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地域社会プログラム選後評
地域社会プログラムの選考終えて
選考委員長 中村 安秀
1.地域に根ざした仕組みづくり
地域社会は、人びとがお互いのくらしといのちを支え、育む、基本的な生活の場である。この地域社会の再生・振興が各地で盛んに叫ばれるようになり、すでに久しい。グローバル化のうねりや少子高齢化の進展などを背景に、多くの地域が疲弊し衰退するなかで、活力ある地域づくりに成功している事例も決して少なくない。
トヨタ財団2008年度地域社会プログラムでは、「地域に根ざした仕組みづくり―自立と共生の新たな地域社会をめざして」という基本テーマを掲げ、「地域社会の活性化」、「地域における共生」、「地域を担う次世代の育成」の3つの「重点領域」を設定した。地域社会が包含している豊かな資源(人、モノ、資金、情報など)を動員すると同時に、外部の資源を有効に取り込むことのできる新たな地域の仕組みを形成することが求められている。
私たちは、地域に根ざした仕組みづくりを通じて、地域社会における重要な課題の解決に取り組む実践的なプロジェクトを支援することとした。時限を区切り、課題・方法・目標を具体的に設定したプロジェクトを支援することにより、単なる官主導の事業の補完にとどまらず、地域社会の再生・振興に向けて意義ある助成を行いたいと考えた。
とくに、一定の自己資金あるいは自主財源が確保されていること、仕組みづくりが一過性で終わらないよう持続性や波及効果をもたらす工夫がされていること、領域や世代において適切な広がりを有したメンバー構成であることなどに留意した。
2.自立と共生の新たな地域社会をめざして
2008年10月8日から11月17日までの募集期間に、大阪、東京、盛岡、長野、福岡、広島で公募説明会を実施した。応募件数は、本体537件、ユース助成41件にのぼった。本体への応募のうち、離島助成は68件、助成重点区の中国地方83件、北陸地方22件、甲信地方54件であった。また、47都道府県のすべてから応募があった。地域に生きる人々が主体となり、地域社会の再生・振興に向けて、具体的な課題解決につながる「仕組みづくり」に取り組む、意欲的なプロジェクトが数多く寄せられた。また、2008年度から、地域社会プログラム本体に組み込み、同じ募集要項、応募用紙にて公募を行った「離島助成」についても、地域のニーズに適合した有意義なプロジェクトが多かった。
選考については、5名の識者からなる選考委員会において、慎重に討議を重ねた。地域社会プログラム本体では、魅力的で実践的なプロジェクトが多く、不思議なくらいに、選考委員の推薦が一致したのが特徴だった。ここでは、選考委員から高い評価を得たプロジェクトを紹介したい。
| 「限界集落『じいちゃん・ばあちゃん、ここに居れるでョ』応援事業」 |
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| 北山佳生さん(せ-の!!海部郡) |
| 本プロジェクトは、限界集落化の恐れのある徳島県海部郡(海陽町、牟岐町、美波町)において、高齢者の多い住民が住みなれた場所で長く暮らせるための仕組みを実現しようという試みである。具体的には、徳島県内の人材をフルに活用して、小規模多機能型介護施設や乗合便、緊急コールセンターなどの事業を立ち上げ、それらの事業の一括拠点として廃園となった保育所を活用する。本プロジェクトの成果は、他地域の限界集落においても参考となることが期待される。 |
| 「地域で子どもが共生する力を育む多文化子ども共育センターの設立」 |
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| 志岐良子さん(多文化子ども共育センタープロジェクト) |
| 本プロジェクトは、外国にルーツを持つ子どもが多く暮らす神戸において、地域で多文化の子どもたちがともに育つ場を提供することをめざしている。具体的には、地域の保育、学校関係者、住民を巻き込んだ企画委員会を立ち上げ、多文化子ども共育くらぶ(多文化学童事業)といった子どもへの支援にとどまらず、母親のサポートや外国にルーツを持つ人を支える人材の育成などを行う。こうした多様な活動を支える仕組みづくりとして「多文化子ども共育センター」が運営され、長期的には、共生社会を担う未来のリーダー育成が期待される。 |
| 「赤レンガプロジェクト ―春日井(愛知県)、多治見(岐阜県)の県境を跨ぐ旧国鉄トンネル群からなる産業遺産の保存再生活動」 |
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| 村上真善さん(旧国鉄トンネル群保存再生委員会) |
| 愛知と岐阜の県境を通るJR中央線に並行し8キロにわたり国鉄時代の旧中央線廃線跡が残っている。本プロジェクトは、その8キロ間の全貌を解明し、市民や地元行政とともに保存活用に向けて議論を行い、賢明な再活用・再利用をめざすものである。具体的には、トンネル跡を「愛岐トンネル群ネイチャーロード」として開放し、地元自治体やJRを巻き込んで、新たな観光資源として地域活性化の起爆剤としようとするものである。 |
| 「自立・持続可能な地域づくりのための土沢ファンドプロジェクト」 |
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| 武政文彦さん(土沢地域活性化協議会) |
| 岩手県花巻市土沢地区においては、中心市街地活性化を担う住民主体のまちづくり機関の設立、商店街や民家を活用した「街かど美術館」、「土澤ちょこっと市」の開催など、地域の活性化をめざす様々な取り組みが行われてきた。本プロジェクトでは、これらの試みを持続的に展開するための仕組みづくりとして、地域内の資金循環をめざす地域ファンド「土沢ファンド」を立ち上げる。持続的な仕組みづくりのモデルとして地域に定着することを期待したい。 |
ここであげたプロジェクト以外にも全国から様々な魅力的なプロジェクトが提案された。いずれも地域で暮らす人びとが、地域内外の多様な人びととの間にネットワークを構築し、建物や農産物や歴史という地域に内在するかけがえのない資源を活用し、地域社会の再生や振興に取り組んでいこうという意欲とエネルギーにあふれていた。長く地道な活動に取り組んでいるプロジェクトも多く、地域社会のなかに、すばらしい経験と知恵がすでに蓄積され、それらが人びとに共有され、次世代に伝承されていこうとしていた。
ユース助成においては、プロジェクトの効率牲や効果といった大人の基準で判断するのではなく、若い力のもつ将来性と潜在力に大いに期待したいと考え、募集要項にある「若い力で町に元気をとりもどす活動」や「明るい未来を予感させるアイデアにあふれた活動」をキーワードに選考を行った。以下、2つのプロジェクトを紹介する。
| 「えき・まち活性化プロジェクト」 |
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| 渡部さやかさん(えき・まち活性化プロジェクトチーム) |
| 1982年から町民駅として親しまれてきたJR羽前小松駅が無人化になるかもしれないという情報を知った山形県立置賜農業高等学校の生徒たちは、「えき・まち活性化プロジェクトチーム」を募り、2006年から駅とその周辺の市街地活性化に取り組みはじめた。本プロジェクトは、従来の取り組みをさらに広く展開することをめざしたものである。生徒たちが自主運営する駅前産直店の開店、住民とともに通学路の美化を進める市街地ボランティア、学校と町の特産品を活用したオリジナル食品の開発など多岐にわたる事業を展開する。高校生が街の活性化の一役を担うプロジェクトとして成果を期待したい。 |
| 「ゆるやかネットワークを作ろう!」 |
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| 玉城圭記さん(ゆるやかなネットワークを作ろう!) |
| 地域活動やボランティア、祭りなど街中には面白いものがたくさんあるのに参加する高校生が少ない。このような課題を感じた沖縄の高校生たちが、学校を超えたゆるやかなつながりをつくることで、学校外の活動に若者が参加することをめざして立ち上げられたプロジェクトである。学校という枠をこえて地域で若者たちが交流することにより、街が活性化し、多様な人が交流することのできる地域社会が実現されることを期待したい。 |
ここにあげたプロジェクトをはじめとして、いずれも若い感性と行動力に裏打ちされた意欲的なプロジェクトが光っていた。
選考委員による長時間にわたる審議の結果、地域社会プログラムの本体28件(助成金額合計1億819万円)、ユース助成20件(助成金額合計1,000万円)が助成対象候補として決定した。
3.地域社会プログラムとしての発展を期待
地域社会プログラムの選考の過程において、さまざまな今後の課題や将来性についても話し合われた。
地域内の資源を活用し地域社会の再生や振興を図る事業は、本来的には行政が担うべき役割である。すでに構成メンバーに地方自治体の方々が参加しているプロジェクトも少なくなかった。しかし、限られた期間内で「仕組みづくり」に取り組むプロジェクトは、長期的な視点で実施される行政事業と性格を異にしている面もある。今後は、地域社会プログラムと行政の有機的な関係性のなかで、お互いの特長を活かした息の長い協働作業が求められるであろう。
また、地域に暮らす人と外部からの支援者の関係性、個々のプロジェクトとトヨタ財団の地域社会プログラムとの関係性についても、議論が行われた。贈呈式で他のプロジェクトの事例報告を聞いたことが契機となり、新たな展開をみたプロジェクトが報告されている。財団には全国の各地で活動している個々のプロジェクトをつなぐ役割を今後も期待したい。また、経済危機や医療崩壊といった一つの地域だけでは解決できない緊急的な課題に関して、積極的に助成を行う可能性なども考慮していく必要があろう。
4.土のひと、風のひと
2004年12月のスマトラ沖地震・津波で未曾有の被害を受けたアチェ州における人道支援に関して、2008年8月に研究者、国際機関、NGO、メディアなどから構成される学際チームによる調査を行ったことがある。北アチェ州の農村では、日本人宣教師が被災した村をたまたま訪れ、村の農民は宣教師とともに有機農法に取り組みはじめ、彼が村を訪問してくれることを心待ちにしていた。敬虔なイスラム教徒の村で日本人宣教師が指導する有機農法という、突拍子もない人と人の結びつき。また、1978年にドイツの飛行機が墜落したマラッカ海峡に面した漁村では、ドイツのNGOが津波後の復興支援として漁船や研修などの支援を行っていた。30年近い年月を隔て、災害がマラッカ海峡沿いの村とドイツを直接結びつけた。
地震や津波で大きな被害を受けた地元の民が、災害後の人道支援という形で外部からやってきたよそ者と出会う。共生人道支援は、悲惨な災害がなければ恐らく絶対に出会うことのなかった地元民とよそ者が紡ぐ織物である。
おなじことが、熊本県水俣で始まった「地元学」でもいえる。地元学では、地元に存在する「あるものさがし」のなかで、どこにでもあるもの、よそにはないものを探す作業を通じて、それらを新しく組み合わせる想像力を大切にしている。そのときに、地元に暮らす土のひとだけで行うのではなく、外部からやってきた風のひととの協働作業が重要である。風のひとの役割は、教え導くことではなく、地域のもっている力を引き出す触媒であり、土のひとが変わっていくまで、ゆっくりと待つ心構えが求められている。
今回、助成を受けた地域社会プロジェクトを土のひととするなら、財団は風のひとに相当するであろう。地域社会の再生や振興に取り組んでいこうという意欲とエネルギーにあふれたプロジェクトが成長し発展するための触媒としての機能とともに、プロジェクトが熟成するのを気長に待つ温かなまなざしが求められている。
"Think Globally, Act Locally"(グローバルな世界を視野に入れて、いま暮らしている地域から地道に取り組んでいこう)。言いふるされた言葉ではあるが、地域社会の再生・振興に向けて地域に根ざした仕組みづくりに取り組むプロジェクト関係者にこの言葉を贈りたい。地域での地道な活動が国境や民族を越えて外部世界とつながり、国内外での先駆的な活動の成果や情報を取り入れ、地域の持続的な活性化につながることにより、地域社会プログラムの成果がグローバルな共有財産となることを期待したい。




