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『人新世の風土学─地球を〈読む〉ための本棚』書評

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先端技術
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書評

2018年度〈特定課題〉先端技術と共創する新たな人間社会「人間と計算機が知識を処理し合う未来社会の風土論」(代表者:熊澤輝一氏)の成果物として発行された書籍について、豊田光世氏に書評をいただきました。


『人新世の風土学─地球を〈読む〉ための本棚』

〈書籍情報〉

書名
人新世の風土学─地球を〈読む〉ための本棚
著者
寺田匡宏
出版社
昭和堂
定価
2800円+税

〈助成対象者情報〉

[助成プログラム]
2018年度 特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」
[助成題目]
人間と計算機が知識を処理し合う未来社会の風土論 このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
熊澤輝一

【書評】風土的視座を地球環境学に組み込む

執筆者 ◉ 豊田光世(新潟大学佐渡自然共生科学センター准教授)

[助成プログラム]
2021年度 国内助成プログラム
[助成題目]
自然共生の価値創造に取り組む共創プラットフォームの構築 このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
長島崇史

人新世とは、人類の活動が気象や生態系に対して地球規模で甚大な影響を与えていることを踏まえ、新たに提案されている地質年代である。人間と環境の不可分な関係性を改めてわたしたちに認識させる言葉であり、その意味において風土論の世界観とも連動している。ただし、人新世が示唆する人間と環境のかかわりは、和辻哲郎が風土という概念を手がかりに人間の存在様式を論じた1930年代当時の認識から、大きく変化している。

和辻の風土論では、あくまでも気象は人間存在の背景的な要素として捉えられていた。しかし、今は違う。わたしたちが猛暑日に激しい暑さを感じる時、そのことを通して外気の暑さを、そしてそこに宿る自分自身を見出すだけでなく、温暖化を引き起こしているとされる経済活動への反省や、地球の未来はどうなるのかという不安を呼び起こす。人新世において風土を語るということは、環境危機の時代に生きるわたしたちの存在を改めて問い深めていくことでもある。寺田匡宏は本書の中で、そのためのさまざまな手かがりを与えている。

人文地球環境学の立場から人と自然のかかわりを探究することが、本書のテーマである。実に多様な物語や論考が紹介されていて、寺田は、その一つひとつを紐解きながら、わたしたちが環境を捉える視座を広げていく。地球環境を「物語や風景」として捉えること、その中の「未来」の語りに耳を傾けること、本書が提案するそうした視座の根底には「風土」の概念が貫かれている。風土は、わたしたち人間が環境と不可分の存在であることを思い起こさせる。このことは、地球環境学のあり方を問い直すことにもつながっていく。

地球環境学では、自然を客観的対象として捉えて分析する自然科学が重要な役割を担ってきた。切り分けることで対象物を理解するアプローチは、環境問題の解明において今後も重要であることには違いない。ただし、そうしたアプローチだけでは問題の全体像を捉えることができない。切り分けられないものを切り分けずに捉えていく……風土的視座を地球環境学に組み込むことは、そうした理解の仕方を生かして環境問題と向き合うことにつながる。さらに、風土が示唆するローカリティと、地球を捉えるグローバリティが重なり合い、世界が多層的に立ち現れる。

本書が展開するさまざまな語りに身をゆだねてみよう。その中で綴られている言葉を手がかりに、あなたが暮らす地域で、さらには世界で起きている出来事に改めて目を向けて見てほしい。どのような風景や物語が浮かび上がるだろうか。

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