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ウェルビーイングな学校と地域を育むために─SELを軸にした実践アプローチ

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研究助成
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寄稿
ウェルビーイングな学校と地域を育むために

著者 ◉ 下向依梨 (株式会社roku you)

[プログラム]
2023年度 研究助成プログラム
[助成題目]
子どもおよび地域社会のウェルビーイングの向上を実現するための、学校を中心とした「システミックな変革方法」の確立
[代表者]
下向依梨 (株式会社roku you)

ウェルビーイングな学校と地域を育むために─SELを軸にした実践アプローチ

「ウェルビーイングを実現する学校」の5つの要素

SELが養う5つの力(roku you作成)
■ SELが養う5つの力(roku you作成)

株式会社roku youは、「1人1人の生まれ持った可能性が磨かれ続け、有機的に響き合う豊かな社会を作ること」を目指し、SEL(Social Emotional Learning/社会性と情動の学び)のアプローチを軸に、これまで延べ120校と協働し、3万5,000人以上の児童・生徒と関わってきました。

SELは「ソーシャルスキル」と「エモーショナルスキル」から構成され、自己理解力・自己管理力・共感力・社会スキル・意思決定力という5つの能力を伸ばします。

私たちはトヨタ財団2023年度研究助成プログラムを受け、「子どもおよび地域社会のウェルビーイングの向上を実現するための、学校を中心とした『システミックな変革方法』の確立」の実証研究を進めてきました。対象は、沖縄県うるま市内4小中学校の小学校5年生〜中学校3年生の985名。

本研究は、「[1]『ウェルビーイングを実現する学校』の要素と構造を明らかにする、[2]子どものウェルビーイングの向上を実現できる仕組みを学校と共に試行錯誤しながら確立する、[3]学校を中心とした子どもたちのウェルビーイングの向上の取り組みが、地域社会にどのようなインパクトを与えるのかを検証」という3つの柱で構成されています。

私たちは2024年から2年間にわたり、全国からウェルビーイングな学校づくりに取り組む実践者が集うカンファレンスを開催してきました。そこでの対話を分析することで、「[1]ウェルビーイングを実現する学校」の次の5つの要素を明らかにしていきました。

[1]関係性の質…教員同士の対話の活発さや生徒と教員の信頼関係がある学校組織であること
[2]生徒の主体性…自分の意見を言える雰囲気や挑戦が身近にあること
[3]教職員の自己変容…授業改善が自発的に行われ、教員自身がマイプロジェクト(探究)を進めていること。また、「こうあるべき」より「どうありたいか」で語っていること
[4]学校の文化と風土…失敗が許容されることや対話と内省の文化があること。加えて、学校全体に一貫したビジョンがあることも風土醸成に貢献する
[5]学校と学校外との接続…[1]〜[4]は“学校内”についてであったのに対し、[5]は“学校外”の地域や保護者との接続、協働がなされていること

うるま市立天願小学校の事例

教職員間での対話の意義についての調査(学校資料より)
■教職員間での対話の意義についての調査(学校資料より)

「ウェルビーイングを実現する学校」の構成要素を明らかにした上で、学校現場に伴走しながら、実際にその要素を構築していくことが本研究の特徴です。

指標の測定方法として、東京学芸大学と「『幸福感(Well-being)』を数値化・可視化する『ウェルビーイング指標』」を作成し、うるま市の小中学校の先生・子どもへアンケートを実施、数値の変化を追いました。本稿では、特に変化が大きかったうるま市立天願小学校の事例をお伝えします。

天願小学校は、「異なる意見が出た時に、話し合うことが難しいと感じる児童がうるま市平均と比較すると多い」ことがわかりました。また、沖縄県は教員の精神疾患による休職が全国平均の2倍超の多さとなっています。天願小学校でも病休に入る教員が出ていました。こうした課題を解決するために、「つながりを作る・教職員の同僚性を高める」「感情についての対話や学びの充実」を目標として掲げ、取り組みました。

学校の背景と目標を踏まえて、SELのアプローチを軸に対話の機会を創出するための年間計画を策定。たとえば、対話の中で話し手の感情やニーズに気づき、共感を育むワークである「エンパシーサークル」の実践や、コミュニティの土台となる決まりごとを対話の中で決定していく「グラウンドルール」の作成などの活動を行っていきます。

広がる、教員と子どもの変化

体系だった教員研修と教職員による対話の風土醸成により、多くの先生が「対話の意義」を実感していきました。その結果、年度途中の教職員の休職者数はゼロに。教員のストレスチェックによる「同僚からの支援」が、全国平均8.2ポイントに対し、天願小学校は平均10.4ポイントとなりました。さらに、「上司からの支援」についてもプラスの結果が見て取れました。

また、「特にやりたいことはない」と言っていた先生方から、次第にチャレンジしたいことが表明されるようになっていきました。研究2年目となる本年は、対話だけでなく、「対話×プロジェクト」を進めています。プロジェクトは、「子どもに委ねる学び」「特別支援」「ICT」など、各先生が取り組みたいテーマを掲げ、8つのグループに分かれて実践を重ねています。

教員が変わることで児童にも変化が起きています。「不登校のうち登校復帰した児童生徒数」が、取り組みを始める前は0人だったのに対して、2024年度には15人となりました。また、年間で30日以上欠席した児童が不登校と定義されますが、その中でも、150日以上欠席していた子どもが、週1回程度の欠席にまで改善するなどの変化が見られました。

さらに、変革以前は保護者の授業参観や行事への参加は3割程度でしたが、2024年度は8割〜9割程となったこともポイントです。これは「ウェルビーイングを実現する学校」の5つの要素の「[5]学校と学校外との接続」にあたるでしょう。

教育の現場に完璧な「完成」や「ゴール」はありません。現在も学校と共に試行錯誤を続けている段階ですが、本研究で得た知見を多様な学校や自治体へと展開していきたいと考えています。

また、学校に伴走している教育委員会や地域のプレイヤーの方々にもこの研究結果を活用いただきたいと思っています。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.50掲載
発行日:2026年1月27日

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