国際助成
contribution
寄稿
著者 ◉ 東 恵子(一般社団法人ダブルケアサポート)
- [プログラム]
- 2023年度 国際助成プログラム
- [助成題目]
- 日韓におけるケアラー支援:ダブルケアラー・ヤングケアラー支援とケアが豊かな地域社会―ケアリングデモクラシー―への学び合い
- [代表者]
- 東 恵子(一般社団法人ダブルケアサポート)
日韓のダブルケア支援プロジェクトを通して
社会状況の変化と課題

2023年11月から2025年10月にかけて、私たちは日本と韓国の研究者・実践者が協働し、ダブルケアをめぐる課題と支援のあり方について深く学び合う2年間のプロジェクトを進めてきました。この取り組みは、2015年に実施した日韓ダブルケア支援プロジェクトから約10年を経て再び実現したものであり、当時と比べて社会状況が変化する中で、より多角的で深い学びにつながったと感じています。
前回のプロジェクトから現在までの約10年の間に、日本では内閣府によるダブルケア実態調査や、社会福祉法の改正による重層的支援体制整備事業の開始など、制度的にもダブルケアが徐々に可視化されてきました。
また、各地でダブルケア支援の取り組みが立ち上がり、関心を寄せる人の輪も広がっています。しかし一方で、介護・子育て・障害・生活困窮などが縦割りの制度に分断され、多重ケアを担う人の状況を包括的に支える体制は依然として十分とは言えません。こうした課題の輪郭は、韓国でもほぼ同様に見られます。
韓国の家族センター、日本のこども家庭庁や子育て支援制度は、主に育児を中心とした家族支援を担っており、介護領域とは制度上分かれています。そのため、育児と介護が同時に押し寄せるダブルケア家庭においては、制度間の連携不足が両国共通の大きな課題であることが明らかになりました。
介護分野では、日本ではケアマネージャーが家族も含めた支援を担うことが当たり前になりつつありますが、その制度的位置づけから、中心はどうしても「要介護者」であり、ケアラー支援を一人で担いきれない限界もあります。地域で当事者の声を拾い続けるには、多職種・多機関による支援体制の強化が不可欠であるという問題意識も共有されました。
三つの構造的問題
こうした制度的課題を再検討するにあたり、今回のプロジェクトでは、当事者インタビューを通じて、ダブルケアの現実をもう一度丁寧に見つめ直すことを重視しました。その中で浮かび上がったのは、大きく三つの構造的問題でした。第一に、ケアが社会的に評価されていないという現状です。家族による無償のケアは「当たり前」と見なされがちで、その負担や時間、精神的ストレスは十分に社会に理解されていません。
第二に、ケアの連鎖という問題です。子どもの頃に家族のケアを担いがちだった人が、大人になっても多重のケアを引き受けやすいという構造が見えました。
そして第三に、ケアを担うことによって、ケアラー自身が社会・経済・政治への参加が制限されるという問題です。ケアが必要な人に頼られ、その必要に応え続けることで、結果的に自らが社会の周縁に追いやられてしまう。これは日本でも韓国でも共通する深い課題でした。
2015年のプロジェクトでは、こうした構造問題の背景にある社会システムや価値観まで掘り下げる余力が十分ではありませんでしたが、今回は2年間という期間があったことで、制度比較、当事者の語りの分析、現場の実践交流などが立体的につながり、より深い学びに至りました。また、韓国側との交流を通じて、日本が韓国の家族政策やジェンダー平等政策から学ぶ点、逆に韓国が日本のヤングケアラー支援や地域包括ケアの現場から得られる点など、相互に補完し合う関係性が築かれたことも大きな成果です。
さらに今回のプロジェクトでは、両国でそれぞれ特徴ある成果も生まれました。日本チームでは、全国のダブルケアラーの声を丁寧に集め、それをもとに政策提案書の作成に取り組みました。一方、韓国チームは、学校や地域で活用できる啓発教材や動画の制作を意欲的に進め、メディアも活用しながら、ダブルケアという課題の周知・理解を広げる活動を力強く展開しました。
日韓ダブルケア支援共同宣言

こうした取り組みを踏まえ、私たちは今回の学び合いの集大成として、これから目指すべき方向性を示す「日韓ダブルケア支援共同宣言(案)」を作成しました。
この宣言案は2025年10月23日のシンポジウムにて発表し、参加者の意見も受けて、2026年2月のダブルケア月間に正式版として公表する予定です。共同宣言は一度きりの成果ではなく、今後の両国が継続的に協働していくための大切な基盤となるものです。私たちは、この宣言を礎に、毎年2月に開催されるダブルケア月間において交流を深め、取り組みを育てていきたいと考えています。
そして、私たちメンバー一人ひとりが、自分の現場や地域、研究の場で、今回の学びを実践へとつなげていくことが重要です。ケアが評価され、ケアを担う人が孤立せず、誰もが安心してケアし、ケアされる社会へ。その実現に向けて、私たちはこれからもそれぞれの場で、学びを行動につなげていきます。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.50掲載
発行日:2026年1月27日
