公益財団法人トヨタ財団

OPINION

04 プログラムオフィサーって何? 二つのコミュニケーションデザインを手がかりに

楠田健太(トヨタ財団プログラムオフィサー)

プログラムオフィサー

トヨタ財団には、プログラムオフィサー(以下PO)と呼ばれる人びとが十数名存在している。耳慣れない職掌だ。私自身、就職するまで聞いたこともなかった。実際、日本でこれを生業としている人はそう多くないだろう。いったいPOとは何者なのか?
試しにインターネットで検索すると、意外にもウィキペディアには紹介されていた。曰く、「研究機関やシンクタンク、財団などにおいて、研究や助成のプログラムの企画立案、運営管理などを行う人」とのこと。その後ろには、具体的な業務内容が長々と列挙される。要は「何でも屋」といった趣きなのだが、それだけでは先の問いに対する答えとしては不親切だし、実際にその当人である身としても、とりあえず目の前に山積する仕事を片付けていくばかりで釈然としない。
しかるに近頃、コミュニケーションデザインという言葉をよく耳にする。一般的には広告やマーケティングの世界で、企業が消費者に向けてメッセージを発信する際の、最適な媒体やコンテンツ、タイミングなどの構成・設計という意味合いで用いられる。最近では企業や大学、研究所等の部局にその名が冠されるばかりでなく、書籍や各種セミナーでも多く取り扱われつつあるテーマだ。
知るにつれ、このコミュニケーションデザインという概念を用いれば、もやもやとしたPOという仕事も割にすっきりと整理できるかもしれないと考えた。
POの業務として一つのフェーズは、実際に助成プロジェクトを実施している研究者や活動家の方々と、その成果を受益するエンドユーザーとの間のコミュニケーションデザインが挙げられるだろう。助成金をお渡しするということ以外でも、財団の持てるさまざまなリソースを動員することで、プロジェクトの円滑な運営やよりよい成果の発信に、POが媒介として多少なりともお手伝いできるなら、それは大きな喜びだ。
具体的な事例を挙げれば切りがないのだが、先頃公開された映画『うつし世の静寂に』もそのようなプロジェクトの一つだ。2007年の助成開始段階から、このテーマに関心がありそうな研究者をアドバイザーとして紹介したり、他の映像関係者を交えたワークショップを開催したり、あるいは制作の重要な場面に立ち会ったり、一般の方々に向けた映画の上映会を企画したりと、折に触れさまざまな形でかかわらせていただいた。それらがプロジェクトにとってほんのささやかな貢献であるにせよ、開始から約3年の時を経て、一つの作品の完成をプロジェクトメンバーの方々と共に喜び、分かち合えることは、まさにPO冥利に尽きる体験だ。
加えて、POの業務にはもう一つのフェーズがあると思われる。それは、個々の助成プロジェクトを超えた、財団そのものと社会との間のコミュニケーションデザインとでもいうべきものだ。そして、財団から発信されるメッセージのうちもっとも大きなものが、年に一度公募が行われる三つのプログラム(2010年度現在でいえば、地域社会プログラム、アジア隣人プログラム、研究助成プログラム)ということになる。
財団にはそれぞれに設立のミッションがあり、未来を見据えたビジョンがある。そして各プログラムには、そうした財団のめざすものがもっとも端的に示されている(と、担当POは少なくともそう信じてプログラムを作成する)。趣旨や助成領域や要件はもちろん、細かいことを言えば1件あたりの助成上限額や募集要項のレイアウトに至るまで、内外での度重なる議論を尽くしたうえで決定される。そこに映し出されたメッセージが、できるだけ多くの人びとに届き、かつ読んでくださった人びととその理念を共有できたなら素晴らしいことだと思う。
異論、反論を含め、忌憚のないご意見も大歓迎だ。助成対象者と財団、そして財団と社会という絶え間ないコミュニケーションを通じ、今後もいっそう開かれた、豊かで創造的な助成のあり方を模索していきたい。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.5掲載
発行日:2010年12月14日

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