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財団イベント・シンポジウムレポート

オープンワークショップ「社会の新たな価値の創出をめざして」@福岡を開催しました(研究助成プログラム)

情報掲載日:2017年8月8日


プログラム研究助成プログラム
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5月21日、九州大学の西新プラザ中会議室にて、研究助成プログラムオープンワークショップ「社会の新たな価値の創出をめざして」を開催しました(当日のプログラムはこちら)。プログラムのテーマである「社会の新たな価値の創出」について、どのように取り組んだか、あるいは取り組んでいるか、6名の助成対象者が3つのセッションに分かれて紹介しました。当日は、これらの報告を受け、コメンテータとフロアから多くのコメント・質問がありました。今回のワークショップには30名を超える参加者があり、4月に早稲田大学にて実施した回に引き続き、活発な議論となりました。


  まず、一つ目のセッションでは、「周縁化される人びとのエンパワメント」に関するプロジェクトの報告がありました。河合優子さん(立教大学異文化コミュニケーション学部 准教授)からは、東アジアやトランスナショナルの視点から多文化主義について考え、東アジアにおける多文化共生経験・課題の共有、越境的な対話と連携の促進、多文化実践空間の構築を目指した研究報告がありました。プロジェクトでは、メディアでの表象も含め、多様な人びとが尊重される「文化シティズンシップ」に着目し、台湾とソウルでワークショップを開催しました。そこでは、マイノリティ映像制作者や多文化NGO団体等、多様な人びとが集う都市で交流の空間を創り出し、マイノリティの声を届け共有するプラットフォームとしての効果を残したとのことです。呂怡屏さん(総合研究大学院大学文化科学研究科 大学院生)からは、台湾のシラヤ族に焦点を当てた、博物館との連携を通じた文化復興と文化継承、民族の自己主張とアイデンティティに関する研究報告がありました。博物館では、展示の企画や刺繍の研修を通じてシラヤ族(平埔族)の文化を伝えると同時に、展示企画の際の協同により、民族に対する理解や、シラヤ族自身における自らの文化に対する理解が促進されていることが明らかになりました。今後は、まだ刺繍を伝統工芸として認識していない地域でいかに伝統文化に対する認識を広め、文化伝承活動への参加を促すか考えることを課題とするとのことです。2つの報告に関する議論では、越境的な多文化主義の方法論については映像のもつ力が大きいということがわかった一方、西洋中心のコスモポリタニズムを東アジア地域から考え直すことができればさらに意義深いプロジェクトになるのでは、という意見がありました。



 次に、二つ目のセッションでは、「対話と社会参加、公共圏の形成」に関するプロジェクトの報告がありました。丹羽朋子さん(人間文化研究機構 特任助教)からは、福島の高校生によるセルフドキュメンタリー映像上映会を取り上げたプロジェクトに関して発表くださいました。プロジェクトでは、展示を通じて語り手と聞き手のあいだに「関わりしろ」をつくることで、二項対立を超えた関係を構築することを目指しており、具体的には、私的記録映像の上映会とそこへの人びとの参加を通じて、記録された経験の「語りなおし」の連環とそれによる記録実践を含む出来事の分有を目指す、とのことでした。山崎翔さん(北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院 大学院生)からは、これまでフェスに関する研究には参加者に着目したものが多かったなか、フェス主催者がもつ外側に働きかける力に注目して実施した、フェス主催者どうしの対話会「フェス観測会2016」について報告がありました。従来の地域活性化では見えなかった自生的な地方創世のあり方を見出すことを目指したこのプロジェクトでは、観測会の実施を通じ、フェスが逸脱し続ける動きや運動を生み出してきた点に新しい価値があることを示しました。今後は、フェスの運営をいかに継承していくかを理論的に実証することが課題であるとのことです。2つの報告に関する議論では、お二人のプロジェクトによって、私的記録映像を分有する場を設ける、フェス主催者を集めたワークショップを開催するなど、公共の場で語り合うことで新たな気づきや価値観が生まれることが示されたように思います。



 最後に、三つ目のセッションでは、「科学的知見と社会的合意形成の技術」に関するプロジェクトの報告がありました。末次健司さん(神戸大学大学院理学研究科 特命講師)からは、森の地下生態系の保護方策確立を目指した研究として、菌寄生植物の保全が地下の豊かなネットワークを守ることにつながる、という発表がありました。プロジェクトでは、科学的根拠に基づく保全方法を実際に地元の人びとが実践できるよう、普及活動をおこなっているそうです。黒河内寛之さん(東京大学アジア生物資源環境研究センター 特任助教)は、荒廃が進んだ森林の管理に向けて始まった山づくりについて、発起人である地元の地主と小学生を含む地元の人びとと共におこなってきた活動のようすを報告してくださいました。活動で必要な科学的分析作業については、地元の人びとに関わってもらえるところすべてに関わってもらっており、植物の位置のプロット作業や統計的な処理をはじめ、議論も参加者全員でおこなっているとのことです。今後の展開としては、里山、地域住民、老若男女をつなぐと同時に、子どもたちと一緒に論文を書き上げながら、里山管理の指針を提言したいとのことでした。2つの報告に関する議論では、科学者のお二人が地域に入ってコミュニケーションを取り、人びとの信頼を得ながら大きな動きを起こしていることを素晴らしい活動として高く評価する意見が複数ありました。そのうえで、森林構造の分析時には、人間の生活がどのようにかかわっているか図にすることも、科学によってできるのではないかという指摘がありました。また、科学と道徳は切り離して考えるのではなく、包括的に考えなければならないという意見があったと同時に、地元の人たちに生息環境について知ってもらい、自分たちの地域の宝として認識してもらうことが重要であるという意見も出されました。


 ワークショップの最後には、「価値の創出につながる研究の重要な要素」と本日の発表内容との関連について、コメンテータから次のようなコメントがありました。

・  本日の発表により、「価値の創出につながる」という財団のメッセージは、“自分は当事者である”という感覚をもってもらうということにあり、この方法論をどのように考えるかが重要であることが示された。

・  「社会の新たな価値の創出をめざして」のうち、「~をめざして」というところが要である。社会のことを忘れているわけではないが、“直結して社会”というわけではない。本日の発表では、実験の場を自分で作っていき、そのプロセスや成果をモノや映像を中心に置きながら言語化していこうとする、科研費的な枠組みを超えたものが示された点がよかった。


 オープンワークショップでは、さまざまな分野の研究者が集って発表をおこなうことを通じ、“社会の新たな価値の創出をめざす研究”とはどのようなものか、議論が深まりました。今回を含め、このワークショップが異分野の研究者のあいだで交流の場となり、プロジェクトごと、そしてプロジェクトどうしの学び合いと協同のきっかけとなればと願っています。

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