公益財団法人トヨタ財団

  • 国内助成プログラム

2022年度国内助成プ­ログラム ­選後評

選考委員長 飯盛 義徳
慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科 教授

2022年度の国内助成プログラムは、「新常態における新たな着想に基づく自治型社会の推進」というテーマを掲げて公募を実施した。

本プログラムでは、歴史的な転機に直面していると考えられる日本社会の現況を踏まえて、情報技術を積極的に活用しながら、既存のシステム制度や手法、従来の発想に縛られないユニークな取り組みに対する助成を行うべく、本年度は以下の2つの枠組みを設定した。

1つ目の枠組みは、日本全体で自治型社会が推進されていくことを目的とし、各地域における自治の基盤づくりの動きを支え促進すると共に、社会全体に波及する仕組みや制度づくり、その担い手となる人材の育成に取り組む【1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成】である。2つ目の枠組みは、一人ひとりの「暮らし」を起点に、地域資源や人と人との関係性を見つめ直し、多様な関係者との対話を重ねながら地域内の主体性や参加の仕組みが育まれていく基盤づくりに取り組む【2)地域における自治を推進するための基盤づくり】である。

全国各地から寄せられた応募に対し、それぞれの枠組みでの要件や重点事項などの基準に照らして、以下のプロセスで厳正なる選考を行った。

選考結果について

4月4日から6月6日まで公募を実施し、1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成:30件、2)地域における自治を推進するための基盤づくり:107件、計137件の応募をいただいた。

また、公募期間中には、新型コロナウイルス感染症対策のため、オンラインによる公募説明会をトヨタ財団の主催並びに各地の中間支援組織との共催にて、合計7回開催した。最終回では定員を増加して対応するなど、数多くの方々に関心を寄せていただいた。

選考委員会は、5名の選考委員で構成され、事前に実施した書面評価の結果をもとに終日掛けての審議を行った結果、1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成:3件、2)地域における自治を推進するための基盤づくり:8件、合計11件を助成対象候補として決定した。また、1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成の枠組みにおいては、発掘型公募の企画についても同時に審議した。本年度は、岩手大学地域防災研究センターの「いわて防⼈リーダーBANK(防災の学び・交流の場)」プロジェクトが選出された。

1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成、2)地域における自治を推進するための基盤づくりの両枠組みともに、新しい自治型社会の構築ならびに自治に基づく社会課題解決に立ち向かう多彩な分野のプロジェクトを選出することができた。

助成対象候補となった印象的なプロジェクトを以下、簡単に紹介させていただく。


【1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成】

[企画題目]新たな自治のあり方を探究するエコシステムの構築 ―実践・学習・研究開発の循環
[プロジェクトチーム名]共創型コミュニティプラットフォーム Share Village
秋田県五城目町の茅葺き古民家活用プロジェクトなどの実績をベースに、プラットフォーム参加者同士の学習・支援関係を形成し、オープンなシステム開発環境の構築を行うプロジェクト。全国規模で、地域や暮らしを自治する、コミュニティづくりの民主化を支えるエコシステムづくりを目指す。
多様で小さなコミュニティが自律分散的に生まれ、「コモンズ」をいかして緩やかにネットワークするという方向性は説得力のあるものであり、相互扶助につながるさまざまな仕組みを現代に活かすためのアプローチが高く評価された。


【2)地域における自治を推進するための基盤づくり】

[企画題目]自治型社会を担う地域マネージャーの育成プログラムの構築及び配置プログラムの設計
[プロジェクトチーム名]次世代につなぐ中山間地域の新しいコミュニティマネージメント研究会
島根県邑南町において、「地域マネージャー人材育成プログラム」を構築し、自治型社会の基盤づくりを行うプロジェクトである。地域マネージャーの育成は、自治を推進する基盤づくりには不可欠のポイントであり、社会的意義が大きい。いくつか課題はあるものの、地域に密着しているからこそわかる課題であり、これからの成果が期待できるプロジェクトであると評価された。

[企画題目]としまこどもつながるプロジェクト〜地域一体で子どもを支えるプラットフォーム
[プロジェクトチーム名]としまこどもつながるプロジェクト検討チーム
東京都豊島区の子どもたちが生まれた環境に左右されず、豊かな未来を生きていくために、多様な主体との連携・共創を促進するプラットフォームの構築を通じて、地域一丸となって子どもを支え合う社会の実現を目指すプロジェクト。都市部における自治を推進する具体的方策として内容がわかりやすく、他地域の範となるプロジェクトであると評価された。

選考委員からのコメント

次に、本年度の選考プロセスを振り返り、選考委員から挙げられたコメントをいくつか紹介させていただく。今後の応募の参考になれば幸いである。

【1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成】
・プロジェクトの領域や対象の年代など多様性が広がっていると感じた。
・ICTの利活用は不可欠だが、日本全体に自治型社会が広がる仕組みについてもう少し工夫がほしい。
・もう少し人材の確保・育成については詳しい説明がほしい。プロジェクトの持続性にも大きな影響があると考える。

【2)地域における自治を推進するための基盤づくり】
・ワクワクするような、楽しい内容が多かった。
・自治型社会をどのように捉えるのか、その根本のところと実際に推進する内容がうまく合致するように工夫してほしい。
・自治型社会を実現するには、事業が終了しても何らかの活動が継続することが大切であり、その仕組みを説明してほしい。

最後に

本年度も多数の応募をいただき、心から感謝を申し上げたい。社会課題の対象領域や地域、年代ともに広がっており、ユニークな視点やアプローチを有したプロジェクトが多く、百花繚乱の様相であった。選考委員一同でこれからの展開に期待をしている。

本年度のプログラムのキーワードである「自治型社会」をめざすには、多様な人々が参画し、地域の課題を自分事として捉えていくようになることが大切である。しかし、「自治型社会」を実現するためには、かなりの時間を要する。そのため、人材の確保・育成につながる仕組みを取り入れるなど、プロジェクト期間が終了しても、何らかの活動が継続するように考慮しなければならない。

選考委員会では、しっかりと企画書を読み込んだ上で、全員が一件ずつに意見を寄せ合い、議論を尽くした上で選考した。残念ながら助成対象から外れてしまったプロジェクトの中にも、社会課題に真摯に向き合い、それを解決したいという情熱を感じるものが多々あった。これからも歩みを止めることなく、再度チャレンジをしていただければと願っている。

応募件数 助成件数 採択率
1)日本社会における社会サービスの創出や人材の育成 30 3 10.0%
2)地域社会を支える共創によるプラットフォームの創出や整備 107 8 7.5%
合計 137 11 8.0%
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