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人と人の新たな繋がりが、これからの自治を支えていく

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国内助成
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寄稿
人と人の新たな繋がりが、これからの自治を支えていく

共同執筆 ◉ 簗瀬健二、尼野千絵、尼野三絵、馬崎 慧(NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝)

[プログラム]
2023年度 国内助成プログラム
[助成題目]
定住地縁型から流動住民も含むテーマ型自治へ、ゆる自治カンパイ!プロジェクト 
[代表者]
尼野千絵(NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝)

※本ページの内容は広報誌『JOINT』に載せきれなかった情報を追加した拡大版です。

人と人の新たな繋がりが、これからの自治を支えていく

「ゆる自治」とは

本プロジェクト地域である「北芝」という名称は町名ではなく、住民たちから親しまれてきた愛称である。北芝は被差別部落であり、自治会などの一般的な地縁組織以外にも「部落解放同盟北芝支部」という運動団体や「NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝」という中間支援組織などが存在する。そして「誰もが安心して暮らし続けられるまちづくり」を目指し、それらの団体が住民主体の地域活動をバックアップし子どもから高齢者まで幅広い層を対象とした活動が展開されてきたことで、住民同士の豊かな繋がりが色濃く育まれてきた。

一方で近年地域の様相は大きく変化してきている。地下鉄延伸により新駅が近隣の大型商業施設直結で誕生した。それに伴いバス路線も変更され、北芝は新たな人流のポイントとなっている。土地の価値も上がり、古い家は建て替わり田んぼが潰され新築物件が建つなど景色も目に見えて変わってきた。地縁を持たない新規流入層が増え、住んでいなくても遊びに、働きに、学びに来る人など、顔なじみがない人たちが、それぞれ繋がりもなく分散している状況である。

地縁的繋がりの希薄化は北芝に限らず全国的な状況であり、それはコロナ禍によって更に加速した。人と人との繋がりは直接的な交流が制限されるなかでSNSを通じた間接的な繋がりへと移行し、それはエリアに限定されずそれぞれの興味関心にもとづくテーマ型のコミュニティとなっている。若い世代は地域活動に積極的には関わらず自治会やPTA、子ども会などの加入率は下がり、地縁型コミュニティは高齢化し担い手不足と活動の固定化が共通の課題となって地域自治の継続が危ぶまれている。

そこで本プロジェクトで目指したのは「ゆる自治」である。地域自治に関わるアクターのバリエーションをこれまでの長期定住を前提としたものから、住んでいるかどうか関係なく何らかのかたちでこの地域に関わる人たちにまで広げる。そしてそれぞれが自分の興味関心があるものに自分の都合の良いタイミングや役割で関われるような緩やかなグラデーションをもった参加の在り方を担保する。多様なアクターの多様なテーマ性が地縁型コミュニティと融合することで地域が活性化されることを目指した。

「ホップステップかんぱい!プロジェクト」

地域内外の人たちが交流できるような仕掛けとして、芝生広場「芝樂」を使って【かんぱいマーケット】というイベントを毎月開催した。飲食店を営業している人や革細工の小物を制作している人たちに出店を呼びかけ、毎回5~6店舗程のこじんまりしたイベントだが、時たま住民さんが即席でホットプレートを持ち出してチヂミを売り出すなど自由な雰囲気の場であった。通りがかった人や併設されている弁当屋のお客さんがふらっと立ち寄ったり、向かいの公園に遊びに来た家族連れがお昼ご飯を食べに来たりして、このイベントが地域を知ってもらうきっかけとなっていた。

来場者がもう一歩深く活動に関わる仕掛けのひとつとして、地域でホップを育てて醸造するクラフトビールの制作を企画として取り入れた。ホップのプランターを出店者の店舗や住民宅などで栽培し、イベント内ではそのネーミング案やラベルデザインを来場者から募集した。また地域として能登の震災支援に継続的に関わっていたこともあり、被災地でもホップを育ててもらった。そうして出来上がったクラフトビールは、ネーミング投票の結果、ビールの味と応援の意味をかけて「エールエールエール!」に決定した。イベント内では子どもたちが遊び相手になってくれる大人と公園に遊びに行き、親たちはカンパイしながらゆったりとした時間を過ごせた。

またイベント内ではさまざまな催し物も企画された。管理が放棄された竹林の破竹をつかったメンマづくりワークショップでは、2m程の破竹を細かく分解していく作業を屋外で実施、さながらマグロの解体ショーのような迫力だった。地域の消防団に協力してもらい消防車と子ども用消防服を借りての写真撮影会は、特に未就学の子どもたちに大人気で新規流入層の親子も訪れた。

夏は夕方からビアガーデンを開催し、暑気払いを兼ねたストレス解消企画としてモヤモヤしていることを紙に書いて燃やすコーナーでは、せっかくなのでその炎でパエリアを作り来場者に振舞った。夏の盆踊りの日には子育て支援団体と協働で、未就学児向けに玩具がたくさん入ったでっかい氷を作りプレーパークを開催した。子どもたちはみんな玩具よりも氷を溶かすことに夢中だったが、その中に盆踊りで使える飲食チケットを混ぜていたことで、遊んで帰るだけでなく地域の盆踊りにも参加してもらうことができた。

建築専門学校の学生たちが廃材を用い、互いが協力して座らないと安定しない「不安定ベンチ」を制作してくれた。「巨大な料理を作りたい」という声からダチョウの卵を通販で仕入れ、畳半畳ほどあるカステラを作った。それ以外にも出店者さんたちによる餃子作りや革細工の小物作りのワークショップなどなど、バラエティに富んだ盛り沢山の内容が実施された。

これらの企画は毎月【いっちょかミーティング】という会議のなかで練られていった。地域にある古民家をつかって開催し、みんなで晩ご飯を食べながら飲みながら話し合った。この会議は発言になんの責任も伴わず、むしろみんな好き勝手バラバラに話すので他の人の話を聞いてたり聞いてなかったりする。特に第1回目いっちょかミーティングはコロナ禍があけた時期でもあり、座る場所が無いほど人が集まり、助成期間中ではとうてい消化しきれない程のアイディアが集まった。ビールの試飲会やBBQ、秋には七輪で秋刀魚を焼いたり冬は鍋を囲んだりなど、企画について話すことと同じくらい、何を食べるかが大事であり、みんなは仕事や学校終わりに寄って会食を楽しんでいた。このプロジェクトから活動に関わってくれている家族の子どもはこの場をとても気に入ってくれてほぼ皆勤賞で参加し、小学校入学時には新しい通学鞄を自慢しに持ってきてくれるなど、この会議の場自体が「ゆる自治」に繋がる交流の場として機能していた。

かんぱいマーケットやいっちょかミーティングの周知や報告は、【ジッチーノ通信】という広報誌を二月(ふたつき)に1回作成し地域内に全戸配布した。もともと伝統的なお祭りや自治会主催行事などイベントごとが多い地域だが、それぞれバラバラに周知されていてわかりづらいという住民からの声もあったため、地域内の催し物を網羅したイベントカレンダーを掲載した。また手に取った人が身近に感じてもらえるよう、みんなに顔なじみがありそうな人として校区内小中学校の校長先生からヤクルトの訪問販売員さんなどにも取材し記事にした。リレーコラムは、いっちょかミーティングの中で、あみだくじによって選ばれた人に半ば強制的に執筆を依頼し、たまたまその日だけ地域に視察に来ていた人も選ばれ戸惑いながらも快く寄稿してくれた。そして紙面の隙間には関わる人たちの顔写真をたくさん載せたので、子どもたちは自分の顔を紙面から見つけて喜んでいた。

プロジェクトを通して

多様なテーマを気軽に持ち込める枠組みを作ることで「ゆる自治」を目指したが、特に出店者たちはイベント以外にも地域拠点を使って期間限定店舗を出店したり、能登の復興支援として現地での炊き出しに一緒に行ったりなど、枠組みに留まらない展開を見せた。また、イベント会場で見知らぬ若者に子どもが無邪気に声をかけたことがきっかけで地域ボランティアとして関わるようになったり、府外から転入し孤立していた若者がイベントでの交流を通して自然と場に馴染んでいたりなど、こちらが企図していない場面で活動が発展し、人と人とが新たに繋がっていく姿がこれからの自治を支える土壌になっていくと感じた。

北芝というフィールドを使って多様なアクターからたくさんの面白いテーマが持ち込まれ企画として実現したが、一方で枠組みを作ることが大事なのか、自分たちも1人のアクターとして興味関心のあるテーマを活性化させることが良いのかは悩みながらだった。視察先の地域でも必ず「つなぎ人」のような人が属人的な繋がりで活動を支えており、個人の脳内にある人材バンクや関係性は仕組みとして汎用性のあるものに変換するのは不可能な領域でもある。結論的には両側面あるということでしかなく、枠組みは担保しつつも自分たちが楽しいと感じられることを大事にしたいと今は考えている。

また地縁型コミュニティとの融合は課題として残った。若い年代層が企画していたこともあり、長期定住高齢者層を巻き込むにはもう一歩仕掛けが必要であった。企画のミスマッチというよりも、キーマンとなる存在への丁寧な声掛けが必要であったことは反省である。

「ゆる自治」のこれから

「ゆる自治」は言い方が違うだけで、これまでさまざまな人権課題に接続し多様な人たちを包摂し発展してきた北芝のまちづくりの在り方のいわば焼き直しである。ただそのようなまちづくりがアフターコロナ以降の地域自治において一つの先駆的事例となり得るのかもしれない。

もともと豊富な活動がある地域だからこそ時に同時多発的にバラバラに物事が動いてしまうこともあり、それ自体が豊かさを象徴していることでもあるが、今回「ゆる自治」という統一の概念を掲げたことで、改めて連携が深まり活動の理念や価値をすり合わせることにも繋がった。

本文を書きながら、文字では表現しきれない場の緩やかな雰囲気や面白いできごとを、北芝を知らない人たちにどう発信するかを今後は検討していきたいと思う。SNSなどの双方向性のあるツールはまだまだ活用の余地がある。ただ、接触が制限されたコロナ禍があけたからこそ、オフラインでの密な繋がりを大事にしていきたいとも思い、北芝にぜひ足を運んでほしい。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.50掲載
発行日:2026年1月27日

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