国内助成
contribution
寄稿
著者 ◉ 狩野真実(一般社団法人鎌倉さかなの協同販売所 )
- [プログラム]
- 2024年度 国内助成プログラム
- [助成題目]
- 「地域に必要なものは自分たちでつくる!」鎌倉の新しい魚屋から波及する住民活動

- [代表者]
- 田島幸子(一般社団法人鎌倉さかなの協同販売所 )
「地域に必要なものは自分たちでつくる!」 鎌倉の新しい魚屋から波及する住民活動
素人たちでつくった、まちの魚屋

私たちは、神奈川県鎌倉市の今泉台という高台の住宅地にあるシャッター商店街で、2023年にオープンしたまちの魚屋「サカナヤマルカマ」を拠点に、「地域に必要なものは自分たちでつくろう」という気風を育てるプロジェクトに取り組んでいます。
この魚屋は、海の環境変化や漁獲量の減少、販路開拓や後継者不足に悩む鹿児島県阿久根市の水産業者と、高齢化や商店街の衰退に伴う買い物の不便や暮らしの孤立といった課題を抱える鎌倉・今泉台の住民が出会い、「地域間連携によって、お互いの地域を少しでも良くできるのではないか」という思いから、双方が参画して運営する実証型の鮮魚店です。
特に面白いのは、鎌倉の店で働いているのが魚屋経験者ではないことです。元町内会長、料理人、元商社マン、元大学教授、格闘家など、10代から70代まで約30名がさまざまな形で関わり、魚屋の経営や技術を一から学びながら、それぞれの経験や特技を生かして運営しています。「地域がつながるさかなの協同販売所」というコンセプトが、人を引き寄せる力になったのだと思います。
魚屋は、コミュニケーションなしには成り立たない商売です。サカナヤマルカマでは、鎌倉ではあまり馴染みのない産地直送の魚を多く扱っていることもあり、「これは何という魚?」「どうやって食べるの?」といった会話が日々生まれています。角打ちもできるため、魚を買うことだけにとどまらず店の外にも人の輪が広がり、魚という共通の話題をきっかけに、小学生から高齢者までが自然に混ざり合う場となっています。
私たちが目指したのは、高齢化地域の買い物難民を救うだけの便利な魚屋ではありません。「地域がつながるさかなの協同販売所」として、お客さんとして利用するだけでなく、働く、学ぶ、親しむ、手伝う、応援するなど、それぞれが自分なりの関わり方を見つけ、関わる人の個性や思いによって少しずつ進化していく店を目指しています。
「魚屋まかせの地域」から「自分たちの地域」へ
今回のプロジェクトでは、魚屋の運営だけでなく、シャッター商店街での定期的なイベントの開催や、町内外の希望者によるテスト出店などを通じて、住民が地域に関わる小さなきっかけをつくり、「自分たちも何かやってみたい」「自分もまちづくりの一員なんだ」と思える場づくりを目指しました。
住民アンケートでは、商店街に「買い物の便利さ」よりも「交流や非日常を楽しめる場」を求める声が多く、15%の住民が「何かやってみたい」「手伝いたい」と回答しました。
魚屋の声がけで始まったマルシェに触発され、商店街で始まったイベントは回を重ねるごとに広がり、今では町内外から1,000人を超える来場者が訪れる規模になりました。また、魚屋の開業に前後して、たい焼き屋、パン屋、カフェ、ピアノ教室、アクセサリー屋などが開業し、形骸化していた商店街組合の運営も見直され、若手店主を中心に新しい商店会の活動が始まっています。当初は「魚屋まかせ」だった商店街が、「自分たちの地域の商店街」へと少しずつ変わり始めました。
一方で、思い通りにいかないこともたくさんありました。家族経営で後継者もいない既存の高齢店主にとって、商店街がにぎわうことが必ずしも歓迎されたわけではなく、「前は静かでよかった」と言われたこともありました。
また、チームの中でも、「まずはやってみよう」という考え方と、「みんなで話し合って決めよう」という考え方が何度もぶつかりました。全員の合意を待っているとなかなか前に進まない。かといって、誰かが先に進みすぎれば、「自分たちの活動」ではなくなってしまう。その間で揺れながら進んできました。
多くの人が関わるからこそ、調整ばかりで前に進まないとストレスを感じることも多くありました。そんな時、トヨタ財団の中間発表で、「調整コストと思っていることこそが自治なんじゃないですか」と言われたのです。
「早く決めたい」と思ってイライラする時間も、「面倒だな」と感じていた議論も、実は自治をつくるプロセスそのものなのかもしれない。そう思えたことで、この活動の価値を改めて捉え直すことができました。
「お手伝い」ではなく「プレーヤー」を増やすために
イベントを続けてみた結果、参加者や手伝ってくれる人は増えたのですが、自分自身のテーマを持って新しい活動を始める「プレーヤー」は、それほど増えませんでした。中間発表会で、他の助成チームでも同様の課題があることを知り、私たちは計画を見直すことにしました。
これまでの商店街イベントは、主に商店街と近隣住民でつくってきました。その活動は維持しつつ、新たに市民団体、事業者、大学など、市内で活動する実践者をプロジェクトメンバーに迎え、協働でつくる「食の循環市」の開催を目指します。
鎌倉はナショナル・トラスト運動発祥の地でもあり、市民が主体となってまちの未来を考え、行動してきた歴史があります。現在も多くの市民活動や事業者の取り組みがありますが、その活動自体が知られていないケースも少なくありません。世代や活動分野が違えば、混じり合う機会も少なく、後継者や一緒に活動する仲間を探している団体もあります。
「地域のために何かしよう」という呼びかけでは反応しない人も、自分が関心を持てるテーマや、関わってみたい入口があれば、そこから新しい役割や挑戦が生まれるのではないか。過去3年間の魚屋での実践から、私たちはそのような仮説を立てました。
そこで、鎌倉で関心が高く、魚屋にとっても大切なテーマである「食」と「循環」を共通のテーマに掲げることにしました。すでに活動している人も、テーマに関心を持っている人も、まだ関わりのない人も出会い、それぞれの経験や資源を持ち寄って、一緒につくっていく。そこからどのような化学変化が生まれるのか。魚屋で育てた「みんなでつくる場」を、まち全体へと広げるとどうなるのか。
一人ではできないことも、仲間がいればできる。世代や地域による分断が進む今だからこそ、偶然の出会いから新しい挑戦が生まれる場をつくり続けたい。
魚屋から始まった小さな実証を、次のステージとして鎌倉というまち全体で試してみます。
