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『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』書評

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研究助成
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書評

2017年度 研究助成プログラムの成果物として発行された書籍『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』について、永井陽右氏(2020年度国際助成プログラム)に書評をいただきました。


『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』

〈書籍情報〉

書名
開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史(日本の開発協力史を問いなおす7)
著者
佐藤仁
出版社
東京大学出版会
定価
税込4,400円

〈助成対象者情報〉

[助成プログラム]
2017年度 研究助成プログラム
[助成題目]
ODA失敗案件の「その後」にみる開発援助事業の長期的評価―競争史観から相互依存史観へ―このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
佐藤仁

【書評】あるべき方向へ修正し続ける不断の努力

執筆者 ◉ 永井陽右(NPO法人アクセプト・インターナショナル)

[助成プログラム]
2020年度 国際助成プログラム
[助成題目]
インドネシアと日本の結び目がつくる若者のオンライン過激化防止のためのCIORプロジェクトこのリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
永井陽右

日本の国際協力の歴史は、日本が敗戦から立ち上がってきた歴史でもある。戦後賠償を含む欧米諸国からのプレッシャーを受けながら、日本の取り組みは経済協力、開発援助、開発協力と徐々に成長し今日に至る。本書はまさにこの歴史を、生態学的視座から分析し、開発協力における自立と依存の関係性と予期せぬ結果を鮮やかに説明する。

そもそも日本の国際協力ないし開発協力は、戦後日本の経済再生のための不可避の選択肢であった。欧米を意識しつつ、東南アジアからの原料を確保するとともに、東南アジアの輸出市場の確保こそが、日本の援助の出発点であったのである。その日本が援助してきた東南アジア諸国は、今では援助国となりつつある。本書は、ここに自立と依存の連続性を見る。援助の文脈において依存という言葉はネガディブなものに聞こえるが、事実として、日本はもとより東南アジア諸国の自立への道のりを振り返ると、そこには国と国レベルでの依存と国の内部における重層的な依存が見出されるのである。

また、そうした開発協力における予期せぬ結果についても本書は主張する。日本の開発協力は長らく「顔の見えない援助」と批判されてきたことは有名だ。独裁政権への援助やひも付き援助比率など、当事国の人々を無視しているように見えざるを得ない開発協力事業が多かったのも事実だ。誰のための援助なのか、こうした問いは今にも続く永遠の問いであろう。

本書は問題案件として名高い事業をフィールドワークとともに分析をする。そこで明らかになったことは、計画していなかった、予期していなかった結果である。それはいくつかの問題案件が優良化、つまり人知れず軌道修正され良い影響をもたらすものになっていたということである。批判などに端を発し、人々の絶え間ない関わり合いの中で軌道修正がなされていったことに、現象としての開発の輪郭が見えてくる。国、市民、土地、文化などさまざまなファクターが多層的に関わりあうということ。そのすべてを案件形成時に推し量ることは決してできない。だからこそ、そのプロセスの中で絶え間ない対話をし、完全には計算できない軌道をあるべき方向へ修正し続ける不断の努力が必要なのである。本書はそこにおいて関わる人々の相互依存と信頼、そして摩擦や障害を乗り越える意思こそが必要とするが、まさしくその通りだ。

さて、こうした軌道修正において本書は市民社会からの批判の重要性も最後に指摘する。ODAの性質を鑑みれば、健全なジャーナリズムよろしく適切な批判機能は健全なODAの執行において無論不可欠なものだ。しかしながら、今日ほどに市民社会による批判というものが再検討されなければならない時代もないだろう。というのも、SNSの時代においては、匿名者を含む誰もが発信者となり、情報の真偽を越えて不適切な批判や誤解が広く拡散されるリスクが常に存在するからである。また、ディープフェイクや陰謀論など明確な意図を持った不適切な攻撃も散見される。ここから見えることは、数十年前にも増してあまりにも一方通行であるということだ。

どのようにして適切な批判機能を立ち上げていくか、そして批判が起きた際にどのようにして軌道修正に繋がる豊かな対話を形作ることができるか、こうしたことが今問われている。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.40掲載
発行日:2022年10月20日

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