トップページ  >  助成応募案内  >  研究助成  >  選後評

研究助成選後評

選後評

2008年度トヨタ財団研究助成「くらしといのちの豊かさをもとめて」の選考について

選考委員長 国谷史朗

1.応募件数、採択プロジェクト件数、採択率など

トヨタ財団研究助成プログラムが、その基本テーマを「くらしといのちの豊かさをもとめて」に設定してから、第三年度目の選考(事前評価)が終了した。当初の応募総数は437件であり、2006年度の795件、2007年度の751件と比較すると大幅な減少となった。これはプログラムのフォーカスを絞り込んだためと財団事務局側では判断している。本年度のプログラムの主題は「グローバル化のもとでの地域の活性化」であるが、ここでいう「地域」は日本国内の地域であると国外の地域であるとを問わない。重点領域として(1)人づくり、(2)制度改変、(3)シンボル・文化の創造、再創造、(4)新たな資金の流れ、(5)地域の再編成のための拠点形成、(6)新たな人の流れ、の6領域が設定された。応募437件を重点領域別に分類し、上位に位置するものを挙げると、(1)人づくりが254件、(3)シンボル・文化の創造、再創造が201件、(5)地域の再編成のための拠点形成が204件(複数回答可の条件で)となった。

選考委員会においては、第一次選考を通過した案件を、(イ)設定した課題の妥当性・明晰さ、(ロ)方法上の妥当性、(ハ)成果の社会に与える波及効果、及び(ニ)革新性(上記3点に該当しなくても、プログラムの発展に寄与すると思われるもの)の点から各5段階評価をし、選考委員5名がそれぞれ推挙する案件を選考した上で選考委員会をもった。委員会における採択件数は26件、採択率は5.9%であった。本年度は社会からの認知性を上げること、社会へのインパクトをより持たせるという観点から、採択件数を絞り1件当りの助成額については必要に応じてある程度まとまった額を提供するという方針で臨んだ。その結果、昨年度の採択件数53件に比べ採択件数はほぼ半減した。助成額については最小180万円最大900万円、500万円前後が平均的なものとなった。

2.採択されたプロジェクトの課題、成果、課題達成のための方法論などの傾向

採択された26件のプロジェクトのうち大学教授、准教授など大学関係者が17件と多数を占めた。採択に当っては抽象的な課題設定や方法論に現実性がないものについては厳しい目で臨んだが、大学関係者のプロジェクトチームの中にはプロジェクトの実現可能性、社会の波及効果を意識して行政官、NPO関係者、政治家、実業関係者などを含むものが多く、これはプログラム選考要領における「望まれるプロジェクトチームのスタイル」における要望を意識したものと思われる。このようなチーム編成の結果、企画書を見る限り実効性等においてより説得力のある企画が相当数含まれているものと感じられた。

以下、課題の設定、地域、成果物の形態、利用方法等について特徴的な点をまとめてみたい。

(1) 設定された課題と地域

高得点で採択されたプロジェクトには、一定の特徴が見受けられる。即ち、今日的課題として適当と思われるもの、社会や制度の改革のためのインセンティブとなり得るもの、特定地域と課題とを具体的に強く結びつけたものなどである。

国内外の別については、外国からの申請案件のうち、結果採択されたものは3件(韓国、中国、カンボジア各1件)となった。外国からの申請案件の他に、日本からの申請案件であっても外国の「地域」を課題の対象としたものも相当数あった。外国からの申請案件の他に、日本からの申請案件であっても外国の「地域」を課題の対象としたものも相当数あった。「地域」については国内外の限定はないが、外国の特定「地域」を課題対象とするもので効果が直接的ではなく、日本と全く関係がないものについては採択されにくい傾向があった。日本との関係を要件としていないものの、課題の現実性、成果の波及効果等を総合的に検討した上での選考であった。

ここで、選考委員会から特に高い評価を得た2案件について紹介する。

松下潤(芝浦工業大学 教授)
「高齢者の自立・健常に向けた郊外住宅地の住環境再生モデルの提案 ー多摩ニュータウンを対象地区とする歩行モビリティ計測及び介護コスト推計をふまえて」(900万円/2年間)

上記案件は、首都圏における住宅地域での高齢者激増という今日的課題に対し、地域に暮らす高齢者の実証的な歩行データをもとに、現状の住環境の問題点を把握し、将来のニュータウン再生計画を視野に入れた上で、高齢者の健常効果の高い先端的な住環境再生モデルを構築するという野心的なプロジェクトである。今後、他地域への汎用可能性も含め、大いに期待したい。

山崎幹根(北海道大学 教授)
「スコットランド分権改革の実証的検証を通じた北海道活性化の構想づくり」(200万円/1年間)

上記案件は、北海道と地理的条件の類似したスコットランドにおいて、その先進的な分権改革の成果を検証し、取り入れることで、北海道の自立的な地域再生を促すことを目的とするプロジェクトである。今後の日本における道州制論議において資するところ大であり、積極的に住民や有権者への働きかけを行うことで、より実践的な成果を期待したい。

(2) 成果の形態、発信方法など

成果物の形態としては、学術論文、専門書等の書物に加え、DVDなどの映像作品、ハンドブック、データベースなどが増える傾向にあるのは昨年度と同様であった。大学関係者からの申請で自らの研究への学術的成果の追加以外の成果が見えにくいものについては採択は難しいが、企画書の記載内容からそのようにとれるものは多くはなかった。

3.次年度以降への提案

本年度の選考の過程を踏まえて、次年度以降のために以下のような提案を行いたい。

(1)本年度の選考の目標として、ある程度数を絞った上で1件当りの助成額を増額するいう点があげられ、その面では一定の成果が出たと考えられるが、この水準をもって十分と言えるのかどうかの検討、検証が必要であろう。申請されたテーマの中にはより多額の助成を得なければ目標を達成できないと思われるものが何件かあったが、当財団の研究助成としてそのようなものを対象とするのか、財団の助成理念との関係でも継続的検討が必要であろう(例えばプロジェクトによってはJICAや国の予算を使う方がより適切と思われるものもある)。

(2)すでに努力されてきているようではあるが、使われた助成金の成果への結びつきの検証をより実証的に行うことが望まれる。評価と検証をより効果的に行うためには、企画書段階におけるテーマの絞込みと実現可能性についてのアドバイスが望ましい。既に一部実施されている、財団から応募者に対するプロジェクト内容についての指導は一定の成果を上げており、今後更に上げうるように思われる。容易ではなかろうが、採択されたプロジェクトが期待された成果を上げない場合、その原因の分析を継続的に地道に行うことが大切であろう。その分析結果が次年度以降の選考委員にフィードバックされれば選考にとって有意義なものとなろう(例えば、企画書にリストされたプロジェクト参加者の誰が何をどの程度実行したのか、名義貸し的なメンバーはいなかったかなどの確認)。

(3)財団のプログラム・オフィサーの質は高く、真面目にプロジェクトを評価し課題が実際に実現されているのかをフォローしようとしているように見受けられる。昨年度までは、選考委員の選考過程における議論の際、財団プログラム・オフィサー等の意見陳述は意識的に控えられたとのことであるが、本年度においては事前検討調査の過程で財団プログラム・オフィサー等が気づいたこと、既になされた改善要求、予算の絞込み等の分析などについての意見をできるだけ委員会の場で説明して頂いた。これらのインプットは大変有益であり、委員による討議、分析をより充実させることができた。次年度以降も、財団プログラム・オフィサーのリソースを最大限有効利用し、選考委員の独立性を保持しながらより適切にプロジェクトを選択し、採択されたプロジェクトが実際に遂行できるようなフォロー体制を充実していくことが望ましい。

このページの先頭へ