公益財団法人トヨタ財団

活動地へおじゃまします!

02 中学生がつくる 未来のエコカー

イメージ写真

取材・執筆:鷲澤なつみ(トヨタ財団アシスタントプログラムオフィサー)

活動地へおじゃまします!

[訪問先]
信州大学教育学部附属長野中学校
宮入賢一郎((特活)CO2バンク推進機構)
(2008年度地域社会プログラム助成対象者)
[助成題目]
「環境・モノ」づくり長野—地域で支える世界に羽ばたく次世代を育てよう!

長野に息づく次世代を育てる仕組みづくり

2009年9月12日、13日、長野県長野市にある五輪施設エムウェーブにおいて、1リットルのガソリンで、何キロを走ることができるのかを競う、自作エコカーの燃費競技イベント「エコマラソン長野」が開催された。今年で3回目の開催となるこのイベントは、長野市立篠ノ井西中学校でのエコカーづくりにはじまり、製作したエコカーを走らせたいという生徒の強い思いから、実現にいたった。現在では、地域の人と人との広がりだけでなく、地域の企業や行政、メディアなども巻き込んだ活動となっている。「中学生がエコカーづくり!?」そんな驚きを胸に、今回は2008年度地域社会プログラム助成プロジェクト「『環境・モノ』づくり長野—地域で支える世界に羽ばたく次世代を育てよう!」の活動地へおじゃました。

8月某日、「勉強もかねて行ってきなさい」と思いがけず取材の機会を得た私は、「手作りエコカー」の巻き起こす物語に出会うべく、長野へ向かう電車に乗っていた。長野駅に到着すると早速、今回お話をしてくださるプロジェクト・リーダーの宮入賢一郎さん(NPO法人CO2バンク推進機構理事長)とサブ・リーダーの箕田大輔さん(信州大学教育学部附属長野中学校教諭)らが待つ信州大学教育学部附属長野中学校へ向かった。宮入さんと箕田さんは、共にトヨタ財団の助成対象者である。技術科教諭の箕田さんは、「日本の伝統芸ともいえるものづくりの楽しさを、子どもたちにも知ってもらいたい」と、今から8年前に中学校の技術科目にエコカーづくりを取り入れた。その後、保護者らの理解と協力もあり、活動は順調に進められた。2006年度にはトヨタ財団の研究助成プログラムの助成を受け、「1リットルのガソリンで1000kmを走行する車の条件は何か」という研究を中学生と共に行った。「エコマラソン長野」はそんな彼らが中心となって、地元NPO(CO2バンク推進機構)と協力してはじめた環境イベントである。そして、宮入さんも子どもたちの熱心な取り組みに触発され、2008年度地域社会プログラムの助成を受けて、エコカーづくりや環境イベントを今後も継続的に実施していくための「仕組みづくり」を目指すプロジェクトを箕田さんと共に立ち上げた。

エコカーづくりの魅力とは

エコカーづくりの魅力を語る宮入さんと箕田さん
エコカーづくりの魅力を語る宮入さん(左)と箕田さん(中)
信州大学教育学部附属長野中学校の生徒たち
信州大学教育学部附属長野中学校の生徒たち

挨拶をすませると、まずは今回のプロジェクトのきっかけとなった箕田さんのプロジェクトについてお話を伺った。プロジェクトを見ていくうえでまず注目すべきことは、“エコカーづくりの魅力”である。箕田さんがエコカーづくりをはじめてから、この活動は周辺の学校や知り合いを通じ、次第に交流が広がっていった。かなりの労力を要するエコカーづくりが、なぜこのような広がりを生んできたのか。そこには「面白い」だけでは語りつくせない奥深さがあった。

箕田さんのお話によると、エコカーづくりの魅力は大きく分けて2つある。「ものづくり技術の習得」と「環境保全への意識向上」である。箕田さんは、「エコカーをつくるためには、機械や電気といったさまざまな技術が必要とされます。そういった幅広い技術をひととおり身につけることができるので、エコカーはものづくり教育にとても適しているテーマなのですよ。それに、人が実際に乗ることができる車をつくるには、中途半端な技術力ではできないので、より高性能な車を作ろうと目指すから、高い技術力も身に付くのです」と話してくれた。さらに、環境への意識向上という面では、「いかに燃費を抑えて走行するのか、1リットルという限られたガソリンにどれだけの力があるのか、ということを考えることで、環境に優しい運転の仕方や資源の大切さを学ぶことができるのです」と教えてくれた。こうした魅力から、エコカーづくりは次第に多くの人を巻き込む活動となっていき、中学生だけでなく、高校生・高専生・大学生、社会人や地域へと広がりを見せていったのかもしれない。エコカーづくりには心をくすぐる不思議な魅力があるのだと感じた。

地域を元気にする人と人とのつながり

エコカーづくりに魅せられた人の多くは、製作したエコカーの技術を確かめようと、ガソリンの燃費を競う大会に挑戦する。そこで、次に燃費競技大会「エコマラソン長野」についてお話を伺った。「エコマラソン長野」は、「日本や世界各地で開催されている省エネカーの大会を地元の長野で開催したい!」「家族や地域の人も気軽に見に来られる大会を開催したい!」。そんな思いから、参加者やOB・OGみんなで地域の方々の協力を得ながら運営されてきた。大会が開催されはじめた当初は、仲間内で行う小さな規模のものであったが、今ではエコカーづくりの輪も着実に広がり、子どもから大人まで、幅広い年齢層の参加が見られる。「この大会は、全国大会の予行練習の場としてだけでなく、参加者にとって新たなアイディアや技術を学び、年代を超えた人と人とのつながりを生む場にもなっている」と宮入さん。大会は、地域で薄れつつある“つながり”を再び強め、地域を元気にする重要な素となっているようだ。また、「持続的な活動を行っていくためには、地域の協力が不可欠でしょう」と語る宮入さんは、今後もさまざまな人を巻き込み、引き続き地域の協力を得ながら活動を行っていきたいと、これからの活動に意欲を示した。そして、参加者一人ひとりが、立派なエンジニアの一人として大会に挑んでいる様子から、「こうした大会の開催を通じて、地元の人や子どもたちに、もっと身近にエンジニアの存在を感じてもらえれば嬉しい」。そう箕田さんは笑顔で語ってくれた。

貴重な体験に思わず笑みがこぼれる
貴重な体験に思わず笑みがこぼれる

取材を終え、エコカーの魅力にどっぷりと浸った私は、帰り際に「エコカーに乗ってみますか?」という思いがけない言葉をかけてもらった。喜び勇んで部屋の片隅に置かれていた2台のエコカーに歩み寄り、エコカーに乗り込もうとした。しかし乗れない!! 体を左右にねじってもなかなか座席に座ることができなかったが、コツを教えてもらいなんとか操縦席に乗車することができた。そして、中学生が製作したとは思えない立派なエコカーを細部まで見渡した。これがなんとも凄いこと! 改めてその技術の細かさに驚き、さらなる魅力を感じてしまった。エコカーづくりが、生徒にとって、楽しく充実した活動として受け入れられているのだということを十分体で感じることができた。

9月に行われた大会は、天気にも恵まれ、会場は沢山の人々で賑わっていた。今年の大会では、昨年の記録である515km/Lを大幅に上回る1029km/Lという記録も生まれ、参加者は来年に向けて新たな闘志を燃やしているようだった。地域にとって、この大会は、子どもの成長を共に見届け、応援する大切な場となりつつあるという印象を受けた。
“手作りエコカー”の物語はまだまだ始まったばかり! 今後、地域でどのような広がりを見せていくのか、箕田さんと宮入さんたちの挑戦はこれからも続く。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.2掲載
発行日:2009年10月15日

ページトップへ