といろいろなお話を聞いていたのも影響があったかもしれません。
留学に関して資金的なサポートを得るためには所属研究室とはまた異なった視点で研究についてアドバイスをくださる、受け入れ研究室を探さなければなりませんでした。それでどうしようってなったときに、岡田先生がこの研究はトヨタ財団でのご縁だし、トヨタ財団に関係があるどなたかにお願いしてみたら? って提案してくださったんです。それで知花先生に突然で申し訳ないのですが……とご連絡をさせていただきました。
渡辺 突然でしたが、トヨタ財団のつながりがあったから信頼できたというところもあります。
佐藤 同窓生みたいな感じで、きっとわかってくれるんじゃないだろうかと思って。思い切って投げてみました。そうしたらボールを受けてくださいました。
西山 トヨタ財団もここ数年アルムナイプロジェクトみたいなことをされていますよね。
加賀 そうですね、国内助成プログラムは特に。
佐藤 あ、そうなんですか。
西山 あえて佐藤さんが同窓生の話題を出したのかと思った。
加賀 ご存じなかったですか?
佐藤 はい。
西山 今度沖縄で開催する案内が送られていますよね。
加賀 はい。トヨタ財団には助成の枠組みが大きく三つあって、西山さんは国内助成というプログラムがメインです。そちらではアルムナイ企画というのを定期的に開いて、同窓会的なことをやっています。 研究助成ではそこまでできていないんですけど、中間報告会やワークショップを開いて交流の場を作っています。
西山 しかもこの企画、太っ腹だなと思うのは、旅費の負担もしてくれるんですよ。
佐藤 そうなんですか。
西山 いつもちっちゃく米印で「旅費はこちらで持ちます」って書いてあって。
佐藤 じゃあ行かなければですよね。
西山 助成先のアーカイブとかストックって、財団にとっては多分めちゃくちゃ大事なんだろうなと思うので、そこまでしてくれるのかな、と。でも、そういうつながりがあるからこそ、新しいプロジェクトがどんどん生まれているような感じがしますよね。
加賀 今回はこのお三名を取り上げていますが、年間通していくつか同じようにインタビューをやっていこうと思っています。そういう場を通じて、もしくは利用してもらって、新しいつながりが生まれているようなので、企画している側としてはすごく嬉しいですね。

新しいつながり方、研究者の視点
渡辺 西山さんには公民館についてお話をお伺いしたいです。すごく面白いと思うので。
西山 あ、そうですか? 渡辺さんから見て、公民館に興味を持っていただけるようなポイントがありましたか?
渡辺 まだ全然動いてはいないのですが、新しいプロジェクトを始めたいと思っているんです。プラスアーツの活動を見てきて、あれは基本的に子どもがターゲットじゃないですか。でも、人口減少が進む日本と世界を考えると、なんで子ども相手だけなのかなってずっと思っていて。日本で防災というと家族単位じゃないですか。パンフレットなどを見ていると、お父さんお母さんおばあちゃん、子どもが二人というような絵が描かれているんですけど、でもそういう家族ではない人たちは多いし、増えていますよね。
日本のコミュニティ防災は、近所の人たちと協力しましょうとか、家族で防災しましょうということがメインです。もちろんそういうメッセージも、プラスアーツの子ども向けの防災教育もすごく大事だと思うんですけど、コミュニティがなくなっていくようなところで、どうやって近所と協力すればいいのか、自治会には若い人がいなくなっていて全員七十代、八十代だったらどうやって防災すればいいのか。そうしたなかで公民館や図書館、ソーシャルインフラストラクチャーというものが、すごく大事な役割を担っていく、いると思うんですよね。 防災の段階でそのつながりがあるからこそ、災害が起きた時に協力しましょうということになるはずで、人口が減っていくなかで防災の観点から自治会、公民館、図書館のようなスペースがどういう役割を担っていけるのか、それで公民館について聞いてみたいなと思ったんです。
西山 まったくもっておっしゃるとおりです。先ほど申し上げた、日本の社会教育や公民館が待望されてエジプトに作ったものの、振り返ってみれば、日本がいまいち私には盛り上がっているようには見えなかったところが、今お話しされたところとつながってくるんじゃないかなと思います。公民館とか社会教育とか地域社会とか、今の渡辺さんの言葉だと、それらをコミュニティって表現されていましたけども、それってニアリーイコール地域社会のことだと思うんです。
公民館が何をするところか、難しく表現すると「社会教育を実践するところ」なんですけれど、その実践フィールドはどこかというと地域社会なんです。なので、社会教育は公民館活動を通じて、地域社会でいろいろな実践を経験的に学んでいく。社会教育というのは世の中で起こるできごと全てが対象の範疇なので、防災や災害対応もそのパートの一つです。日本では発災直後から半年間くらいは災害に対して多くの目線が向くんですが、ある方の言い方では、「私たちは災害と災害の間の日常を生きているから、防災は日常にどれだけ防災という顔をしないで、エンターテイメント的にやっていけるのかっていうのが問われている」と。
さっきの永田さんのカエルキャラバンなんかがそれだと思いますが、アジアを中心に海外展開も多数やっていて、あまり「そのまま」の展開にこだわらずに、柔軟にカエルが何か他の動物に変わったりしていますよね? そういうものが日常にインストールされていて、防災や災害対応の顔をしていない。日常をより良く豊かに生きるための、いい意味でのエンターテイメント性を持った、プラスアーツのゲームのデザインは上手だなといつも見ていて思います。
日常をつないでいくそのフィールドとして、公民館とか社会教育はめちゃくちゃ大事だなと思うんですけど、これは私たちがどこまでやる必要があるのか、いつも疑問に思ってプロジェクトをやっています。今申し上げた公民館を盛り上げていく活動をしちゃったら、社会教育を盛り上げていかないといけないし、地域社会を盛り上げていかないといけないからです。結果的に私は、公民館活動が豊かになっていかないといけないということに気づいてしまった責任を取りまして、壮大すぎるんですけどやっています。渡辺さんのご関心の防災は重要なパートの一つだなと思って見ていたので、私たちがご一緒できることがあれば面白いんじゃないかな。
渡辺 面白いと思います。加賀さんのカフェも人をつなぐという意味では公民館と同じような役割を果たしていると思います。佐藤さんが研究されているピアグループも同じようなつながりを作っていますよね。近所単位とか家庭単位ではない、違うつながり方で、どういうふうに今の日本人ってつながっているのかっていうのを理解しないと防災もできないと思います。
防災教育をやっている人たちと話していると、リタイアされた方が多く、 20代、30代、 40代の方たちは防災教育から外されている感じがします。仕事で忙しかったり、地域の活動などに興味がなかったり、若い人たちが自治会に入りたがらないとも聞きます。でも、どこかでみんなつながっていると思うので、そういうつながりを理解して研究する。また、家庭のあり方が変わってきているところで、それに基づいた防災のあり方、防災教育の仕方というのが必要なんじゃないかなと思っているところです。
西山 それ、やりたいですね。今おっしゃった、いわゆる現役世代の人たちが自治会などに参画してこないとか、排除されているとかに対していろいろなアプローチがありますが、私はここ数年でよくわかったんですけど、それはひとえに社会教育の衰退が招いた結果だと思っていて。
渡辺 というと?
西山 簡単に言うと、たとえば青年団などはこれまで「イエス」か「はい」で加入してきた団体なんですよ。
渡辺 なるほど。
西山 ある意味強制加入でした。20代そこそこになったら加入届を出して、もれなく受理される。現役世代が全員勢揃いしてびちっと縦でつながって、参画しない青年がいたら、それは上の世代から社会には参加しなきゃいけないんだって教えられる。かつてはポジティブな意味で社会教育のグリップが効いていた。なので、現役世代が関わらないなんて話はなかったんです。そこを現代にどれだけ持ち込むかは賛否あって、私も「イエス」か「はい」の加入届を絶対やるべきとは思っていません。いずれにしても、社会教育とか公民館活動がそこをサボってきた結果が今の日本社会の中に現れていて、それを今一度現代の中でどのように捉えて展開していくのかっていうのが求められている。
2026年2月に大規模な展示会を企画しているのですが、そのパートの一つで災害や防災の日常性を社会教育と掛け算しながら紹介していく展示コーナーを作る予定です。 渡辺さんの関心とめちゃくちゃ重なるところだなーって、お聞きしていて感じました。
渡辺 そうですね。
西山 今日のようなオンラインで、ちょうどこのぐらいの時間からトークイベントをやる予定なので、もしご都合が合えばぜひ登壇してください。(※実現することになりました)
渡辺 ありがとうございます。すごく面白いと思います。もっと聞きたいです。
佐藤 私のピアグループ研究にも、すごく共通すると思います。 ピアグループもみんなで集まって、お互い大変だったことを語り合っているわけじゃなくて、 そこで一緒に絵を描いたり、コラージュを作ったり。要は話し合うために来ているのではなくて、お茶を飲むとか編み物をしているなかで、そういえばこういうことがあったよね、と話し合うんです。
防災もきっと、防災です、避難訓練ですってやると、一歩引かれてしまうと思うし、ピアグループも、今日は困難を話す会ですみたいにしたら絶対誰も来ないと思うので、その辺が同じなのかなって。
渡辺 私は大学院に行く前に特定非営利活動法人ジェンという国際協力の緊急支援団体で働いていたんですけど、すごく覚えているのが、地震津波後のスリランカでプロジェクトをやったとき、トラウマについて直接話すのではなくて、一緒に編み物をしたり、漁業のものを一緒に修理したり、手で作業をしながら、さりげなく起こったことについて話せる場を作ることを重視していたことです。
アメリカ式の直接トラウマについて語るのではなくて、間接的にさりげなく横から入るようなことを重視していたという活動が、もう何年も前の話なんですけど、すごく記憶に残っています。間接的に行うってとても大事なんだなって。佐藤さんがおっしゃったことと同じだと思うんです。
佐藤 そうですね。 公衆衛生の視点から日常的な健康支援、病気になった時だけじゃなくても誰かと関わりあって、たとえばメンタルヘルスを日常的にケアしあっていくみたいなところでは、テーマは違うけど似たような感じがありますね。
西山 渡辺さんがやっているのも遊びがキーワードになっているし、取り組んでいる内容は全然違いますけど、近いんだなっていうのは感じました。
佐藤 不思議ですよね。助成対象者の方々と話し合っていくと、プログラムを超えて「なんかわたしたち似てるよね」みたいな話になるのは、トヨタ財団の助成対象者の中の会話でよくあるなと思っているんですけど、どうですか?
渡辺 日本でも他の国でのプロジェクトでも、今のこの地域だったり、その人のあり方みたいなところを追求しているプロジェクトが多いと思うので、場所はどこであっても、みんなが抱えているジレンマや課題は同じだと思います。どこに行っても地域のつながりが弱っているとか、若い人たちが地域の活動に参加しないということは言われています。でも災害は増えているし、家族のあり方もどこの国でもどんどん変わっている。なので、そういうところでつながるんじゃないですかね。普遍的なチャレンジみたいな。人類学者として普遍的とか言っちゃいけないのかもしれないですけどね。
助成を受けていろんなことを研究したり、地域で活動している方々に会う機会があるじゃないですか。地域で活躍する人、あとは研究として、課題に対してもっと広い視点で見ている人とか、いろんな立場の人を見ていて、同じ課題でも取り組み方とかアプローチの仕方が違っている方がいっぱいいて、すごくいいなって思うんです。地域で活躍している人は地域だけしか見てないこともあるけど、そういう人と研究者がつながると、もっといいものが生まれるんじゃないかなと。今日いらっしゃる皆さんは、どちらも結構見ている方々だなっていうのはすごく感じますね。 どちらも見ているし、どちらも行き来しているみたいな感じ?
プロジェクトを超えたつながり
加賀 今回のテーマは「人がつながる」ですけれど、皆さんはトヨタ財団の関係者とか関係なく、自分の研究とか興味関心など、いろんなところを超えてつながっていくっていうことを意識的にしているんですか?
西山 つながるって話にかこつけますと、トヨタ財団には個々の助成先の団体や研究者をつなぐ橋渡し役として、プログラムオフィサーが絶妙なポジションにいらっしゃるんじゃないかなと思いますね。私が公民館プロジェクトをやるきっかけになったのも、偶然もありつつ、プログラムオフィサーの方の絶妙な采配があったからだと思っています。
加賀 渡辺さんがボリスさんとつながったのもすごいですよね。ランチのときに話しかけて、そこからスタートですもんね。
渡辺 そうですね。 ボリスとのつながりは本当にありがたいと思っています。私が行けなかったからボリスに関わってもらって、そのプロジェクトがボリス自身のものにもなっています。遠くにいたので全然コントロールできないんだけど、でもそのおかげでいろんなものが生まれています。研究者側も自分のアイデアをあまり大事にしすぎないで、ある程度自由に使っていろんなことをやってもらうっていう、その体制も大事なのかもしれないです。
加賀 佐藤さんは、その辺は意識して関わってらっしゃいますか?
佐藤 私は、人に会ったら何かが変わると思っているところは結構ある気がします。だからイギリス留学に際して知花先生にお願いしに行ったときも、あえて、自分にとって厳しい状況のところに飛び込みたかったという思いもありました。そもそも取り組んでいる研究が自分のシングルマザー経験から出発したので、どうしたらいいのかわからない、苦しい、そういうところに研究の意欲みたいなものがあったんです。
大学院では環境や人間関係に恵まれて、とても充実した日々を過ごすことができました。でも、来年は博士論文を提出するというときになり、もしこの状況の中でこのまま書き続けていたら、自分がだんだんそのときの苦しかったこととかそういうことに鈍感になっていって、博士論文としてちょっとまずい方向に行きそうだぞ、これはなにか別なところと一度相互作用した方が良さそうだと思って異なる環境を求めました。
誰かと会って、話して積極的な意味で自分を壊してもらう、みたいなところがありますかね。そういう意味で意識的であるのかもしれないし、でも一方で、その時その時の出会いを大切にしているので、そんなに計画はしてないのかもしれない。既存の凝り固まった自分が壊されて何かいいものを思いつくかもしれないみたいなところは意識的ですね。
加賀 イギリスのお話が少し出たので、佐藤さんが行かれた時に、どんなことをしていたのか、少しお話をお聞かせください。
佐藤 2024年の春にマンチェスター大学にお邪魔させていただきました。自分の興味関心はシングルマザーというところで、行政では手の届かない部分を非営利団体などの民間団体が担っている、すなわち寄付金や助成金によって支援を受けているので、彼女たちはどうしても寄付場面で受益者になる経験が多いのですよね。でも、ファンドレイジング場面で受益者に焦点を当てた研究はそれほど多くない。それで受益者の研究の動向をもっと知りたいと思い、知花先生の講義を受講したり。
あとは、イギリスのチャリティ団体の方が寄付者と受益者の方々とのコミュニケーションをどのように調整しているのか、あるいはしていないのかをインタビューするにあたって、いろいろ知花先生に教えていただいたり、生活のサポートをしていただきました。
一番印象的だったのは、知花先生の講義に参加できたこと。 私は文化人類学に関しては本当にわからなかったので、いろいろな側面からの文献や理論枠組みがあるんだなっていうところが、すごく目から鱗っていうか、自分の研究をさらに豊かにしてくれそうな文献に出会うきっかけみたいなところを教えていただけたのがすごくありがたかったです。
文献との出会いもつながりかなと思うんです。知花先生からは実際に「こういう文献があるよ」、「これがあなたの研究に生かせるかもしれない」といった、文献との出会いを促していただきました。そういった出会い、自分の分野からの景色では全く見えなかった文献と出会わせてくれたことは、今の研究を豊かにしてくれて、思いもよらぬところから「それ、面白いね」と言ってもらえ、イギリスの先生方と一緒に慈善社会学に関する本の一部を担当させていただき、今度出版することが決まりました。
渡辺 佐藤さんは、私が何もしないのにイギリスコミュニティ生活にもう本当に入り込んでいて、 え、そんなことしてんの? みたいな。素晴らしかったです。すごく覚えているのが、お子さんの学校のチャリティ活動を通して地域につながっていた点。 日本だったら自治会というかたちで入っていくと思うんですけどね。 佐藤さんはチャリティをすると人とつながるんだみたいな 気づきもあって。
佐藤 チャリティってお金のやりとりだけじゃないところがありますよね。イギリスのチャリティって、日本の考えてるチャリティよりももっとエンターテイメント性がいっぱい詰まっていて、そういうところはすごく勉強になりましたね。まず、大人も子どもも楽しい。これからの新しい社会教育とか自治の在り方みたいなところのヒントになりそうな種がすごくあったような気がします。
西山 チャリティのことを私なりに補足させていただくと、日本人がチャリティって聞くと、「それは西山バザーか」みたいな、そういう印象しかないと思います。けれどイギリスにおけるチャリティという言葉が指す領域や意味はとても広いので、日本でここ十年ぐらいファンドレイジングって叫んでいるその源流の一つとしての在り方も含まれていますし、活動をいかにゼロベースで作っていくのかっていうところの考え方をアシストしてくれるような学びもあります。
全てがいいとは思っていないんですけれど、でもその考えるヒントにつながってくるような領域と意味が、イギリスにおけるチャリティにはバザーの百倍ぐらいある。そこから佐藤さんがおっしゃっているような学びとか、次につながってくるようなことはめちゃくちゃあるんじゃないかなと思います。
*
加賀 最後に今日の感想などをおうかがいしたいと思います。
佐藤 私、最近博士論文をずーっと書いていて……、こうやって4、5人で話す機会が日常も含めあんまりなかったんですよね。なので集まって話すことで脳のいろんなところが刺激される感じがすごくあります。少し考えたら面白いことがもっと湧いてきそうだなっていうワクワク感で今いっぱいです。
西山 今回の「つながり」っていうテーマをいただいて私がなんとなく想像してたのは、たまたまがたまたまを生んで、たまたまにつながってくるのがつながりなんじゃないかなと思っていて。 でもたまたまっていうと、それは偶然の話でしょ? みたいなことがよく取り沙汰されるんですが、神さまみたいなそういう人がもしいるんだとすると、たまたまという名の必然で、私はいろんなところに連れて行かれて、私が自ら動いてるわけじゃなくて、夢遊病のようにフラフラと世の中に出させてくれて、そのたまたまつながっていくものが、たまたまなぜかエジプトに公民館を作らなくちゃいけなくなったし、まだかたちになっていなかったりするよくわからないことにもつながってきているのが、楽しませてもらえてるところなんだろうなと思っています。
渡辺さんの場合は、大学に制度とか枠組みがあって、評価があるからという理由などで最終的にやらされ感はありつつも、そこでひねり出して楽しんでおられるなってめちゃくちゃ思いました。
佐藤さんは、話していてスルスルっと人とつながるのが早いし上手だなと思いました。ついこの間オンラインで一緒になった人とSNSでつながってる素早さは、佐藤さんピカイチで、私なんかは申請が来てもこの人誰やろな? みたいに放置されてるリストが長くなってます。
私は自分の意志というよりは、誰かに操られていないと多分世の中に進出していなかっただろうなと思う。だからつながりっていうたまたまが重なっただけで、責任感持たなくてもいいはずなんだけれど、見ちゃった責任を持つことにもつながってきてるんだろうなと思いました。つくづく社会教育だなと。そんな事を考えた時間でした。 ありがとうございます。
渡辺 お二人がおっしゃったことと似たようなことなんですけど、私は遊びと防災の調査をしていて、論文で「きっかけ」ということについて書いたんですよ。なぜかというと、いろいろな自治体に行って、なぜカエルキャラバンをして、どういうことを得たかったか、どういう成果を出したかったんですか? って市の担当者に聞いたところ、一回の遊びを通して市民が防災をすぐに始めるとは思わないけど、遊びや楽しい経験をして、防災について考えるきっかけを作りたいんですっておっしゃっていました。違う自治体の人でも同じようなそのきっかけという言葉を使っていらして、すごく面白いなと思って。そのちょっとの方向転換をできるきっかけってすごく大事なんだなと。
遊びとか楽しいっていうことは方向転換するきっかけになると思うので、このような集まりも、佐藤さんがおっしゃってたちょっと自分をぶっ壊すみたいな、普段の自分とは違うことをするって佐藤さんの性格だと思うんですけど、すごく勉強になりました。ある程度自分を壊すような感じで、日常とはちょっと違うきっかけを作り続ける。そこに新しいつながりが生まれるんだなと思いました。
公民館とデザインは、なにを夢みたのか? ~雑談がうまれる場所と、そのためのDesignをめぐって~
2026年2月26日から3月16日まで、東京ミッドタウン・デザインハブにて「公民館とデザインは、なにを夢みたのか? ~雑談がうまれる場所と、そのためのDesignをめぐって~」展が開催されました。このイベントは、2023年に開催された「公民館のしあさってはデザインのしあさって!?」に続く社会教育とデザインに注目した企画展の第2弾でした。
期間中には10回ものトークイベントが開催され、そのうちの第4回には佐藤さんが、最終回には本鼎談をきっかけに渡辺さんがそれぞれ登壇されました。イベントは終了していますが、本展の趣旨や概要などをお読みいただくと、西山さんの助成プロジェクトをより深く知ることができます。こちらのリンク先もぜひご覧ください。(トヨタ財団広報 新出洋子)
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.51掲載
発行日:2026年4月16日
