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「決めなくても前に進む」仕組みをつくる─ 地域とルールづくりを変えるDAOの実践

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先端技術
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寄稿
「決めなくても前に進む」仕組みをつくる
「決めなくても前に進む」仕組みをつくる

著者 ◉ 本嶋孔太郎(弁護士/RULEMAKERS DAO/日本DAO協会)

[プログラム]
2023年度 特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」
[助成題目]
マルチステークホルダーを有する課題解決・法制度設計の意思決定における、ブロックチェーン・DAO等の有用性と妥当性等の検証このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
本嶋孔太郎(弁護士/RULEMAKERS DAO/日本DAO協会)

「決めなくても前に進む」仕組みをつくる─ 地域とルールづくりを変えるDAOの実践

現場で見てきた三つの気づき

私は学生時代に文化人類学を学びながらモンゴルや東南アジアの村を歩き、弁護士になってからは規制改革や地域のプロジェクトに関わってきました。その中で見えてきた構図があります。

一つ目は、本当に価値のあるもの、その土地の豊かさを支えているものが、大きな市場でお金にならないというだけで評価されず、続けられなくなっていること。二つ目は、それは放っておかれるのではなく、市場や開発とつながることで壊されていくこと。助け合いで回っていた地域が、都市に安いものを供給する場所へ変えられていくのを何度も見ました。三つ目は、「地域の課題」「途上国の課題」と呼ばれるものの多くが、その土地の人の問題ではなく、外の要因や制度、仕組みの側に原因があることです。

それなら制度を変えればよい、と規制改革の現場に入ると、そこにも同じ構造がありました。法律や政策は、陳情や選挙の日程に合わせて場当たり的に積み重なり、一つの対症療法が次の問題を生む。関係者みんなで全体像を話し合う場がないのです。「全体の仕組みを考えない法律が、本当にあっていいのか」。これが、トヨタ財団に助成いただいた研究「マルチステークホルダーを有する課題解決・法制度設計の意思決定における、ブロックチェーン・DAO等の有用性と妥当性等の検証」の出発点です。

法律からではなく、「回る仕組み」から考える

研究を通じて確立したのは、順番を逆にすることでした。条文からではなく、まず一つのテーマに関わる人たちを集め、昔うまく回っていた仕組みや他地域の事例を参考に、お互いに得になる点を探し、テクノロジーも組み込んだ「理想的に回る仕組み」を描いて合意する。

そのうえで、理想と現実のずれこそ変えるべき制度と位置づけ、優先順位をつけて一つずつ実行する。

この進め方でRULEMAKERS DAOは、デジタルノマドビザの創設や、DAOを合同会社として運営しやすくした2024年の金融庁府令(通称DAO法)の実現に、提言団体の一つとして関わりました。

DAOという器

「決めなくても前に進む」仕組みをつくる

描いた理想を、まず小さく実現する器がDAO(分散型自律組織)です。お金に限らない「自分たちにとっての価値」を真ん中に置き、あらかじめ決めたルールと役割に沿って、一人ひとりが自分の目的のために動く。それが結果として全体の目的にもつながるように設計され、情報は参加者に見えていて、出入りも自由。大きな市場で評価されなくても、その価値を分かる人たちが集まれば、回る形はつくれます。

その骨格になるのが、ハレとケの循環です。祭りやイベントという「ハレ」の場が、外の人が関わるきっかけと動機をつくる。日常の「ケ」では、その人たちが地域の中で価値を創り、提供する側に回る。ハレで出会い、ケで一緒に手を動かすうちに関係性が育ち、地域を象徴する人や産品が生まれてくる。この循環を回し続けることが、価値を生み続けることになります。

そして、ケの中で価値をやり取りする道具が、円とは交換できない独自のポイント(トークン)です。規格外の野菜、宿の空き部屋、余った食材、手伝いの時間。市場では値のつかないものを、仲間内の物々交換のように融通し合うための共通の物差しになります。

香川県琴平町のDAOはデジタル住民のうち9割は町外の人で、竹あかりや琴平山博覧会のような祭りや展覧会の制作と開催がハレの場になる。こういったお祭りの手伝いにボランティアで参加すると、地元バス会社の高速バスの空席に乗れるといった形で、余っているものと手伝いの時間がポイントを介して交換されています。そしてこれをきっかけにして、Vtuberが琴平町に関わるようになったり、新たに支社が立てられたり、新しい事業が始まったり。

最初と最後だけ決め、途中は任せる

香川県琴平町のDAO
香川県琴平町のDAO

では、その中でどう決め、どう進めるか。研究の結論は、よい合意形成とは「みんなで頻繁に決めること」ではなく、「みんなで決めなくても、小さな判断の積み重ねで前に進める状態をつくること」でした。これを「動的合意形成」と呼んでいます。

最初に、全員が合意できるいちばん大きなこと ──何を大切にし、価値をどう循環させ、外に何を約束するか── だけを決めます。途中は、一回ごとに全員で決め直したり投票したりしません。任せる人と引き受ける人を決め、それぞれが自分の役割の中で判断して進める。そして結果を見て、最初の合意と決め方そのものを直していく。全員で決めるのは最初と見直しのときだけで、現場では小さな提案と承認が絶え間なく回っています。

宮城県東松島市のKIBOTCHAでは、提案が出てもすぐ投票せず、異論や別案が出尽くしてから初めて投票に移るルールにしました。主役は投票ではなく、その手前の対話です。

小豆島のRe: Asset DAOでは、約100名のオーナーが集まって20万円ずつ資金を出して古民家宿を改修・運営し、古民家宿の収益をオーナーに配当せず次の物件に再投資する「地域ファンド」の形をとり、全員で決めるのは価値の循環と外への約束だけ、どの物件をどう直すか・運営するかは専門性のあるチームに任せています。出資者は宿泊やポイントで還元を受けて島に通い、やがて広報や運営の側に回る。資産が増えるほど使える場が増え、関わる人が増えるほど価値が高まる好循環が生まれています。

実践と、実装のための道具

実践と教育の場として、東京都「TOKYO SUTEAM」に採択され、起業家がルールづくりと事業を同時に進める伴走支援「OPEN BLUE」を運営しています。各地のDAOが自力で始められるよう、本助成の成果として、貢献の見える化やポイント付与を扱うアプリをLINEから使える形で公開し、日本DAO協会では「出資者も一緒に事業をやる」という考え方を反映したモデル定款やガイドラインを整えました。

社会課題そのものと、それを生む制度の問題、そして解決策を実行するときの難しさ。この三つを、回る仕組みから逆算し、DAOで形にし、動的合意形成で進めることで、まとめて引き受ける。それが私たちの試みですが、まだ試行錯誤の段階です。地域の使われていない資産を活かしたい方、コミュニティを活かしたい方、新しいルールをつくりたい方、ぜひご連絡ください。一緒に試し、直していく仲間を求めています。

メンバーの記念撮影写真

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No. 52掲載
発行日:2026年10月20日

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