国内助成
contribution
寄稿
著者 ◉ 奥田裕之(公益財団法人リタ市民アセット財団 副理事長)
- [プログラム]
- 2024年度 国内助成プログラム
- [助成題目]
- 公益財団法人とネットワーク組織によるアセットの公益活用と市民自治モデルの形成

- [代表者]
- 大河内秀人(寿光院)
お寺とNPOがつくる、新しいコモンズ─ 市民が地域の土地や建物などを管理する試み
お寺と市民活動の35年間

私たちのプロジェクトでは、市民団体によるネットワークが公益財団法人を設立し、土地や建物(以下、アセット)を市民自身で公益活動のために管理・運営する試みを進めています。
きっかけは、35年前に東京都江戸川区の寺院「寿光院」の大河内秀人住職が、お寺の所有する場所の一画をNGOの活動場所に提供したことでした。
市民活動にも参加していた大河内住職は、その場所を市民活動が育っていくファーム(農場)となるよう「小松川市民ファーム」と名付けました。小松川市民ファームは、その後も長く市民団体の共同事務所として活用され、現在も市民外交センター、未来バンクなど、約15団体が活用しています。
大河内住職は、お寺の所有する他のアセットを、有償・廉価・無償などの形で多くの市民団体へ提供していきました。それらは高齢者協同住宅、障がい者グループホーム、放課後デイサービス、市民による太陽光発電、環境保全事業など、さまざまな分野で活用されています。
また「松江の家」と名付けられた古い一軒家は、複数の団体による地域活動の拠点となっています。そこはオフグリッド(太陽光発電と蓄電池による電気の自給自足)に改造され、コミュニティづくり、不登校児の支援、冒険遊び場、フードバンクなどの活動が展開されています。
江戸川NGO大学による、市民団体のつながり
このように分野を超えた多くの団体が集うなかで、互いに活動内容を学び合おうという動きが出てきました。
「江戸川NGO大学」と名付けられたその会の第1回テーマは、『50周年を迎える世界人権宣言』でした。私たちの活動における人権、平和、市民活動という基本的な価値観はここで共有され、現在までつながっています。
江戸川NGO大学は10年以上継続して2010年に終了しましたが、その蓄積は「江戸川子どもおんぶず」と「NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」の共催による、『子どもの権利×気候変動プロジェクト』などに現在も生かされています。
お寺がNPOなどの市民活動へアセットを提供したことから始まった動きは、誰も意図しないうちにいつの間にか市民による有機的な公共空間を形づくっていました。
ただ、この状況はお寺の存在が前提となっています。大河内住職も、自身が元気であるうちは大丈夫であっても、将来にわたってお寺がアセットを提供し続けることは困難だろうと考えていました。
そのため現状を持続可能とするためのチームを2022年に形成し、これまでの蓄積を検証しました。その中で、偶発的とも言えるこの全体を「コモンズ」と再定義し、財団法人を使ってお寺との契約関係を明確にして、活動の正当性と継続性を担保する計画をつくりました。それを受けて2024年初頭には、一般財団法人を設立するための委員会が形成されています。
そして2024年10月にスタートした当プロジェクトでは、2025年度に改正された新制度のもとでの公益財団法人の設立、関係してきた市民団体等のネットワークによる運営体制の確立、長年の蓄積をコモンズとして再構築する試みなどの支援を行ってきました。
公益財団法人リタ市民アセット財団の設立
2024年11月には、多くの方のご支援で一般財団法人リタ市民アセット財団が設立され、内閣府との折衝の結果、2026年1月に公益財団法人となることができました。現在は関係している多くの団体が財団の活動にさまざまな形で参加できるような、新しい組織の在り方を模索しています。
リタ市民アセット財団は、まず3つの事業を進めながら、これまでに培ってきた蓄積とネットワークを次の世代へつなぎたいと考えています。
[1]公益を創っていくために、土地・建物を管理する事業
委託管理契約、サブリース契約、信託契約などを活用して、アセットを社会のために活用したいと考える団体や個人と一緒に公益を創る。
[2]空き家や土地、財産などを、税優遇の制度を使って寄贈いただく事業
公益法人の持つ税優遇制度を活用して、財団へのアセットや資産の寄贈や遺贈を呼びかけ、それを市民団体へ提供する。
[3]NGO大学などを通して、市民が主体となる公益を考えていく事業
市民と専門家が開かれた場で学び合うNGO大学を再開するなどして、より多くの人たちとともに市民による公益を考える。
公益財団法人でつくりたい、新しい社会の仕組み
トヨタ財団のご支援で、私たちは「公益財団法人による新しい仕組みづくり」のスタートラインとなる当初目標を、ほぼ達成することができました。そして次に挑むべきテーマも見えてきました。
現代社会の課題の一つは、本来は社会全体の共有資産であるべきものさえ、投資の対象や、限られた人や団体の所有物になっていることではないでしょうか。それに対して、地域の空き家、土地、資産のわずかでも、リタ市民アセット財団が所有、また志ある方からの管理委託を受け、それらを地域の共有財産とすることで、少し大げさかもしれませんが新自由主義による弊害の一部を市民自身が解決する、「コモンズの仕組み」が生み出せないかと考えています。
私たちは、理想を求めるアマチュアリズムと実際の事業を行うリアリティという2面性を持っていますが、後者についてはまだまだ不十分です。
この助成事業は2026年10月で終了となります。見えてきた課題への対応には多くの団体や専門家、個人のご助力が必要です。引き続きどうか注目いただき、今後とも皆さまのご支援を賜れますと幸いです。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No. 52掲載
発行日:2026年10月20日
